001 始動/指導
公歴80年。
一人の男が生涯を終えた。
グスタフ=マルインネス。
160歳の“元勇者”の死を、大陸は粛々と……。
「陛下! サーバン帝国からの書状です!」
「読め」
「『貴国は誠実な国家だと思ったが、大陸統一の為の偽計であろう』とのこと!」
「そのつもりはないが、信じてもらえるとも思わなかったからな」
「陛下! トリニティアン魔国連合からの書状です!」
「読め」
「『サーバンがそろそろ邪魔になったか? 牙を研いで待っている』とのこと!」
「予想していたがな、仲悪すぎだろう」
「陛下! 我がオクレアン国の公爵家からの連名書状です!」
「読め」
「『本当に本当? 嘘ついてないよね?』とのことです!」
「本当じゃ。未だに亡骸を直に見た我でも信じられんのは否めんが」
……粛々とは受け止められなかった。
「どうせ死んでない」「寧ろ死ぬのかアレ」「仮に死んだとしても生き返りそう」等。
グスタフの死は誰もが疑ってかかるほどには信じられないものだった。
とは言え。
数年も経てば皆が知ることとなる。
グスタフ=マルインネス。
彼の死が真実であったと。
中央大陸の重石。
それが取り払われたことで、イスバーン大陸は混沌と化していく。
公歴80年。
それは、公国史において建国と並ぶ重大な年号となるのであった。
が、
統西暦1999年に転生した“元” グスタフ=マルインネスにとって、そんなことは知ったことではない。
この物語は、彼が“どこか次元がねじ曲がった”地球で面白おかしく生き抜いた人生の記録である。
統西暦2002年
伊右衛門・百々(モモ)として、生を受けて三年が経った。
ワシは確信していた。
“このまま人生のレールとやらに乗っていけば、一生食っていける”と。
裕福な家に、安定性のある家業。
医者の家に生まれて、祖父も父も医者となれば、行く末は医者じゃ。
だがそれは……。
「つまらん」
医術が退屈なのではなく、ワシの性格の問題じゃ。
“転生ボーナス”という名の『お願いだから神界に来ないでください』料として、前世のほとんどのスキルを引き継いで転生した。
完全回復のスキルと死者蘇生のスキルがあれば、医業全てに喧嘩を売るような結果を残せるだろう。
だが、それは医療技術の発展を阻害する。
実際、前世の聖国が医療スキルを重視するばかりに、感染症の対策が後手後手に回ったこと、そして技術大国のアメリアが“予防接種”なる画期的な対策を打ち出せたことを鑑みると、スキルが国単位で考えれば万能薬ではないことは言うまでもない。
あくまでスキルによる対策と言うのは属人的なものだ。
人数が十分ではない対策は対策とは言えない。
技術的な普遍性があって初めて、対策と言えるのだ。
「つまらん」
言ってしまえば、ワシは自分自身のスキルを持て余している。
これは正確な表現ではない。
ワシがやりたいことを、この世界ではまだ、見いだせていないのだ。
「……ックソ! チクショー!」
ワシの祖父が経営する伊右衛門総合病院は、その名の通り大病院だ。
大学も絡んでいない私立病院でこの規模は中々ないじゃろう。
入院患者のいる一角から、慟哭にも似た声が聞こえた。
入り口のプレートを見れば、
『808 ヘヴァン』とある。
確か、“プロスポーツ選手”だったか。
“スポーツ”も“プロ”も分からん。
とりあえず、話を聞いて暇でも潰すか。
「失礼するぞ、ヘヴァン」
戸を開けて声を掛けるが、聞こえなかったのか、取り乱したヤツはまだ発狂しておる。
仕方がない。
「ヴォッフ」
わき腹に、骨折しない程度の一発をお見舞いした。
そのおかげで、ヤツも正気を取り戻したらしい。
「どうした? 話を聞こうか?」
「……たった今、ナースコールを押そうと考えたよ」
「心配するな。肉体的ダメージなら、ここで治せるぞ」
「医療機関で追加ダメージなんて聞いてない」
「そうか。で、何で激高してるんじゃ?」
その言葉がトリガーになった。
ヘヴァンは支離滅裂に怒りをまき散らし始めた。
そのたびに“わき腹”した。
「もう分かった。だから、勘弁してくれ。もう俺のわき腹は折れてるだろコレ」
「馬鹿を言うな。ここは医療機関じゃぞ? 骨折などせん」
「すげえな、日本のイリョウキカン」
ワシの“わき腹”が怖いのか、精神的に落ち着いてきたのか。
ヘヴァンは激高の理由を説明した。
曰く、世界一の国別の試合で自国チームが不正で負けたこと。
曰く、自分のサッカー人としての情熱が失われつつあること。
曰く、曰く、曰く。
激高の理由以外をつらつらと話し始めたヘヴァンを、ワシは止めない。
目の前で戦友を失った兵士はもっと酷い状態になることが多々あったからじゃ。
「ふう、ずいぶん話したな。いや、自分でも意外なほどだ」
流石に話し疲れたのだろう。
ヘヴァンは自分の中に溜まる滓を吐き出すかのようにノンストップで語り終えると、『今気が付きました』みたいな顔でワシを見おる。
だが、それまでの話を、ヘヴァンが必死の形相で語るのを見て、ワシの胸は高ぶっておった。
「少し待っておれ。飲み物を持ってくる」
言って廊下に出た。
“この世界には、命を懸けるほどに熱中できる何かがある”
ヘヴァンの顔に嘘はない。すべてを、その何かに費やし続けたのだ。
再びヘヴァンの病室に戻る頃には、考えは決まっていた。
「ところで、ヘヴァン」
ワシはペットボトルの安いお茶を渡しつつ言った。
「ん?」
「ワシに、サッカーを教えてくれ」
「2003年、8月だ。
その日、変な子供に会った。
僕は33歳になろうとしていた。
日本でプレーする環境を提供してくれた様々な人々に感謝していたけれど、
もう僕にはサッカーに対する情熱というものが無くなっていた。
理由は聞かないでくれ。想像通りだし、恥ずかしすぎて説明もしたくないんだ。
でも、転機と言うのは訪れるものでね。
おっと、拳を振り上げないでくれ。自慢しているわけじゃないんだ。本当に。
でもね僕が、日本で言うところの“ドヤ顔”をすることは許可してほしい。
8月8日。
場所は伊右衛門総合病院808号室。
何で覚えているかって?
