010 尋問/トモダチ
2009年 12月
伊右衛門牧場が綾鷲牧場になる。
爺様への事情聴取が始まった。
粗雑なパイプ椅子に縄で縛りつけられた爺様を取り囲むのはいつもの面子。
四神、エファーとエリン。
それに加えて、可児塚先生もいる。
可児塚厩舎にとって伊右衛門牧場は最も付き合いの長い取引先である。
座視しているわけにはいかないのである。
「なあ、ジーサンよう? キリキリ吐いてくれや」
ヤンキー丸出しで問い詰めるのは、爺様を縛り付けた張本人であるヤダルである。
「オーナー、手荒な真似は好きじゃあねえんだ。素直に頼むぜ?」
手荒な方のカミサマであるモダは、笑顔が非常に輝いている。殺気で。
「私を相手に、嘘が付けると思わないで」
アルスは目をかっ開いている。
「急な話なので、私も説明してほしいな」
普段、非常に温和なエファーすら、手荒な処置に文句を付けない。
『モモの血縁なら、トリガーを引ける』
エリンは殺意マシマシである。それはやめて差し上げろ。
ヴーヴァは、栗東でお気に入りと戯れているので不在である。
「えーとな。経緯から説明するか……」
四人の、特にエファーの態度にショックを受けつつも、爺様は説明を始めた。
簡単に言えば、東西戦争である。
東の伊右衛門が、競馬業界とはいえ西の綾鷲に一歩抜きんでる名声を得ることとなった。
これが引き金を引いたのである。
伊右衛門と違い、綾鷲は競馬にほとんど関りがない。
そのため、いきなり背後から刺されるように、外部から“伊右衛門が”どうのこうのと言う話を振られることが多くなってから気が付いたのだ。
競馬業界とはお金持ち業界でもある。
名士のパーティーで、
「そういえば、あの伊右衛門と関係があるようで……」とか、
「もしよければ口添えを……」とか、
「ぜひ一度、“あの”伊右衛門牧場に……」とか。
綾鷲の家の話ではなく、嫁いだ家の話を多く振られることとなるのだ。
気分が良いはずがない。
綾鷲の当主としては、更に、
可愛い妹を奪った相手である。
憎さが倍増したわけである。
では、伊右衛門に意趣返しするにはどうするか。
そして、妹(ばあ様)に嫌われずに大義名分を得るためには?
綾鷲の当主は伊右衛門牧場にばあ様をさりげなく誘導し、可愛いものが好きなばあ様から、一言引き出すことに成功する。
『あの馬の仔が欲しい』
ヨシ!
聞いた当主は、直ぐに実行に移した――。
「いや、おかしいじゃろ」
その一言は、昨日の話じゃ。
時系列が合わん。
「爺様がオーナーなんじゃろ? それを即日どうこうできるワケが無いじゃろ」
「……」
ダンマリする爺様。
「オウ! ジーサン!」ヤダルが激高するが。
「モンジロウ、本当のオーナーは、誰?」
姉であるアルスが爺様をのぞき込むと、静かになる。
「……名義上は、妻じゃ」
非常にか細い声でボソボソ答えるのを聞いて、ワシらは天を仰いだ。
だが、切り替えよう。
「なあ、爺様。綾鷲は、伊右衛門の競馬での名声を羨んで、こんなことをした、というのは本当なんじゃろな?」
「そこには嘘が無いように見えた」
「綾鷲はどの程度、競馬を知ってるんじゃ?」
「ワシの妻が、この前、レディーを知ったレベルじゃ」
では、ほとんど知らないどころか、新聞すら読まない程度じゃな。
よし、方針は決まったぞ。
「ちょいと、ばあ様の実家に年末の挨拶に行ってくるか」
伊右衛門の家が洋風なのに対して、綾鷲の家は純和風。
中身がところどころ洋風になっているので、和洋折衷建築である。
「でえ? 百々ォ? 用は挨拶ってだけじゃあ、ねえだろ?」
どう見ても堅気ではない。
が、実業家である。決して、アレではない。
綾鷲の当主で、ばあ様の兄である男が目の前にいる。
綾鷲 公邦。公家みたいな名前でこの顔面だ。
まあ、ワシの背後には、
ヤダル(堅気)
モダ(ほぼ堅気)
アルス(どう見ても弁護士)
カチコミ三神が揃っているのである。
恐れることは無い。
