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この作品、2017年頃に完結してた作品なので、もう6年以上前の作品になります。

色々と粗はあると思いますが、純粋に楽しんでいただけると幸いです。

 窓から、昼間のうだるような暑さとは違う冷たさをはらむ風が入ってくる。

 それと同時に、何の虫だかはわからないけれど、虫の鳴く声も聞こえてくる。

 街中にも、確実に秋は色づき始めている。

 もそもそと口の中のものを咀嚼すると、覚悟と共にこくんと飲み込んで口を開く。


「今日職場で、彼氏いるのって聞かれた。」


 私の言葉に、向かいに座ってきれいに箸を運ぶ男が面白いとも言いたげに口許を緩める。


「へぇ。なんて答えたわけ?」

「ノーコメント。答える義務もないし。」


 これはその質問をした相手にした答え。でも、自分に向けて言われてるのだと捉えられるように敢えて曖昧にした。


「まあ、確かに。」


 それだけ言うと明らかに興味をなくした様子の男は、またさっきのように箸を運ぶ。

 そして、その姿に、勝手に傷つく。

 私はあんたにとって、一体何なの?

 この2年半、問いたくて問えなかった言葉が、さっきみたいに試すような言葉になり、そして、思った言葉を貰えなくて勝手に傷つく。その繰り返しだ。


「明日早いから、今日は帰って。」


 そして、この言葉で関係を拒む。


「早いって言っても7時でしょ。俺は大丈夫だから。」

「だから!あんたはよくても私は駄目なの!マジで朝イチに提出しなきゃいけない書類あるんだから!」

「わかったよ。」


 その返事に、ホッとするのと同時にがっかりする。

 その気持ちがばれないように息を細くはく。


「起こせばいいんでしょ?」


 沸き上がったのは怒りとほの暗い喜び。


「そんな問題じゃない!」


 でも、怒ってみせて、喜びの破片に気づかれないようにする。

 ……そうでもしなければ、私の気持ちは今にも均衡を保てなくなる。


「やだな。久し振りだから、拗ねてるんだろ。」


 確かにそうだ。この前に会ったのは一ヶ月前だった。


「自分勝手に来るから怒ってるんでしょ!?」


 でも図星を指されても、表情は変えないように気を付ける。

 私から連絡が取れない以上、こいつからの連絡しか会う手段はない。


「だって菊花がそれでいいって言ったし。」


 ……確かに言った。

 だって、そうでもしなければ、赤沢こいつの2番目のポジションにはいられないと思ったから。…いや現在進行形で思っている。

 赤沢こいつにはふわっとした可愛らしい本命がいるから。


「言ったけど。」


 破れかぶれでそう返事すれば、もうyesの返事と同意だ。もう気持ちが負けている。

 赤沢の目が楽しそうに微笑めば、それがスタートの合図だ。




 赤沢と知り合ったのは、大学のゼミだった。最初は、同じゼミの空の恋路をからかう仲間って認識だけだった。

 でも打てば響くと言うか、お互いに掛け合いをする間が心地よくて、いつの間にか赤沢への恋愛感情を抱いていた。


 その時には 赤沢にはふわっとした可愛らしい彼女がいた。…今の彼女とはもう違うけど。

 赤沢はタイプが分かりやすくて、付き合う相手付き合う相手が皆ふわっとした可愛らしい子だった。

 大学時代に見た彼女は3人、就職してから見た彼女は今のところ1人で、今も同じ彼女かはさすがに知らない。


 それで、私と赤沢がこういう関係になったのは、からかっていた空の恋路が関係している。

 私と赤沢が所属していたゼミは6人いて、そのなかに空と空の想い人である佐竹がいた。そして6人は仲がよくて、卒論お疲れ様です旅行をすることになった。

 その旅行中に空は佐竹に振られることになって、それを慰めるために、私ともう一人のゼミ友達の秋の3人で飲むことにした。

 それに混ぜなかったことに不満を持った赤沢に説明がてら呑むことになって、それでなし崩しに体の関係を持ってしまった。

 一夜の過ちってやつだ。


 私が恋心を持っていたからって、赤沢がそういうわけだった訳もなく。

 翌朝起きて、いつものポーカーフェイスではなくて何か言いたげな赤沢に、気まずい関係になるなら、もう今更だと、2番目でもいいから付き合ってほしいと言った。

 完全に破れかぶれだ。私は赤沢のタイプであるふわっとした可愛らしい系にはなり得ないから。

 身長は赤沢と変わらないくらい。髪も短くて、どちらかと言えば男役。あ、これは宝塚の影響は受けてると思うけど、高校時代まで女の子に取り囲まれてたのは間違いない。

 で、赤沢は、いいよ、と軽く言った。


 確かに2番目を提案したのは私だけど、あのときはショックもあった。

 なんと言うか、一途でいて欲しかった。

 勝手な乙女の幻想を赤沢に押し付けているのは頭では理解しているけど、どこかで受け入れられたことに喜びを見いだしてはいるけど、それでも、きっぱりと振って欲しかったのも本心ではあった。

 ただ、そのわずかな喜びが、赤沢との歪んだ関係をスタートすることを後押ししてしまった。

 それから、本命にばれないように、赤沢の連絡を待ち赤沢が来るのを待つのが、私たちの形になった。


 だから、赤沢が来るのはまちまちだ。2週連続で来ることもあれば今回みたいに1ヶ月とか2ヶ月近く空くこともある。

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