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46(最終話)

「ブレスレット、つけても?」

 ファルトがそう提案するとランカが頷く。ファルトが箱からブレスレットを取り出すと、ランカの細い手首につけた。

 ランカはそれを少し掲げて大事そうに指で触れる。全ての行動が嬉しくて、ファルトは思わずもう一度抱きしめた。


「ねぇ、私も用意してたの」

 そう言ってランカは少しファルトの腕から抜けて行く。たった少しのことなのに、ファルトは腕の中が空っぽになったことを寂しく感じてしまう。


 前よりずっと重症だ。


 早く帰ってきて欲しいと思い待っていると、ランカが手のひらに何かを持って戻ってきた。

「仕事の邪魔にならない方がいいかなって思って」

 ランカが手のひらに乗せてきたのは、銀色に黄緑色の宝石が付いたイヤーカフだった。


「ランカの色」

 そう口にするとランカも恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「だって、やっぱりいつも側にいて欲しいでしょ」

 自分の代わりに。

 それはファルトも同じだった。


 この国では結婚をするときに特に魔法士同士だと、互いに身につけるタイプの魔法道具を交換することがよくある。二人がそれぞれ準備していたのもそう言う理由があった。


「ファルト座って」

 ランカに勧められて椅子に座り直す。するとランカがファルトの左耳に触れる。普段触れられないところのため、ファルトはぞくりと体が震えるのを感じた。

「つけるね」

 ランカが少し手こずりながらもファルトの耳に用意していた銀色のイヤーカフをつける。

「痛くない?」

「あぁ、大丈夫だ」

 とても幸せな気分に浸り、ファルトはランカを抱きしめ直す。立っているランカと座っているファルトでは高さが違うが、気にせず抱きしめた目の前には、予想以上にふにゃりとしてとても柔らかい感触のランカの胸があった。

「……、ランカ」

 少し顔を上げたファルトがじろりとランカを見た。見られた方のランカは焦ったように言い訳をする。


「も、もう寝るつもりだったし!」

「そのまま家の扉を開けるのはダメだってあれほど」

 ファルトが眉を寄せてため息をつくと、ランカが慌てる。

「危険な人物だったらそもそも森が警告してくるし!」

「善良そうなやつだってランカを前にしたら変わるかもしれないだろ?」

 そう言ってファルトはそのままランカの胸に顔を埋める。わかっていてのその行動に、ランカが少し恥ずかしそうにしてからファルトの髪を撫でる。

 

「ファルトみたいに?」

 くすくす笑ったランカにファルトは無言だ。



 春に再会してから、もう冬の季節がやってきた。時間が過ぎるのは早いと感じながら、ファルトは顔を上げる。


「結婚の契約したら、一緒に暮らさないか?」


 ファルトの言葉にランカが目を見開いた。

 この国では結婚が一緒に暮らすことではない。暮らす人が大半ではあるが。

「いや、一緒に暮らしたいんだ」

 ファルトの強い視線に、ランカは少し瞬きをした後、明るく微笑んだ。

「うん、私も一緒に暮らしたい」

 ランカの意外とあっさりとした承諾にファルトの方が焦る。

「え、でも、この森から出られないんじゃ?」


 ここはドミエの魔女が管理する森である。ランカが出て行ったら誰もいなくなる。ランカの話ではランカの前はランカの師匠にあたる人物が住んでいたということだった。

 驚いたファルトに対してランカは笑って答えた。


「ドミエの魔女は縛られないの。私は好んでここに住んでいたけど、ずっとここに居なきゃいけないわけじゃないよ」

「え、じゃあ、そんなに悩む必要がない……?」

 ランカはそこで微笑むのをやめて真剣な顔で首を横に振る。


「ただ、この森を出ると無収入になるの!ドミエの魔女としての収入がゼロになるから!そこは大問題!」

 ランカの言葉にファルトはドミエの魔女の仕組みがわからず首を傾げた。

「<魔女の森>にいるドミエの魔女だけが、世間一般に場所を特定されている魔女だから、ドミエの魔女に対する依頼は全部ここに来るの。だから、ここにいる間はここにいる魔女が自分で全部引き受ければ全部の収入が入るの」

 わかったようなわからないような仕組みである。ファルトが納得していないような表情をしたせいか、ランカは話を続ける。

 

「ドミエの魔女は自由だから、みんな収入源は様々なの。薬屋をしている人もいれば、服屋をしている人もいれば、花屋の人もいるの。森に魔女がいなければ、その仕事は各地に散らばっている適切な魔女に依頼が飛んでいくの」