エファーは一緒に来ると言ったエリンの抑え役で、ともに旧伊右衛門牧場で留守番である。
「牧場の件ですがね、手ェ、引いてくれんでしょうか?」
おっと、雰囲気に流された。
「変な事を言うなあ、百々ォ。筋合いが無い、わかるか?」
「筋が無え、そりゃ、キミクニ、貴様じゃ」
響く重低音。
轟く重圧感。
互いに意見が平行線。
「なんも知らんのかあ? ほれ、早めのお年玉をくれてやる、帰れ。」
非常に分厚いポチ袋である。
「おうおう、それっぽっちの端金で、てめえ自身の名を捨てちまえるんだから、安い家じゃな。金はいらん。邪魔したな」
処置ナシ、利害の分からん馬鹿とはこれ以上話しても無駄じゃ、と聞こえよがしにカチコミ三銃士に……三神だったか? とにかく声を掛けて席を立つ。
「おい!」
障子もガラス戸もガタガタと揺れる。
並みの相手なら、それでガタガタするのかもしれない。
が、ワシらは微動だにせん。
「何を、知っている」
キミクニは、ワシらが“何かを確信している”事を直感で嗅ぎ分けたらしい。
だが、“それが何か”は分からん。
だから脅して聞こうとした、という段階である。
教えてやろう。
「爺様からあの牧場を取り上げた時点で、綾鷲牧場に名前を変えても上手くいくわけないじゃろ」
芝居は終わりじゃ。
「何故?」
「綾鷲牧場が旧伊右衛門牧場である事は、直ぐに競馬界の知るところとなる。そうなれば、貴様の計画は総スカン、と言うより悪名でマイナススタートじゃ」
「何ィ?」
「で、伊右衛門牧場のスタッフも、こ奴らを含めて、別に移る。気にするな、こ奴らが無職と知れば、いくらでも手を挙げるところはあるわい。良かったな。レディーと、ばあ様が欲しがった仔馬は手に入る。次の年は? その次の年は? 金を積めば、誰か来るかもしれんのう。伊右衛門牧場も知らん、モグリ野郎がな。で、ばあ様は、年々、あの騒がしかった牧場が寂しくなっていき、元気もなくなり、活気の失せた牧場を目にするんじゃな。素晴らしい! 妹の願いで心中するとは、兄の鑑じゃな!」
「貴様ァ!!」
ドンッ! と。
キミクニが大喝と共に威圧するが、ワシも言う事はまだあるんじゃ。
「そもそも!」
ダアン! と。
ワシがキミクニに対抗して踏み込むと、畳が数枚舞ったが、こんなもんじゃろう。
絶句しているキミクニは見ないことにする。
「馬が、犬猫のような愛玩動物とお思いか! 時折、死ぬ思いをしながら付き合う事もある!(エリンとか本当に殺しに来る) 馬も、死ぬ思いをして走ることもある!(ハーツとか) 無知もいい加減にしろよ、キミクニィ!」
まーだまだ、言いたい。
「ワシらが、どれだけの苦労をして馬と戦っているのか! 貴様の妹にも言ってやれ! バカスカ餌をくれてやりやがって! 豚か牛と勘違いしてるんじゃないか! オーナーがばあ様名義になっている、それは貴様らの言い分じゃ! こっちには徹底抗戦の準備がある! 気軽に、玩具をあげるのとは、全く違うと知れ!」
餌の件で、モダが“良いぞ、もっと言ってやれ”とガッツポーズした。
徹底抗戦の件で、アルスが静かに闘志を燃やした。
ヤダルは、いつ喧嘩になるのかと、ワクワクしている。
だが、ワシも鬼じゃない。
飴と鞭じゃ。
「で、だ。馬に興味はあるか? あれば、一から教えてやる」
エファーがな。
あと、偶にヴーヴァも。
アルスとヤダルには申し訳ない事に、
その後、至極穏便にことは進んだ。
即日、キミクニを伴って綾鷲牧場に向かう事となった。
移動の車内で、キミクニがしきりに喋っていたのはヤダルである。
どうも、“堅気”つながりで同族の気配を嗅ぎ取ったらしい。
ヤダルもヤダルで、“モモには関わんない方が良い”と言いつつも、
これまでの競馬のアレコレ――ハーツが倒れた有馬からこちらに来ているから、それなりに話題は豊富である――を話し、キミクニもそれに感心するように聞き入っている。
特にヤダルが関わっているのが騎手であるから、そのエピソードも色々ある。
こう鍛えて、こうしてレースを運んで。
