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 さっきまでは眠いと思っていたはずなのに、シャワーを浴びてベッドに横になる頃には目が冴えていた。


「好き、か。」


 帰り際の会話を思い出す。

 赤沢のことを好きだと自覚したのは、ゼミに入って半年くらいたった頃だろうか。

 そう、自覚したのは夏休みの直前だった。


 赤沢と同じゼミになった時、同じく同じゼミになれた空は幼なじみの佐竹君に片想い中だった。

 空の片想いは、付き合いが続けばすぐにわかるくらいに明らかだった。だけど佐竹君には彼女がいたし、空は大っぴらにアピールするでもなくただじっと佐竹君を思い続けていた。幼なじみとしての立場だけは必死に守ろうとしていたと思う。

 だけど、佐竹君の方も満更ではないと思った。

 佐竹君は確かに彼女がいたけど、確実に空をテリトリーに入れていて、それは幼なじみだからと言われればそうなのかもしれないけど、幼なじみだからってテリトリーに入れるわけでもないと思うのだ。

 その話は何かの時にふいに赤沢と交わされた会話で、それから、空をからかうように応援をした。


 からかいが必要なかったと言われればそうなのかもしれない。けど、佐竹君に告白する気のない空には、からかうくらいに軽い後押しくらいしかできなかった。

 結局本人が告白する気がないと意味のないことだから。

 あのとき言った「いけると思うけど」も「実は両想いなんじゃないの」も、その他もろもろも、軽くはあったかもしれないけど、どれも本音だった。

 空はからかわれているのをからかわれているだけだと思っていたけど。

 赤沢も佐竹君は空が好きなんだと思っていたし、私と一緒にからかいながら、一向にくっつきそうにない二人に呆れていた。


 そんなやり取りを交えながら、赤沢の隣が居心地がいいと感じた時には、もう恋に落ちていたのかもしれない。でも、決定的だったのは、前期のテスト終わりのクラスコンパだった。


 一人暮らしで迎えに来る人もいないこともあって、それに実家にSOSを出すのは避けたかったから、酔いやすいわけではないけど、お酒はフワフワしてきた時点でやめるように決めていた。酔い過ぎて帰れなくなっても困るし、誰かの手を煩わせることも嫌だったから。

 ただ、飲むお酒は、女の子が好むような甘いお酒ではなくて、ビールとかハイボールとかおじさんっぽいお酒ばかりで。そのせいだったのか、男子の一人が、私に酒を勧めてきた。既にフワフワとお酒に酔い始めていた私は、もちろんお断りをしたんだけど、お酒に飲まれていたその男子は、私に強要してきた。

 それを近くにいてすでに酔っぱらっていた男女問わずの何人かもはやし立ててきて、断っても断れないという、困った状況になっていた。


「俺、飲もうか?」


 そう言ってそばにやってきた赤沢があっさりとそのお酒を飲んで、私に飲ませようとしていた酔っ払いたちは口々に不満を漏らした。…まあ、今となれば酔っ払いの戯言、なんだけど。その時の私には、それに対応する術は全くなくて小さくなるくらいしかなかった。


「嫌がってるのに飲ませるって、アカハラって言うの知ってる? 訴えられるよ。」


 とても軽い口調で、その酔っ払いたちの不満を煽ると、赤沢はまあまあ、といなした。


「誰かが急性アル中になると、飲みが楽しくなくなるでしょ。」


 そう言われれば、酔ってはいても、それで死ぬ人、それもニュースになるのは大学生が大半であることも知ってるわけで、酔っ払いたちも静かになった。


「お前らも酒はほどほどにな。」


 そう言って自分のいた席に戻る赤沢が、席に座った後私を見て一瞬ほほ笑んだのを見てドキリ心臓がはねた、それに自分が無意識で赤沢が席に座るまで目で追っていたことに気づいて、自分の気持ちを自覚した。

 赤沢はきっと、私以外の誰かが同じように困っていても同じように助けたんだとは思う。赤沢はそういう人だから。だから、その出来事が赤沢にとって特別じゃないことは理解していて、夢見る乙女のように、もしかしたら赤沢も? なんて期待はしていなかった。

 それまでには赤沢の彼女の系統は知っていたし、自分が対象外であると思っていたわけで、夢見る乙女のように私が赤沢の隣に並ぶ姿を想像することは難しかった。


 だから、自覚したとたんに失恋した気持ちにはなった。

 だけど、自覚してしまった以上、その恋心をなかったことにもできずに、諦めることもできずに、ずっとひっそりと赤沢を想い続けていた。

 そのうち赤沢以上に好きになれる人ができるかもしれない、とどこかで思いながら、赤沢と関わることでやっぱり赤沢以上に好きになれる人はいないと再確認する日々。

 でも、これを言葉にして赤沢に伝えてしまえば、この居心地のいい関係が終わってしまうだろうということ恐れていた。

 だから、自分の気持ちを空のようには口にしたり表に出さないようにしていた。


 “2番目でいい”と赤沢に伝えるまでは。

  あの時、私が素直に“好き”と伝えていたら、今の私の悩みはなかったんだろうか。

 もしあの時に戻れるなら。

 それでも私は赤沢に、素直に“好き”と伝えられるんだろうか。

 居心地のいい関係が壊れることを恐れていた私が、“好き”と伝えることはできるんだろうか。


 だけど、きっと私は。

 赤沢との関係を壊さないために“何もなかったことにする”という他の選択肢を選んでいたのかもしれない。

 …その方が、きっと今みたいにこじれることはなかったのかもしれないけど。

 高校では“王子”として扱われていた自分が、思った以上に意気地なしで女々しい性格なんだと、今更気付く。

 もっと前に気づけていたら。

 今、赤沢の気持ちを、素直に受け止めていられただろうか。

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