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「そりゃあね、親としても子供が傷ついたりしてほしくないし幸せな人生を歩んでほしいとは思うわよ。だけど、生きている以上傷ついたり辛かったりするのは当たり前でしょ。逆にそんなことが全くない状態で生きていくってことが可能なのか教えてほしいんだけど。」

「…だからそれがないように俺たちが!」

 有馬が勢いよく訴えると、母がまたため息をついた。

「何? 四六時中一緒にいて傷ついたり辛くないようにその原因になりそうなことを回避して回るわけ?」

「…そんなこと無理でしょうけど…。可能な限りはそうしたいと思ってます。」

「皐月が思う傷つくことと辛いことって、菊花にとっても同じことが同じように傷ついたり辛かったりすること?」

「それは、そうなんじゃ…。」

「10人いれば、10人とも同じ反応するわけじゃないでしょ。兄弟なんだから近いかもしれないけど、まったく同じだとしたら、気持ち悪いだけでしょ。だって、皐月の全くのコピーってことなんだから。」

「いや、でも、それは…。」

 言いよどむ皐月に母が私を見る。

「ねえ、菊花は、有馬や皐月や桜佳は全く同じ考えを持った人間だと思う?」

 私は首を横に振る。3人ともいや私も含めて4人とも顔は似てはいるけれど、性格はそれぞれ違う。時折同じようなことを考えていることがあって、それに血のつながりを感じることはあるけど、それは本当に時折のことで、いつものことじゃない。

「なのに何で、あんたたちが菊花が傷つくとか辛いとかそういうことを決めれるわけ?」

「決めてるわけじゃない。でも実際菊花が…。」

 桜佳の反論に、母が、は、と鼻で笑う。

「それで、菊花が辛そうだから、彼氏を責めるわけ?」

「笑うところじゃないでしょう。菊花が…。」

「私も放置してたのが悪かったんだと思うんだけど、過保護もここまでくれば害にしかならないと思うけど。」

「そんなことない! そうだよね、菊花?」

 有馬と皐月と桜佳が私に同意を求めてくるけど、私は頷くことができなかった。

「菊花はもう25だよね。25にもなるんだから、自分のことは自分で責任持てるでしょ。傷ついたって辛かったって、それは菊花が自分で痛みを受けるしかないでしょ。」

「母さんはいつもそうだ! そうやって俺らのこと突き放して、自分だけ達観したような口ぶりで! 子供のことなんて心配なんてしてないんだろ!」

 有馬の言葉に、母が苦笑する。…有馬も、母の放置気味の様子に不満があったのだと初めて気づく。

「一応人の親なんだから、心配くらいはするけど。まあ、あんたたちの“心配する”は自分たちが菊花に向けてる“心配する”なんだろうから、私のは“心配する”にも入らないのかもしれないけどね。一応心配してるから突き放してはいるんだけど。」

「それのどこが!」

 珍しく皐月の口調が荒い。皐月も、そう思っていたのだろう。

「だって、親が死ぬまで子供の面倒見れるわけじゃないんだから。自分で生きていけるようになってもらわないと。親が過保護でなんでも先回りしてたら、子供は確かに失敗も何もしないかもしれない。けど、失敗も何もしないで大人になって、それで自分で生きていけるって思う? 私はそうは思わないから、突き放してるんだけど。ほら、ライオンは子供を崖から落とすって言うでしょ?」

「そんなん比喩だろ。…子供に興味がないのかと思ってた。」

 桜佳のつぶやきに、母が、あー、と声を漏らす。

「さすがに興味がなくて4人も産むほど痛みに強いわけじゃないんだけどね。」

「興味があるようにも見えなかった。」

 つい、私も口をはさんでしまう。母が私を見て困ったように笑う。

「有馬を産むときに、血はつながってるけど他人なんだな、って思いながら産んだから、割とほかのお母さんと比べると子供との距離感はあったかもね。」

 …どういうこと? 私だけじゃなくて、有馬も皐月も桜佳も、きょとんとなっている。

「は?」

 有馬の声に、母が肩をすくめる。

「有馬はさ、陣痛が来て破水しても、なかなか出てこなくて。陣痛の合間に、“何で出てこないんだろう”って考えてて、“そうか、自分と同じ思考回路じゃないんだから、自分と同じようには動いてくれないよね”って考えてたわけ。」

「は?」

 有馬がもう一度声を出す。

「意味わからない? これ言うとみんな大体そんな感じの反応だけどね。」

「いや、陣痛の合間にそんなこと考えてる余裕ってあるの?」

 有馬は立ち合い出産をしたので、陣痛の合間などがどういう状況なのか間近で見ているからの疑問なんだろう。

「え? あったけど?」

 有馬が首を横に振る。

「やっぱり母さん変わってるわ。」

 有馬のため息に、母がクスリと笑う。

「だから、こんな感じの子育てなんでしょ。理想の母親像押し付けられても無理なものは無理。過保護って何それよ。あんたたちが私の愛情疑ってても仕方ないと思うけど、一応あるってことは知っといて。」

 悪びれもせずそう言い切る母に、私も他の3人も、ため息しか出ない。

「…まあ、それが母さんですよね。」

 ぽつりと呟いた皐月に、有馬も桜佳も私も頷かざるを得ない。

「まあね、有馬が割と下の子の世話焼いてくれたから、一層手が離れるのが早かったのもある。有馬には大分助けられたと思うわよ。」

「はぁ。」

 有馬の力ない頷きに、確かに母よりも有馬から世話を受けた記憶の方が多く残っていることを思い出す。多分一番母の手をかけてもらっていた時には、幼すぎて私の記憶は残っているわけもないんだから。

「で、あんたたちが今こうやってることについてだけど、菊花が傷つくのも辛いのも菊花の人生なんだから、あんたたちが口出すことじゃない、ってこと。」

「だけど…。」

 桜佳の勢いは、さっきよりも大分弱まった。


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