1話 仙崎
手作りのお菓子を恋人に食べてほしい。
私はお菓子を作れるけれど、恋人がいない。
私のお菓子を喜んでくれる恋人、そんなひとを見つけるアイデアが浮かんだ。
私の家から少し歩いたところにアパートが並んでいる。そこは数年前から次々と新しいアパートが建っている区画。新婚夫婦や若いカップル、独身が多いと聞く。
向かいの通りには昔から住んでいる人の家や畑がある。
とある畑の一角で季節のくだものが売られている。そこの持ち主お手製の無人販売所があるのだ。ちょうど腰くらいの高さになるようなボックス型の木箱が四本の木の足で支えられている。
くだものはパックに入れられ、手書きの値札シールが貼られている。鍵付きの料金箱にお金を入れて買うという無人販売所でよくあるシステムだ。
暑くなってくるとさくらんぼやぶとう、桃や梨などがスーパーの半分ほどの価格で売られている。
朝採れたばかりのくだものを置き、夕方には完売している。秋になるとりんごが売られて、それが最後のくだものになる。
そこの持ち主は冬に採れるくだものを栽培していないのだろう。冬期間、その販売所は使われなくなる。
私は持ち主に交渉し、今年の冬だけ無人販売所を使わせてもらうことになった。
そこに私の手作りのお菓子を置いてみるのだ。売りたいわけではないので代金はもらわない。
無人販売所はくだものが主流なのにお菓子が置いてあるなんて。きっとそう思われる。
それでも持って行ってくれる人はきっと、心が広い人。そんな人となら、素敵な恋人になれるかもしれない。