それに、医学的な見解で補足するのがモダで、キミクニの方でも、モダが立場上獣医をやっている、という取っ掛かりから、興味深く二人の話を、質問を挟んで聞いていた。
綾鷲牧場に着いた頃には、一人の競馬オタクのヒヨコが出来上がっている訳であった。
キミクニは牧場に着くなり、爺様に謝罪した。
そして、旧伊右衛門牧場は、伊右衛門牧場に戻った。
だが、ここからが予想外である。
「だがあ、な。俺も、競馬やりたくなったぁ」
綾鷲公邦が、早速馬を買いたがったのだ。
爺様は難色を示したが、ワシは爺様に言った。
「これでシガラミがちょっとはマシになるんだから、安いもんじゃろ」
しぶしぶ、爺様は許可した。
キミクニが買ったのは、流石兄妹と言うべきか、イエモレディー2008-1である。
「こいつだ」
迷惑料なのか、“白紙の”小切手を手渡してきたが、ギリギリの価格である5,200万を小切手に記入してキミクニに提示した。
「競馬初心者なんじゃろ? サービスしてやる」
それ、ワシの仕事……と小言を言う爺様は無視した。
厩舎に預けるまでは、伊右衛門牧場での管理となる。
つまり今まで通りなのだが、
「で、名前はどうする」とワシはキミクニに聞いた。
オーナーが決まったのだ。名づけをせねばならん。
勝手に名付けるがいい。
ワシは知らん。
2010年 1月
今年は、南アフリカWCである。
前回のドイツWCは、馬が本業のような歪な生活を送っていた。
甚だ不本意ではあるが、後悔は一切ない。
レディーとディープが駆け抜けたのが2006年である。
ところで、
サッカーの“客観的価値”について考えたことはあるだろうか?
「モモ兄さん、今日、クラスのヤツにこんな事を言われたんだ」
“サッカーは、僕たちエリートには似合わない、君もそう思わないかい?”と。
相手も無学ではなく、サッカー発祥の地では、サッカーは労働階級の趣味と見られていること。
フーリガンなどの、民度に問題があるファンがいる事。
などなど。
「誰が言ったんじゃ?」
「知らないやつ。僕もカチンときて、言い返してやったよ」
“僕の将来の夢は医者だ。サッカーに関わることは、僕の糧になる”と。
シュンは、ときおり浦賀IEMOに顔を出す。
トレーニングと、医療スタッフとの意見交換が主目的である。
スタッフはシュンを、只の子供とは見ていない。
爺様の孫と言う立場が全く関係ないとは言わない。
だが、真摯にスポーツ医療について聞いて回るシュンを、尊敬しているのが見てわかる。
「僕は、プレーヤーにはならない。でも、サッカーが好きだ。そこは馬鹿にしてほしくなかったんだ」
「ふーん」
おかしな話だな、とワシは思った。
シュンが通っている学校は、浦賀にある。
浦賀IEMOの事も知っているだろうし、そのオーナーがシュンの祖父だという事も、自然と耳に入る環境である。
その当人に、益もないのに喧嘩を売る発言をしたのだ。
「ちょっと、話してみるか」
「“オハナシ”はダメだよ、モモ兄さん」
単なる興味である。
次週。
ワシと弟は、かつて先生と話した喫茶店で相手を待っている。
店主は自然な笑顔で佇んでいる。
もしここに、万が一、押し込み強盗が来たとしても、彼はその表情のままであろう。
そう確信できる鉄仮面である。
「やあ、待たせたね、シュン」
カランカランと、古式正しいベルが来客を告げると、快活そうな少年が入って来た。
ツヤのある黒髪を、おかっぱの様に切りそろえ、いかにも品の良い服を身に纏っている。
「そして、初めまして。シュンのお兄さん。浦野春一です」
背後に控えた執事と思われる男に外套を預けながら、ワシに挨拶しながら、右手を差し出した。
ワシはそれを軽く握った。
「伊右衛門、百々じゃ。ま、一杯コーヒーでも飲もうか」
カウンターで控える店主に人差し指を立てて、“一人前”と頼むと、粛々と準備を始める。
「“あの”シュンのお兄さんに会えるとは、僕は運が良いのかな?」
