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引っ越しは無事に終わった。
平日休みの有馬が、大学の授業以外の時間を削ってくれた皐月を伴って家の片づけに行ってくれた。
まあ、荷物のほとんどは捨てるか売ってしまったし、実家に持ち帰るものなんてほとんどなかったのだけど。いまだに実家の部屋には学習机が残っていて、そこにぽつりとあの部屋から持ち帰ったパソコンが置いてある。
それだけが、あの部屋にあったものだと思うと、不思議な気さえする。
ああ、まだスマホが残ってたか。
「メールって、何送ればいいかな。…変なメール送ると本命さんにばれちゃうよね。それはやめときたいし…。」
今思えばちゃんちゃらおかしいけど、本命さんのことを思って、私が赤沢からくるメールの返事は簡潔にしていた。“了解”という言葉以外をメールすることは、はっきり言ってこの間が初めてなくらい。…それでも精いっぱい本命さんに気を遣ってるつもりだったのだ。
「…そのうち赤沢からメール来るだろうし、その時の返信でいいかな。今隣に彼女がいて私からのメールに気づいちゃうと、私が別れるって話なのに、二人をこじらせちゃうよね。」
他にいい案も思いつかなくて、そう結論付けるとベッドに横になる。
最近仕事が忙しくて、家にたどり着くのは10時過ぎる。まあ、うちはそれほど残業をさせないようにしてくれている会社だから、これくらいで帰りつけてるんだけど。
新しく買った愛車は軽で、どちらかと言えばかっこよさげなモデルだ。男の子が乗っていておかしくないようなモデル。…かわいいのはもう選ぶ気になれなかった。本当は普通車でかっこいいのが欲しかったけど、洋服その他で散財してしまっていたので、色々考えて軽に落ち着いた。
赤沢を諦めると決めて、ようやく私は自分を取り戻したような気がする。
赤沢と付き合ったあの3年近くの時間が、まったく無駄だったとは言いたくはないけど、少なくとも私は自分を見失っていた。…それが恋なのかもしれないけど。
赤沢の1番になれない自分を言い訳にして、卑屈にもなっていた気がする。
2番目の恋をやめると決めて、私は本当にすっきりしたのだ。見えていなかったものが、見えるようになったようにも思える。
私の中にくすぶっている気持ちはまだ消えたとは言えないけど、それでも、2番目の恋に固執した自分の愚かさを愚かだと普通に思えるくらいにはなった。
誰も幸せにならない2番目の恋。
少なくとももう2番目の恋をしたいとは思わない。
…もうしばらくは恋はしなくていいとも思う。
それぐらい、何かを消耗するだけの恋だったように思う。
それを泣くのすら、赤沢の本命さんに申し訳ないくらいの恋だったと思う。




