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「そりゃあね、犯罪に巻き込まれるようなことなら家族の出番はあると思うわよ。でもそんなわけじゃないんでしょ?」
母の視線に頷く。
「だけど!」
有馬はまだ言い足りなさそうだ。
「あんたたちが私が愛情を向けない分菊花に愛情を向けようと思ったのは、まあ仕方ないことだと思う。だけど、よ。」
「だけど?」
言葉を止めた母に先を続けるように皐月が促す。
「自分たちが思うように菊花が人生を送れば、それで満足なの?」
母の言葉に3人が戸惑った様子を見せる。
「…僕らが思うように、菊花には幸せになってほしいですよ。」
「そう。それで付き合う相手も自分たちが吟味していいと思える相手に決めたいわけ?」
「…それは…。」
3人が目を揺らす。
「そこに菊花の意思はあるの?」
「…でも、あいつとなら菊花は幸せに…。」
「有馬。誰が菊花の幸せを決めるのよ。」
母がぎろっと有馬をにらむ。
「私の幸せは私しか決められない。」
私のつぶやきに母が頷く。
「そうでしょうね。自分の幸せは自分しか決められない。他人に幸せそうねって言われても自分がそう思ってなければ幸せなんかじゃないでしょ?」
ものすごく不本意そうに有馬たちが頷く。
「こんなこといい年した息子に言いたくもないけど、たっちゃん巻き込むとか、本当にやめなさいよ。」
母の言葉に有馬たちが目をそらす。…というか、気づいていたのか。興味ないものだとばかり思っていた。
「ごめんね、赤沢君、だっけ? ちょっとした親子げんかに巻き込んじゃって。」
「いえ。今日は僕が謝罪に伺ったんです。だから、お兄さんたちが悪いってわけではなくて…。」
「まあ、菊花との間に色々あったから、この3人が怒ってるんだろうけど、気にしなくていいのよ。だって、誰かと付き合ってれば誰だって色々あるでしょ。」
「母さん! 母さんだって話聞いたら怒りたくもなるよ!」
桜佳が忘れていた怒りを思い出したみたいだ。
「それは、菊花が赤沢君に怒ればいいだけの話でしょ。あんたたちが首突っ込んであーだこーだ言う話じゃない。私はそう思うけど。」
「僕は菊花さんとの結婚を考えています。ですから、皆さんの怒りをなかったことにはできません。」
赤沢の一言に部屋が一瞬静まる。
「ああ、そうなのか。でもね、まあ結婚して親戚づきあいしようと思ったら、確かに確執はない方がいいと思うけど、結婚にこの子たちの許可はいらないから。親の許可だっていらないのよ? 二十歳過ぎてるからね。」
「ちょっと母さん!」
「なんてこと言い出すんですか!?」
「そんなことしたら許さないからな!」
母の言葉になのか皆の勢いになのか、赤沢は苦笑している。
「皆さんに許可をいただけるとありがたいです。」
「あら、律儀ね。なら、その日が来るのを楽しみにしとくわ。じゃ、皆解散!」
母の掛け声に、3人を見ると、ものすごく不満そうではある。
「解散。ほら、店から出る!」
有無を言わせず桜佳を引っ張って外に出ようとする母と目が合う。
「菊花、門限はないんだからね。」
「ちょっと母さん!」
「今日はこのまま帰ります。」
「そう。気を付けて帰ってね。」
「色々、ありがとうございます。」
赤沢が深々と礼をすると、母は軽く肩をすくめてから店から出て行った。…桜佳を連れて。
「…俺ら、許したわけじゃないから。」
有馬の声に、赤沢が頷く。
「何度でも足を運びます。」
「赤沢、行こう?」
赤沢は私に小さく頷くともう一度有馬と皐月に深々とお辞儀をして、店を出る。
「…色々、ごめんね。」
車を止めたコンビニへ向かいながら、言葉がこぼれる。
「いや。菊花が謝ることは何もないよ。」
「みんなが睨みつけたりだとか、桜佳が殴ったりだとか、親子喧嘩を見せちゃったりとか、色々あったから。」
「いい。覚悟はしてたから。田村さんが菊花のお兄さんだとは思っても見なかったけど。」
あ、そうだ。取引先だと話していた。
「…仕事、大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
…今はこの赤沢の言葉を信じるしかない、か。
赤沢の会社も、桜佳の会社も同じくらいの規模だから、力関係についてはちょっとわからないけど。
「田村さんは公私混同はしない。…今まで何回か組んで仕事してるから、それは信じてる。」
信じてる。
さっきも自分で使ったはずのその言葉が、私の胸にひっそりと、そして確実に落ちてきた。