ハルイチは、上機嫌そうに笑うが。
その眼は笑っていない。
何より、ワシが誰か分かっていながら、“シュンのお兄さん”としか呼んでない。
ほう、警戒しとるな。この若さで、頭は回るらしい。
「ほう、シュン。お前、こいつにワシの事をずいぶんと話したかな?」
「いや、兄さんの事はほとんど話してない」
意図を察したシュンは、必要な事だけを言った。
なるほど、目の前の少年は、ずいぶんとワシの周りを嗅ぎまわっていたらしい。
「単刀直入に言う。シュンに、“サッカーは、僕たちエリートには似合わない、君もそう思わないかい?”と、そう聞いたらしいな」
「ええ、その通りです」
ワシの問いに、何でもない事のように答えた。
「意図を答えよ」
コーヒーに口を付けて、こちらも世間話のように聞いた。
「僕が、個人的な意見を話すことに、意図の説明は必要でしょうか?」
しれっと、コヤツも答える。
運ばれてきたコーヒーを、そのまま口に運び、ハルイチは言う。
「シュンとは、友達でいたい。だから、常に対等でいたいんです」
ほう。
「なるほど、あれか。“お貴族的な”社会的地位を持つ人間は、それ相応の趣味を持つべきだ、ということか?」
「その通りです。話が早くて助かります」
ハルイチは、一応ワシが理解を示したことに満足したのか、もう一口カップに口を付ける。
前世で言うところの、フレール王国は貴族主義の見本市のような国であった。
その国では、机上遊戯ですら自由に行う事が出来ない。
ガッチガチの貴族的慣習の中で生まれ、育ち、そして死んでゆく。
そこに疑問は一切ない。
上位の貴族になればなるほど、“勝敗が発生する”行いを慎んでいた。
争いなど、下賤の者が行う事、という価値観が徹底していたのだ。
だから、フレール王国は滅んだんじゃがな。
「なるほど」
ワシが一つ頷いた。
それを見て、
「では、シュンに説得を」
してくれますか、とハルイチが続ける前に。
「いや、シュン。良い学びになった。帰るか」
と、言い放つ。
「待ってください。シュンのお兄さん。いくらなんでも、横暴ではないでしょうか?」
ハルイチは、そこで感情を制御した顔面を顰め、ワシの腕をつかんだ。
掛かったな。
「誰の腕を掴んでいる!」
一気に圧を込めると、少年は腰を抜かし、背後に控えていた執事はベルト周りに手を回した。
やはりな。ボディーガードを兼ねていたか。
「抜くなよ。その瞬間、貴様を害さねばならなくなる」
言うと、執事はベルト周りからは手を放すが、いつでもこちらに飛び掛かれる体制を取った。
良い心構えだ。
「シュンは、貴様のステータスを上げるための友達ではない。まして、シュンの医学研修の場であることも弁えず、一方的に許せんと言う。貴様、何様のつもりだ」
ハルイチはまだ、床にケツを付いている。
これは、ダメじゃな。
別口から攻めるか。
「執事、名は」
「中井です」
「中井、今すぐ、こいつの親に連絡をしろ。そして、ワシと話をさせろ」
中井は非常にテキパキと手配し、やがてワシに携帯端末をよこした。
「中井から聞いた。君がモモ君か」
「何処までが仕込みじゃ?」
ハルイチ少年が、中途半端にワシの情報を知っていたこと。
ワシに対して名前を呼ばないほどの敵愾心を持っていたこと。
そして、シュンに喧嘩を売るような事を言ったこと。
その全体像に、作為を感じる事。
つまり。
「全部だ。“怖い他人を知ること”が、今回の目的だったからね」
あっけらかんと、電話口の若々しい男の声は、認めた。
「なるほど、貴様に一杯食わされた、という事か」
ワシがバカバカしくなって言うと、相手は電話越しに笑った。
「ハハハ、88番の伊右衛門モモに一杯食わせたと、今度のパーティーでは自慢できるね」
こいつ、
「ワシの試合を見ていたのか?」
「もちろん、イシカワ時代からの追っかけだよ。最近、試合に出てないじゃないか」
何と言うことは無い。
息子の教育をしつつ、ワシと話す。
一石二鳥を過たず、成立させたのだ。
