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「諦めきれなくてそれでも確信も持てないのに告白する勇気もなくて。だけどあのとき菊花は2番目で良いからって傷ついた顔しながらも自分の気持ちを伝えてくれた。だから、それに甘えた。居もしない本命に嫉妬する菊花を見て、自分を好きでいてくれるって安心してた。ごめん。」

「ひどい!」

「ひどいだろ。ごめん。」


 そう言っている赤沢の目はやさしい。逆にそのことが、心に堪える。


「ひどい!」

「菊花なら仕事に夢中になって連絡途絶えてもわかってくれるって甘えてた。大学のときバイト優先するの理解してくれてたし、社会人なんだから理解してくれるだろうって…。ごめん。」

「そんなこと知らないし!単に2番目なんだからって思ってた!」

「それが2番目って勘違いを助長するのもわかってたけど、それも自分が好かれてるか確認するためだった。言わずにいてごめん。」

「ひどいよ!」


 叶わないと軋んでいた心を思い出して涙が溢れる。


「ごめん。」

「ひどいよ!」


 叩こうと出した手を赤沢がつかんで胸に引き寄せられる。


「ごめん。」

「付き合ってるなら休みの日も二人で出掛けたり過ごしたりしたかったのに!」


 さっき普段着の赤沢を見て思ったことを口にする。


「ごめん。菊花は菊花で休みに宝塚とか見に行ったりしたいとかあるだろうと思ったし、俺も休みの日は疲れてて寝てたかったから。」

「宝塚なんてずっと見に行ってない!赤沢からの連絡待ってた!」


 え、と赤沢が声を漏らす。顔を胸にうずめてしまっていて表情は見えない。


「ごめん。付き合うことで菊花の行動を制限したいわけじゃなかったんだけど。」

「付き合ってない!」


 赤沢が大きくため息を漏らす。


「ごめん。そういう風に思わせたのは俺だね。ごめん。」


 ぎゅっと抱きしめられた体に、溜まっていたものがあふれ出る。


「ずっと2番目だって思ってて辛かった!」

「ごめん。自分が安心するためにずるいことして、ごめん。」

「2番目だから自分から連絡もできなくて辛かった!」

「ごめん。自分の都合だけしか考えてなかった。ごめん。」

「一緒に出掛けたりしたかった!」

「ごめん。どこかに出かけるより菊花とのんびり過ごす方が好きだったから、出かけようとも思わなかった。ごめん。」

「嘘ばっかり!他の彼女とは出かけたりしてたでしょ!」


 学生時代、赤沢の口からそんな予定を聞いてつきりと痛みを覚えていたのだ。


「あれは無理やり行かされてただけ。自分で行きたいと思ったことは1回もない。でも、菊花が出かけたかったんなら行っても良かったんだよ。菊花が何も言わないから菊花ものんびりする方が好きなんだと思ってた。ごめん。」

「本命として付き合ってないんだから出かけるのは諦めてた!言っちゃいけないと思ってた!」

「ごめん。そう思わせたのは俺だね。ごめん。」

「好きなのに好きって言えなくて辛かった!」

「ごめん。言わせないようにしたのも俺だね。ごめん。」

「謝るくらいなら、きちんと1番目だって教えてよ! 私が好きでいていいんだって教えてよ!」

「ごめん。本当にごめん。」

「私、赤沢のこと好きでいいの?」

「好きでいてくれないと困る。」


 本当に困ったような声に、顔を上げる。


「本当に好きでいいの?」

「好きでいてくれ。こんな卑怯な奴だけど、好きでいてほしい。」


 こんなすがるような目をした赤沢は初めて見る。


「私のこと好きなの?」

「卑怯なことしてでも菊花の反応見たいと思うぐらい好きだ。」

「卑怯なこととか必要なかった。」

「うん、ごめん。」

「ただ好きって言ってもらいたかった!」


 赤沢が頷いて私を見る。


「好きだ。」

「今更言うなんてひどいよ。」

「うん、ごめん。でも好きだから、結婚して?」


 …結婚。突然の展開に頭がついて行ってないから、その単語がものすごく唐突に思えるのは私だけ?


「…私が誤解したままってわかってたのに、何で結婚なんて言い出したの?」

「今日目が覚めて、菊花が隣に居ないのがものすごく寂しくなったから。」


 …それって…。


「私の誤解解いてから言うことだよね?」


 一緒に過ごせないのは当然のことだと、数十分前まで思ってたんだし。


「誤解を解こうと思ったら、連絡とれなくて、慌てて家に行ってみたら、もぬけの殻だった。」

「…諦めるって決めたから、ね。」

「今も?」


 恐る恐る聞いてくる赤沢なんて、赤沢じゃないみたいだ。


「諦めないで良いなら、諦めたくはない。」

「諦めないで。」


 諦めなくていいの? そう思って、ふと、今日決意したことを思い出す。


「達哉君とは…何でもないから。」


 赤沢が苦笑する。


「それは菊花の顔見てれば分かる。あいつは本気でそうなりたいと思ってたみたいだけど。あいつの気持ち知ってたの?」

「ううん。今日初めて知った。」


 赤沢が肩をすくめる。


「菊花に気持ちを気付かせられるってすごいな。でも菊花は渡さないけど。」

「そんなに鈍くない。」

「自覚はないだろうね。諦めた奴何人か知ってるけど。」

「嘘。誰?」


 …やっぱり兄たちのせいで仄めかされても気づかないようになってしまっていた?


「教えない。俺以外に目を向けられても困るし。」

「…向けられるなら、とっくに向けてる。2番目なんて好きじゃなきゃ言わないし続けない。」

「うん。菊花が俺を好きでいてくれて良かった。」

「でも、もう二度とやりたくない。」

「うん、ごめん。でも、菊花はずっと1番目だった。これからもやらなくていい。」

「馬鹿! 自分が勘違いさせてたくせに!」

「うん、ごめん。」

「ずっと辛かったんだから!」


 もう同じことの繰り返しで堂々巡りになっているとは分かっていても、言わずには、訴えずにはいられなかった。


「うん、ごめん。卑怯で弱くてずるくて菊花の気持ちに甘えて、ごめん。」

「それでも赤沢のこと好きなんだよ! ひどいよ!」

「うん、ごめん。だから、菊花結婚して。」


 結婚…。

 それが私自身への話だとは、まだ実感がわかない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 赤沢くんが自分の都合の良いように対応していたせいで、菊花ちゃんが辛い思いをしていたのですから、もっと責めても良いような気もしますが、これも惚れた弱みって事なんでしょうね。
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