神の末裔を蔑ろにしたアホ王子のせいで王家が潰えそうです。ーー序章ーー
書きたいなと思っている話の序章的な部分です。
万物は”闇”から生まれた。
真っ暗な”闇”が指を差し出して星を生み、瞬きをして太陽を生み、手を翳して空を生み、脚を踏み出して大地を生み、息を吹いて魔法を生み出した。そしてそこからすべての命が誕生したと伝えられている。”闇”は万物の母であり、祖であり、神である。古より人々は”闇”を崇めた。眩い太陽の光に包まれた世界だったが、人々は”闇”の面影を恋しがって祈った。
「常光の世界は眩しすぎて、心が安らがないのです。どうか我らの母の面影をください」
”闇”はその祈りを聞き届けた。”闇”は最も真摯に祈りを捧げた人々の元に自身の分身である夜を遣わした。その場所こそが『エルテメスト』であり、そこから世界は夜を手にいれることができた。
夜の始まりの場所を『エルテメスト』とし、人々が国を造り出したころ、”闇”は溢した涙から自らの子を産み出した。正真正銘、神の血を引く一族である。
”闇”には分かっていた。人間が強欲で、その欲に際限がないことを。他者を羨むことに長け、羨望や嫉妬から争いを起こす生き物であることを。
だからこそ夜の始まりの場所ーー『エルテメスト』を初め、世界のあちこちに大きな神殿を造り、そこに自らの子を自身の代弁者として据えた。そして人々にこう伝えた。
「我が子らは世界の審判である。人々を愛し、慈しみ、平和を築くものには祝福と愛を与える。だが、人々を厭い、傷付け、争いを招く者には鉄槌と苦しみを与える。この子らは私の”目”であり”耳”であり”私自身”である」
と。世界はそれに歓喜し王族、皇族たちに神の血を取り入れ、神を崇めると共にその慈愛を受ける権利を”闇”に請うた。”闇”は一族を蔑ろにせず、慈しみ、共に国を支える良き友となるならば、とそれを許した。
その一族こそが、この世で唯一漆黒を身に纏うことを許された『オスキュリザム』。世界各国に点在する神殿に住む一族であり、近代でも続く世界各国で王族、皇族と血を交わす、神の末裔と呼ばれる者たちである。
彼ら、彼女らには一貫した特徴があった。それは漆黒の髪と瞳を持ち、並外れた<力>を持っている、ということ。そして、総じて皆、世界を愛し、人々を慈しみ、平和のために努力を厭わなかった。
王族に新たに子が生まれ、適齢な年齢になると一族から同じ年頃を子を婚約者とし、共に切磋琢磨しながら国を支え、民を守るべく学びを深めていった。建国から途方もなく永い年月が経とうとも、その関係は崩れずそのお陰で世界は平和に保たれていた。
その関係に大きな亀裂が入るなど、
かつては夜の始まりの場所と呼ばれ、現在では大国として名を馳せる『エルテメスト』を治める王族に、破滅の足音が迫っているなどと、
ーーーーー誰も想像もしていなかった。