ここまで見事にヤラれれば、もはや乾杯である。
「充電期間じゃ」
「大した充電期間だ。トッププロの練習に参加して充電とは」
これは、情報が流れている。
スタッフが情報を流す必要がある人間となれば、限られる。
浦賀レンジャーズのスポンサーである。
「よくもまあ、自分がサッカーファンなのに、息子にあんなことを吹き込んだな」
この電話は感想戦である。
もはや、戦いは終わっているのである。
「いや、それはハルが一人合点したのを、僕たちが利用しただけだ」
「僕“たち”?」
「妻もグルだ。伊集院選手と、カトリーヌ選手が最近の“推し”だと言っていたね」
途端、ハルイチに同情した。
イシカワからカトリーヌという、江南SC最後の二年間を両親が楽しんでいる中で。
何も知らないハルイチは、思考誘導でワシに威圧を受けて目の前で生まれたての小鹿のような醜態を晒しているのである。
ワシは通話を終了し、執事に端末を返した。
そして、ハルイチ少年の右手を半ば強引に引き寄せて、立たせた。
「ワシの家に来て、ゲームでもするか」
浦野ハルイチ少年は、伊右衛門の家に遊びに来たトモダチ第一号となった。
ボンゴとジョッシュは、ワシの家に招いたことが無い。
必要なことは、だいたいグラウンドで話すからだ。
始めの方はおっかなびっくり、といった様子だったハルイチ少年。
だが、ゲームで無慈悲にワシが可愛がってやると、泣きだしたり癇癪を起こしたり、“素”の部分を出してくるようになった。
夕方、午後5時。
ハルイチ少年は帰ることを嫌がったが。
「じゃあの、ハルイチ。また遊ぼう」
「また、明日。学校で」
ワシとシュンが、『また明日』と言えば、
「うん。また、明日」
そう言って、送迎の高級車に乗り込んでいった。
☆2033年 経済の俊英 その少年期☆
『浦野春一』
微笑みの鉄仮面。
血液の中はオイル。
利益を上げるAI。
私生活の一切は表に出ない。
その、素顔に迫る。
「おや、江南ですか?」
時間はわずかだったが、独占インタビューの為に時間を割いてくれた浦野氏は、私の名刺をしばし眺めて、何かに思い当たったように疑問を口にした。
「ええ」
短く答えたが、背筋に冷たい汗が流れた。
何故私が江南出身だと思ったのか。
聞きたくても、訊けない。
「年代からすると、百々選手の?」
「ええ、同期です」
「ほう」
数秒―私からすれば随分の長考に思えた―沈黙し、浦野氏は、
「予定を変更する。すべての予定を押しても問題ない。コーヒーを持ってきてくれ」
背後に控える男に指示を出した。
「さて、君が知る、百々選手について聞かせてくれ」
運ばれてきたコーヒーに互いに口を付けるや、浦野氏は待ち構えていたかのように、私に質問した。
これでは、インタビューの対象が真逆ではないか。
それほどに、浦野氏は熱心に話を聞きたがった。
「河岸を変えよう。午後6時、駅前の店で」
30分ほど私が話すと、満足したように浦野氏は次の予定を決めた。
デスクに事情を話せば、経費で落とすから何としてでも話を聞いてこいとGOサインである。
私は、トンデモないところに来ていた。
お高めの居酒屋の、VIP室。
それは良い。予約さえ取れば、入ることはできるから。
だが、
「おいおい、ハル。いきなり呼ぶのは良いけどよ。記者さんがいるなんて、聞いてないぞ」
伊右衛門総合病院。その院長の息子である、“最良の腕”。伊右衛門俊。
「おお、コトギクじゃないか! 記者とは、まあ適職じゃろうな」
世界の伝説。伊右衛門百々。
何てことは無い。
経済の俊英どころか、世界の俊英が、ここに一堂に会していた。
「こいつが言っていたことに嘘が無い事は、これで証明されたな」
「コトギクはあれじゃぞ? 江南で文化部の元締めをしていたやつじゃぞ」
「話通りなら、とんでもなく有能という事か。ハルがわざわざ俺らを呼んだのは理解できた」
三々五々、好き勝手に注文する。
私の前に置かれたワインは、一体いくらするのだろうか?