「どうやって?」

「そうなってるの。仕組みはわからないけど」


 そう言われてファルトは「あ」と声を上げた。

「また別の魔法陣か」

「魔法陣?」

「幻影都市に有った魔法陣の一つ。最終的に探して送るって言う魔法陣あったの覚えてるか?」

 ランカは少し思い出すように考える。なんせ今から半年以上前の話だ。

「少し他のより小さいやつだっけ?」

「そう。この森には二つ魔法陣が存在しているんじゃないか?」

 ファルトの言葉にランカは話が読めず混乱した。

「二つ?今言っていたもの以外も?」

「そもそものこの森の属性分けは、魔法陣によるものだと思う。……というか、ヴィザさんの予想だとそうらしい」

 ランカは思ってもいなかった話に、ぽかんと口を開けていたが思い至る魔法陣を思い出したのか、思案し始める。


「言われて見るとそうかも。そのほかに、ドミエの魔女に仕事を振り分ける魔法陣があるってこと?」

「あぁ」

「確かにドミエの魔女もこの森もかなり古い存在だから、そう言う魔法陣が有ってもおかしくないかも」

 思わず自分の立っている場所の下を見る。もしかしたら魔法陣がこの下に埋め込まれているのかもしれない。


「やっぱりあの幻影都市に有った魔法陣は、色んなところにある魔法陣を写したものなのかしら」

「おそらくな。俺は全然思いつかないんだが、ランカはどこかこの場所にありそうって思いついたりするか?」

 ファルトの言葉にランカは少し考えてみたものの、特に答えは出ない。

「そうだなぁ。パッと思いつかないけど、……古代復元都市とか、魔法都市とか、案外色んなところに何かの機能のためにあるのかも」

 明確な答えはないが、特に場所が氷結都市に限らないのであれば、色んな場所にあると想像できる。


「世の中にはすごい魔法陣を考える人がいるのね。大昔からずっと動き続けてる魔法陣ってことだもんね」

「そうだな」

 二人で頷き合っていたが、話がそれたことにようやく気がついた。



「……、ファルト、実はね、私ドミエの魔女を主な仕事にしないなら、ちょっとやってみたいことあるんだ」

「やってみたいこと?」

「うん。もしかしたらすぐにはできないかもしれないけど、目指してみたいと思ってるの」

 ランカの真剣な表情にファルトも頷く。

「目指したいものって?」

 ファルトの言葉にランカが笑って答える。


「魔法学校の教師!」


 あまりにも意外過ぎる答えにファルトは思わずパチクリと瞬きした。

「え?魔法学校の?」

「この前、しばらくの間ヴィザさんの奥さんに魔法について教えてた時期あったでしょ?」


 ヴィザに頼まれてファルトはヴィザの妻である女性にランカを紹介した。歳の近かった二人はすぐに仲よくなり、ランカは魔法の使えない彼女に魔力の感じ方や魔法の簡単な使い方を教えていた期間があったのだ。


「今まで自分の大好きなものばかり追いかけてて、人に何かを教えたり、伝えたりってしたことなかったんだけど、わかったとかできたことを喜んでくれたことが凄く嬉しくて。だから、目指してみたいんだ」

