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 うるさい音に秋が飛び跳ねる。


「ごめん!マナーモードにしとけばよかった。」

「いいよいいよ。ダーリンからでしょ、見なよ見なよ。」


 そう見るように促したのははっきり言って恋に溺れた秋の姿を端から観察したいだけだ。秋はダーリンじゃないと言いつつも、いそいそとスマホを操作する。

 やっぱり恋する女の子って顔してる。

 空と目配せすると、空も嬉しそうに頷く。

 でも秋の顔はすぐに怪訝な顔になって、私を見て自分の隣に座る空を見た。


「空にも来てる?」


 秋が空にスマホを見せると、空が自分のスマホを取り出して、あ、と声を出す。


「どうかしたの?」

「ちょっと待って。」


 私の言葉にそう返事した秋が素早く打つと、またすぐあの着信音が鳴り響いた。

 画面を見つめていた秋の眉間にしわが寄った。


「何だって?」


 その画面を覗き込んだ空が、はー、と息を吐く。

 …一体、何だって言うんだろう。


「何?」


 秋と空が一緒に私を見る。


「菊ちゃんさ、新しい連絡先を赤沢君に教えてないのは諦めることにしたからなの?」


 思いがけない秋の言葉に、私は絶句するしかない。

 何で? 2人が知ってるの?


「嫌だな菊ちゃん。ゼミであれだけ密に一緒にいれば、菊ちゃんが誰を好きだとか、流石に分かるよ。うちらニブイわけじゃないんだよ?」


 空の言葉に秋も頷く。

 …そうか、あの事がばれたわけじゃなかったのか、とどこかでほっとする。そもそも3年近く会ってなかったんだから、私と赤沢の関係を察知するすべなんてないだろう。

 ああ、でも気持ちがバレバレだったのか。私もまだまだだな。


「それで、赤沢君のことを諦めることにした、でいいわけね?」


 秋の言ってる意味と私の思っている意味は正確に言えば違うけど、言葉としては間違ってないから頷く。


「何でそんなこと聞くの?赤沢何だって?」


 実は赤沢からの連絡が2週間たっても来ないことにじれてしまって、赤沢に別れの言葉は告げずにスマホは買い替えてしまった。だから、赤沢が電話がつながらないことに気付いたのは、きっと今さっきのことなんだろう。

 いちいち確認しなくても、私は別れを選んだとそれで終わらせてしまえばいいのに。多少なりとも執着があったのかな。


「赤沢君結婚するんだって。で、私たちを結婚式に呼びたいみたいだね。」


 想像していた以上の内容過ぎて、頭が一瞬真っ白になる。


「そっか、めでたいね。」


 でも、何か言わなきゃ2人が変に思うと思って、何とか言葉を絞り出す。


「ちょっと菊ちゃん? 何がめでたいよ。」

「めでたいじゃんね? 空?」


 赤沢は本命と結婚することにしたのだ。めでたしめでたし。それが、私の望んでた結末だったじゃないか。


「菊ちゃん、自分が泣いてるってわかってる?」


 そう言われて、目の前の2人が涙ににじんでいることに気付く。


「あれ、やだな。うれし涙かな?」


 自分で言っていて無理やりな言い訳だと思うけど、それ以上の言い訳を見つけきれなかった。

 秋のため息が場に落ちる。


「赤沢君と何があったの?」


 赤沢と何が?


「何もないよ?」


 約束も何もない関係だから、今ここで赤沢が結婚する話を聞いてるんだよ?


「悪いけど菊ちゃん。それをそのまま信じることは無理だわ。」


 空の声もため息交じりだ。


「好きだっただけだよ。それだけ。」


 顔を覆うと、こらえきれなくなった気持ちを吐露する。


「それだけじゃないでしょ。私たちの付き合いは短いかもしれないけど、菊ちゃんが嘘ついてるかどうかぐらいなら分かるんだよ? 赤沢君と何があったの?」


 空の言葉に返事の代わりに首を横に振る。そう、この2人は鈍くはない。だから、この3年近く会わないようにしていたのに。

 連絡先変わったと2人に連絡した時に、会おうという話になって、もう赤沢のことは終わったからと2人に会うことにしたのに。


「ここで話しにくいなら、うちに行こう。空も菊ちゃんも実家ならゆっくり話せそうなのうちしかないし。いいね菊ちゃん。」


 秋の言葉はすでに断定だ。でも私は首を横に振って抵抗する。


「菊ちゃんが言えないって言うなら、赤沢君締めあげる?」


 空の声に秋が同意の声を上げる。私は首を横に振る。


「何なら赤沢君の婚約者がいるところで聞いてもいいけど?何もないなら別にいいよね?」


 秋は本気だ。

 私は激しく首を横に振るしかない。


「じゃ、話してくれるよね?」


 頷く以外に私のできることは何もない。


「菊ちゃん、辛かったのにずっと気付かなくてごめんね。」


 申し訳そうな空に、私は首を振る。気付かれないように会わないようにしていたのは私だ。


「ことと次第によっては赤沢君締め上げるよ。」

「やめて。私がお願いしただけだから。赤沢は被害者だよ。」


 そう。悪かったのは私。少しでも赤沢の隣に居たいと願った私だ。顔を上げた私に、秋と空が何か言いたそうにして飲み込んだ。


「ご飯食べて、うちに行こう。」


 気を取り直したような秋の声に、ずっと黙っていたことを許されたのだと分かる。


「菊ちゃん、ため込んでたもの、きっちり吐いて貰うからね!」


 ちょっと怒ったように言う空は、本当は怒ってなんていないのだ。

 2人の気持ちに、いったん引いた涙がまたにじんだ。

 3年近くも2人に会おうとしなかったなんて、本当に私は馬鹿だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 持つべき物は、こんな時に親身になって心配してくれる友人ですよね。
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