乾杯して、口を開いたのはモモだ。
「ま、コトギク。仕事の話じゃろ」
今回の要件はそれだ。少年期のエピソードを聞きたいのだ。
「この中で一番ネタ持ってるのは、間違いなく兄さんだけどね」
「ワシのネタは、ほぼ出し尽くしてるからな」
「聞く度にたまげるね、モモの話は」
そう言って、カラカラと笑ったのは、“鉄仮面”浦野氏だ。
私の動揺を見止めたのか、浦野氏は、苦笑した。
「このメンツだと、私はこうだ」
「撮ってやれ撮ってやれ、大スクープじゃぞ」
モモ、それは酷いじゃないか。
そう言いながら、浦野氏は笑みを浮かべている。
確かに、大スクープだ。
「少年期か。私は、シュンとモモに出会えた。それに尽きるな」
「俺は、浦賀IEMOでいろいろしたのが医者としての出発点だな。人一人の人生を、サポートする責任。技術や知識はともかく、医者としての基本的な心構えを学んだな」
「ワシの少年期を、今更コトギクに説明する必要があるのか?」
貴重な話だ。
許可をもらって、ICレコーダーを席の中央に置かせてもらい、フリートークの体で、つまり単に普通に飲んで喋ってを記録させてもらっている。
「そういえば、江南時代のモモはどうだったんだ?」
浦野氏は、モモに興味を示した。
「喧嘩をしていた記憶が大半じゃな」
「それは聞いているよ。第三者から、もっと深い話を聞けるいい機会だ」
私は、浦賀第三運動公園、通称ウラサンで起こった抗争と、江南小学校特別グラウンド、通称ウラサンが設立された経緯を中心に、生徒会や運動部連、それに付随する文化部連の動きを可能な限り客観的に語っていった。
「戦国時代でも、もうちょっと穏やかな歴史を歩んでいるんじゃないか?」
聞き終えた浦野氏の感想がそれである。
私も全く同じ意見だ。
「ほーん、ワシの行いは、客観的に見てそんなもんか。もうちょい暴れれば良かったか?」
「これ以上、どう暴れる余地があるんだよ、兄さん」
「少年期は地味じゃった。コトギク、そう書いてくれ」
書いてやろうとも。
“本人は”そう思っている、とね。
おっといけない。
メインはモモではないのだ。
浦野氏を掘り下げねば。
「きっかけは、こいつがシュンに喧嘩を売ったことじゃな」
初耳だ。これは良い記事になるだろう。
顛末を聞いて、少し浦野氏に同情したが、それで終わりではないだろう。
「モモに“怖さ”を学んで、それ以降は誰に対しても委縮することは無くなったな。相手がどれだけ凄んでも、『なんか、圧が足りないな』と思うようになった」
「そりゃ、兄さんが比較対象なら、他は屁でもないよ」
浦野氏は、そこで感覚がマヒしたのだ。そう思った。
「それ以外にもあるじゃろ。ほれ、お前が出しているゲームよ」
「俺もリハビリテーションで患者さんに利用してもらってるよ」
浦野氏は近年、体感ゲームをリリースした。その話だろう。
「確かに、あのゲームの個人的なコンセプトの一つは、モモがきっかけだ」
「ラスボスが“88(ダブルエイト)”な時点で分かるよ」
モモがきっかけ? どういう事だろう。
「さっきの話の続きだ。その後、伊右衛門家にお邪魔して、ゲームをした。散々、モモにヤラれ続けて、ゲームコントローラーを投げ出した。その時、モモが小さな声で、『にしても、鈍いなあ、何とかならんのか』と言っていた」