 そう言ったランカはもう意思が決まっているようだった。


「そうか。応援する」

「ありがとう!あ、でも収入ない間もちゃんと家賃とか食費とかは払うからね!」

「払わなくて良いっていっても、どうせランカの気が済まないだろ?」

 もはやランカの性格もよくわかっている。ファルトがいらないと言ったところで無駄なのだ。しかし疑問が残り質問してみた。


「魔法学校の教師は、国に縛られてることにはならないのか?一応国の運営だろう?」

「ドミエの魔女は考え方も自由なの」

「……それってつまり、なろうと思えば士官にもなれるってことか?」

「あの時は、ドミエの魔女だからって断ったけどね」

 笑ったランカにファルトは少し過去を思い出した。


 魔女は縛られるのを嫌う。自由に生き、自由に住み、自由に仕事し、自由に死ぬもの。

 ドミエの魔女とは魔女の集団でありながら、その生活は個々の意思に任せられている。ドミエの魔女であることを明かさず生きる者さえもいるそんな存在。


「士官には興味ないのか?」

 未練がましく聞くファルトにランカが少し目を伏せる。

「……ファルトが近くにいたら、仕事なんてまともにできそうにないし」

 少し赤くなってそんな風に言われて心が躍らないはずがない。



 ファルトは椅子から立ち上がると無防備な格好のランカを抱き上げる。

「ひゃっ⁉︎」

 驚いて声を上げたランカにファルトは真剣な顔で言う。

「結婚契約の素材選びは明日にしよう」


 結婚は紙とインクがあれば成り立つ。この国の場合末長く幸せに暮らすためにそこに使う紙やインクにこだわるのだ。


 ランカの返事も待たずにファルトは続きの部屋へと移動して、勝手知ったる彼女の家を目的の場所を目指して歩く。


「ファ、ファルト、明日も仕事じゃないの⁈」


 カチャリと開けた扉の向こうはランカの寝室だ。ド派手な色の魚のクッションが横たわっているが、そんなことも気にならない。

「ちゃんと休暇を出してきた」

「よ、用意周到だねー……」

 返す言葉を失ったランカは諦めてファルトにしがみついた。


 ベッドに降ろされたランカは観念した。

「優しくして……」

「善処する」

「善処してくれたことない」

「それは非常に心外だな」


 二人は目が合うとどちらともなく微笑み合い、目を閉じ唇を重ねた。二人の時間はまだこれからだ。





■おまけ■


「ランカ先生!この古語の意味についてお聞きしたいんですが」

 生徒に呼ばれてランカは振り返った。男子生徒の一人が質問のために声を掛けたのだ。ランカは微笑むと、空き教室に促す。


「この古語は、風の精霊を褒め称える言葉で、特に季節の精霊以上に利用することが多いの」

 次々と質問をしてくる熱心な生徒に丁寧に答えていると、突然生徒の動きが止まり顔が青ざめる。

「どうしたの?」

 ランカが顔を覗き込もうとすると、後ろから強い力で肩を掴まれた。驚いて振り返るとそこには見慣れた顔があった。


「ファルト?何で魔法学校に」

「もう就業時間外だ」

 ファルトはランカではなく男子生徒をみて言った。冷たい視線に男子生徒は震え上がると、慌てて席を立ち上がりランカに会釈だけして慌ただしく教室を出て行った。

 

「えぇえ⁈ちょっと!……、大丈夫だったのかしら」

「大丈夫だから立ち去ったんだろう」

「……ファルト、何で学校に来てるのよ」

「ちゃんと校長の許可を得てる」

「そのコート着てたら当然でしょ!」

 いつもの銀の刺繍の黒いコートを身につけたファルトはどこからどう見ても王宮士官だ。王宮士官に言われて出入りを禁じられる校長などいないだろう。

 

「あんなに丁寧に教える必要あるのか?」

 何故かとても不満そうなファルトが呟く。

「質問がある生徒に丁寧に答えるのなんて当たり前でしょう」

「あの男子生徒はそれだけじゃない」

「もう、何を言ってるの」

 色んな生徒から人気だとファルトの耳にも入ってきており、結婚したというのに不安に駆られるファルトはじっとランカを見つめる。

 

「若い男の方がいいのか?」

「……、ホントに何の話をしてるのファルト。一緒にご飯食べるから迎えに来てくれたんじゃないの?行きましょ」

 呆れた顔で軽くあしらわれたファルトは不満そうではあるものの、ランカの言葉に頷く。

「魔法都市の店に予約した」

「そうなの?珍しい」

 いつもは家に帰りやすい王都の店を選ぶことが多いのに、不思議だなとは思いつつランカは大して気にしなかった。



 が、次の日の学校はランカ先生にはイケメンの恋人がいると言う話題で持ちきりだった。生徒たちにそれについて何度も聞かれることになり、ランカはファルトが何故魔法都市で食事をしたのか意図を理解した。

 

「そもそも恋人じゃなくて、夫なの」


 ランカが生徒にそう答えると悲鳴やため息が学校中に響き渡った。この国では結婚しているかどうか見た目からでは判断できないため、生徒たちは勝手にランカは独身であると推測していたのだ。



「ファルト!昨日わざと魔法都市で食事したのね⁈」

「不埒なことを考える生徒には今のうちに分からせておかないと」

「そんなこと考える生徒なんていないから!」

「そう言うこと言うから心配なんだ」

「ファルトは心配しすぎよ!」

めちゃ好きな二人で、とても楽しく書けました!


完璧そうな顔して完璧じゃないファルトが結構個人的に書いてて楽しかったです。ランカは魔女スイッチ入ると頼りになる感じしますが、それ以外の時は結構適当だったり抜けてる子で、ファルトに押されて流されてつつ、意識して戸惑ってる姿が好きでした。


きっと結婚して一緒に暮らしてても、ファルトは心配で仕方ないだろうなと思って書いたおまけでした。


ここまで書いたのでもう個人的にはかなり満足です!

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです!

下の方から⭐︎で評価頂けると励みになります!


またこの世界の作品書けたら良いなぁと思います。

ありがとうございました(*^^*)

とても楽しかったです!

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