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 赤沢は気付いているのかもしれない。

 この半年、今更ではあるけれど清い交際を続けているのは、赤沢なりの反省なんだろう。

 でも、私からも求めることがない理由を、赤沢は気付いているのかもしれない。


 あの家族との騒ぎが終わって、赤沢の車までの帰り道。その時の会話が、始まりだったのかもしれない。…いや、遅かれ早かれきっとどこかでひっかかっていただろう。

 信じているという言葉が、私の心のなかにうっすらと染みを作った。そのうっすらとした染みが赤沢との体の関係を拒んでいる。

 赤沢のことを好きだという気持ちはなくなっていない。両想いになったことも嬉しい。


 でも。

 赤沢を完全に信じることを躊躇する気持ちもある。

 赤沢と両想いだとわかった後、この話を知っている人からは、皆が皆、口を揃えたように「よく許すね」と言われた。

 許すも許さないも、私は赤沢と両想いになりたいという願いを持っていて、それが叶ったのだからそれでいい、としか思えていなかった。


 だけど、あの後、赤沢と会っているときに、嬉しいとは違う、赤沢に対するひっかかる気持ちがあることに気付いた。

 それは、ちょっとした触れ合いが深くなりそうなときに、ブレーキとなって現れた。

 今までは明らかに拒絶することがなかった行為が、私の中でとても躊躇われてしまう。

 赤沢は、自戒もしているようで、すぐにやめるのだけど。

 そのことにほっとしてしまう。


 …私は赤沢を許したわけではないんだと気付いたのは、そんなことを何回か感じた後だった。

 それについては、誰にも言ったことはない。

 赤沢のことを好きだという気持ちも両想いになったことを嬉しいという気持ちも間違いなくあるから。

 それでも、その小さな染みが、小さな棘が、赤沢の体を受け入れられない。


 キスはできる。抱き締められるのもできる。体に触れられることは可能だ。

 だけど、心の奥底で、完全に受け入れることを拒絶する気持ちがある。

 心の奥底にある赤沢を完全に信じきれないと思う気持ちが、体を固くする。

 2番目でいいと思っていた時には、どんな形でも赤沢と繋がれるのならいいと思っていた。


 でも1番目でいていいと言われて初めて、体を繋げることに、体を委ねることに、たった1つの小さな染みが影響するのだということに気付いた。

 …そして、相手を信じるということが、相手の言葉や態度だけではなく、自分自身の問題であると言うことも。

 赤沢を絶対許せない、という気持ちはない。ただ、完全に許せないという気持ちが揺れている。


 …もしかしたら、この気持ちがある時点で付き合うことをやめてしまう人もいるだろう。

 赤沢に対する執着なだけなのかもしれないと思うこともある。

 でも、赤沢に会えれば嬉しいし、一緒の時間を過ごせるのは、幸せだと思う。

 だからこそ、体が硬くなってしまうことに、私自身も戸惑っている。


 あの翌日、赤沢は店を開ける前の有馬の元へやってきた。有馬からは拒絶されてしまったけれど。

 そして、その後初めてデートした。私たちは初めて二人で映画館に行った。それこそ、高校生がするようなデートだった。

 その帰り際に、赤沢は言ったのだ。


「菊花との時間をやり直させてくれ。」と。

 私は素直に頷いた。

 そして、半年。私たちは今更清い交際をしている。


 赤沢に大事にされていることはわかる。だけど、どこかで信じきれてはいない。

 言葉のやり取りだけで信じきれるのならば、私は迷わず赤沢に聞いていただろう。

「信じていいの?」と。

 でも、それが違うとは流石にわかる。


 言葉だけのやり取りでは、心の奥底にあるそこはかとある不信感は拭いきれないことを。

 これを抱えながら結婚する人もいるだろう。

 だけど、私には…難しい気がしている。

 どこか諦めた2番目の恋は許容できて、わずかな不信感が許容できないなんておかしい話なのかもしれない。


 でも、そのわずかな不信感に、私の体が固くなってしまうのも事実なのだ。

 …旅行行くと言うことは、泊まりになるということで、赤沢を受け入れられる気持ちにない今、あるかもしれない出来事に身構えてしまうのはしたかないだろう。

 もしこの気持ちがずっと拭えないとしたら、別れを選ぶことになるのかもしれない。

 兄たちの許しにまだ時間がかかるだろうことにどこかで安堵しているのは、その決定的な決断をまだ下さなくていいからなのかもしれない。

 それでも赤沢の側に居たいと思う。

 この複雑な気持ちは、誰かにわかってもらえるものなんだろうか。

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