「鈍い?」
「格闘系のゲームでな。ボタンごとに動きが決まっとるじゃろ。何でこんな遅いフォームで人を殴ったり蹴ったりするのかと、それが不満だったんじゃ」
「俺はそれを冷静になってから思い出した。で、気になるだろ? 『モモが考えるようなモーションをそのままゲームで再現できれば、どれくらい強いのだろう』って」
狂人の発想だな。と思ったが、江南では異端でも何でもない。
「それで出来たのが、フルモーションキャプチャーの体感ゲームか」
「構想自体は2016年。俺が中等部の頃には、コンセプトは固まっていた。だが、実現する技術も、資金力も無かった。だが」
「そういうゲームを作りたかった。夢は、大切だ」
そうだな、と。
その場にいた三人は同意した。
「ところで、88(ラスボス)の撃破報告は上がってるけど、裏ボスが倒せない鬼畜難易度になってるのは何でだ?」
俊氏が浦野氏に訊ねた。
ニヤリと笑った浦野氏の顔が印象的だ。
「言っただろ? コンセプトは、“ゲームで、モモを再現すること”だって」
「え、つまり?」
「モーションの参考源はモモだ。協力もしてもらっている。読み合いその他も、モモの戦闘データを元に、AIに自動学習を繰り返させている」
この人も、モモに脳を破壊された人間だと確信した。
「裏ボスである彼(MOMO)を倒せるプレイヤーは、世界でたったの一人しかいない」
「百々(ホンニン)だ。まだ、俺の挑戦は続いている」
【勝てるか】UBS総合スレ 1006【こんなもん】
名無しのプレイヤー
テンプレ以下略。
荒らしは、地下施設でどうぞ。
名無しのプレイヤー
えー、とんでもない情報がね、来ましたね。
名無しのプレイヤー
俊英の記事だろ?
名無しのプレイヤー
MOMOの元ネタがモモとかね。
名無しのプレイヤー
あれ以降、むしろ挑戦者が増えるのは草。
サーバーが重くなるからヤメロ
名無しのプレイヤー
正直、怪しいなあとは思ってた。
名無しのプレイヤー
嘘乙
名無しのプレイヤー
自動学習ってことは、
プレイヤーが挑めば挑むほど強くなるんですがそれは
名無しのプレイヤー
浦野氏はウハウハだから
名無しのプレイヤー
世界で一番の激重感情の社長だから
名無しのプレイヤー
モモが既存のゲームでは全力を出せないなあ
↓
だったら、環境を作ればええやん
名無しのプレイヤー
作った結果がこれ。
名無しのプレイヤー
88を倒してからが本番みたいなところがある
名無しのプレイヤー
初心者卒業試験なんで
名無しのプレイヤー
MOMO関係はともかく、
オンライン対戦が活性化するのは大歓迎
名無しのプレイヤー
チーム戦とか、少し前まで同時接続数1000程度だったからな
名無しのプレイヤー
今では一万超えるからね
名無しのプレイヤー
おい
おい
イベント始まるぞ!
名無しのプレイヤー
どうした
名無しのプレイヤー
公式を見よ
名無しのプレイヤー
ふーん
ん?
名無しのプレイヤー
MOMO討伐戦!?
参加人数10!?
名無しのプレイヤー
ついにタイマンではどうにも出来ないことに気が付いたか。
名無しのプレイヤー
チームを組め!
野郎ぶっ殺してやらー!