入院中は暇すぎて、毎日日記を書いていたんだよ。
その日の僕は、こう、記録している。
『8月8日。
リハビリテーションを熟し、夕食を摂る前の事だ。
モモと名乗った少年が、僕を訪ねてきた。
不気味なほどに落ち着いた雰囲気を持っていた。
彼とサッカーの話をしていると、気が付いたら夕食の時間になっていた。
名前を聞くと、イエモ・モモと名乗った。
就寝前にこれを書いているが、思い返せばモモとは十倍も年が離れているじゃないか。
とんだクソガキと出会ったものだ』
つまりだね。
世界で一番最初にモモにサッカーを教えたのは僕だって事さ。
……ってヤメロ! 痛ッ! 掴みかかるな!」
――2030年 『W杯直前! 各国代表監督に独占インタビュー イタリア編
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【世界最高の】ヘヴァン・クロッセを語るスレ1006【大戦犯】
テンプレ以下省略
名無しのイタリア代表
お前かーい!
名無しのイタリア代表
よくやった
でも畜生この野郎!
名無しのイタリア代表
イタリアリーグ最高の功労者
イタリア代表最大の裏切り者
両立できるのすごくない?
名無しのイタリア代表
でも、モモならどうせサッカーしてるし。
名無しのイタリア代表
だな。監督が教えなくとも誰か教えてるだろ。
名無しのイタリア代表
おい。
お前、
お前……。
名無しのイタリア代表
おい。(貴様よくも最大の敵を作りやがったな)
お前、(でも今のイタリア代表エースはモモの弟子だよな)
お前……。(プラスマイナスはゼロなのか?)
葛藤が分かる分かる。
名無しのイタリア代表
ヘヴァン・クロッセの育成経歴
↓
ジョバンゼ・アーモ(不動の10番。ACミラノ)
マッシモ・インディーニ(不動の7番。ACミラノ)
モモ・イエモ(カイブツ)NEW
その他、後続でも育成実績あり。
単なる名伯楽では?
名無しのイタリア代表
イタリアサッカー協会は強化育成部長に抜擢しろ。
名無しのイタリア代表
すでに同じような役職になってるので(育成主任)
名無しのイタリア代表
在って無いような役職はNG
名無しのイタリア代表
クラブと癒着して有望株の引き抜きを仲介してた役職だしな。
名無しのイタリア代表
美味しい汁を吸い放題ともいう。
名無しのイタリア代表
じゃあ、ヘヴァン監督も……?
名無しのイタリア代表
ヘヴァンが不正できると思うのか?
名無しのイタリア代表
“モモ”が飛んでくるんだぞ?
名無しのイタリア代表
ヒエッ
名無しのイタリア代表
ユルシテ
名無しのイタリア代表
とにかく、主任がヘヴァンになってからは公開制になったな。
名無しのイタリア代表
いわゆる“ステータス”とかいう情報だな。
名無しのイタリア代表
【イルマル・カナールのステータス】
スピード C
パワー C
テクニック D
タクティクス B
<特異>
バランサー
現時点における、最適解のポジションを嗅ぎ分ける能力。
あの脳筋ゴリラの見た目だけ見ても分からんのがサッカーよ。
名無しのイタリア代表
イルマルって今、どこだっけ?
名無しのイタリア代表
ナポリ
名無しのイタリア代表
あー
名無しのイタリア代表
ガンバッテ
名無しのイタリア代表
1/2くらいジョッシュできれば及第点。
名無しのイタリア代表
それができれば年俸十倍でインテヌなんですわ。
名無しのイタリア代表
この時、ヘヴァンは、
「テクニックとタクティクスを磨くように。君はオールラウンダーと勘違いしているけど、ボンゴとは違う道を選ばなければならない」とのこと。
名無しのイタリア代表
オールラウンダーの代名詞。ボンゴ。
名無しのイタリア代表
公式戦でキーパーも含めた全ポジションをやってるヘンタイ。
名無しのイタリア代表
モモもやってるぞ。
名無しのイタリア代表
人間以外を挙げるのはレギュレーション違反っすよね?
名無しのイタリア代表
すまない。
名無しのイタリア代表
とにかく。
ヘヴァンの“ステータス”は獲得情報としては重要ってことで。
名無しのイタリア代表
せやな。