名無しのプレイヤー
ダメそう
名無しのプレイヤー
チーン
名無しのプレイヤー
えぐい
名無しのプレイヤー
まだタイマンの方が有情じゃないか
名無しのプレイヤー
こっちの味方を肉盾にするからね
名無しのプレイヤー
FF設定が、強制的にオンになる不具合
名無しのプレイヤー
仕様です(イケボ)
名無しのプレイヤー
FFがオフであればどうにかなるのか?
名無しのプレイヤー
無理です(イケボ)
名無しのプレイヤー
FFがオフになれば、最初に肉壁にしたヤツを使って延々なぶり殺しにしてくるだけ
名無しのプレイヤー
耐久力が減らない、最強の盾だね!
最悪か?
名無しのプレイヤー
FFがオンの方が、難易度が下がるという変な環境
名無しのプレイヤー
あ、一人
クリア者が出たっぽい
名無しのプレイヤー
はいチート乙
名無しのプレイヤー
運営に連絡しようね
名無しのプレイヤー
良くないよね
通報しました
名無しのプレイヤー
プレーヤー名“ネイファ”
ん?
名無しのプレイヤー
非常に
非常に見たことも聞いたこともありますねえ!
名無しのプレイヤー
はいこれ
“ネイマーレ公式SNS投稿画像”
名無しのプレイヤー
『モモにクリアしてもらったよ! 凄いね!』
無邪気か?
名無しのプレイヤー
ゲームが得意な友達にやってもらった感
名無しのプレイヤー
プロゲームプレイヤーがチーム組んで勝てない相手何ですがね?
名無しのプレイヤー
何なんすかコレ
名無しのプレイヤー
つーか、ネイファって
ネイマーレの娘の名前じゃねーか!
名無しのプレイヤー
知り合いのおじちゃんにアカウントを貸してあげたんだね、ネイファちゃん。
名無しのプレイヤー
そのおじちゃんはね、
天下無敵のおじちゃんなんだ
名無しのプレイヤー
インスタグラマに実況付きで上げてますね
名無しのプレイヤー
うん
名無しのプレイヤー
うん
名無しのプレイヤー
何言ってんのこの人
名無しのプレイヤー
『対多人数を学習しすぎたせいで、やや反応処理が遅い』
やや?
名無しのプレイヤー
全く分からん
名無しのプレイヤー
仮面ライダーRYの『0.1秒の隙がある』みたいなもんだろ
名無しのプレイヤー
0.1秒が、隙?
名無しのプレイヤー
『ここまでは、互いに最善手だが、これは破綻するんじゃ』
?
名無しのプレイヤー
MOMO側が押し込まれている形にしか見えん
名無しのプレイヤー
発狂キタ
名無しのプレイヤー
早っや!
名無しのプレイヤー
なんでガードできるねん
名無しのプレイヤー
『悪手じゃな。こっちの方が楽じゃ』
名無しのプレイヤー
速度が尋常じゃないんですが
名無しのプレイヤー
『この部分が単調、という事は、真面目にヤリに来てはいないという事じゃな』
この発狂でプロチームが終わったんですがそれは。
名無しのプレイヤー
サッカー選手ってすごいんだな
名無しのプレイヤー
誤解を招く発言はやめたまえ
あたかも、サッカー選手だったらこれくらいできるかのような言い回しは
名無しのプレイヤー
勝ったなあ
名無しのプレイヤー
ぐうの音も出ない証拠だな
名無しのプレイヤー
『結局、第一段階が最も手強かったな。運営に連絡するか』
じゃねーんだよ!
名無しのプレイヤー
これ以上、強化する意味ありますかね?
名無しのプレイヤー
ない
名無しのプレイヤー
ない
名無しのプレイヤー
そもそも、一人しか攻略できてないから
名無しのプレイヤー
ところでさ
名無しのプレイヤー
ん?
名無しのプレイヤー
チームバトルって、
プレイヤーが同意すれば、任意でルール設定を変更できるじゃん
名無しのプレイヤー
そうだな
名無しのプレイヤー
んで?
名無しのプレイヤー
チームバトル機能を使えば、
理論上、
伊右衛門モモVS100人も可能じゃないか?
名無しのプレイヤー
天才か?




