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 ヴィザは魔法で天井まで上がると、魔法陣らしきものがある中央で止まる。両手を下にかざすと、詠唱を始める。ヴィザは真っ赤な髪の色と違い青系統の魔法士である。詠唱を続けると手のあたりがじわじわと青く輝き始める。

 

「どうするつもりなの?」

「たぶん風で削るんじゃないか?」


 そのファルトの予想通り魔法陣を覆うような大きな円形の風が起こる。上にいるヴィザのコートもバサバサとはためく。彼の手の前が一層青く輝きを増した瞬間、風も風力が上がり、ファルトとランカも思わず風を避けるために腕を前に翳す。吹き飛ばされそうなほどの風だったがそれは一瞬で終わる。


 床を見るとあの一瞬の風で磨かれたらしく、奥が透けて見えるようになっていた。

「わー!」

 思わず驚いたらしいランカが床を眺めて触っている。

「ホントにつるつるに磨かれてる!」

「器用だな」

 ファルトもつられて床に触れる。ざらざらとして奥が見えなかった部分が綺麗に研磨されているようだ。


 上から降りて来たヴィザは二人の前に降り立つ。

「これで読めるだろう」

「十分です」

 床の下にある魔法陣の文字を今ははっきりと読むことができる。

「魔女殿は飛べるのか?」


 今回は幻影都市の時と違い、細かな読解は目的ではない。ひとまずどんな意味の魔法陣なのかがわかればいいため、全体を上から見た方が早い。

「できないなら抱き上げて飛ぼうか?」

 その言葉に思わずヴィザを睨みつけると「冗談だ」と手を上げられた。そんな様子を気にすることもなくランカは自身のブレスレットから何かを取り出した。オーバル型の半透明の白い板のようなものだ。


 ランカは取り出してすぐに魔力を込めて起動させるとそれは空中に浮き、それにひょいっと横乗りした。

「見てくる」

 男たち二人のやり取りなどおそらく目にも入っていなかった様子で、自分の魔法道具で飛び上がって行った。


 まぁ、見えたのは明らかに古語の魔法陣だからな。俺も気になる……。


 ランカはそれを見た時点で早くみたくてうずうずしていたに違いない。さっさと飛び上がると先程までヴィザがいたあたりから魔法陣を見下ろしている。

 しばらくするとその表情が驚きと興奮に変わり、ファルトは一体どんな魔法陣が描かれているかとても気になり始めた。

 ファルトは残念ながら飛行用の魔法道具を持ち合わせていない。


 これからは持ち歩くようにしよう。


 そう決意して大人しくランカを下で待っていた。しかしヴィザは他にも見ることがあるらしく、二軒の建物の方を熱心に確認しているようだ。ヴィザは別に魔法道具マニアというわけでもないため、単純にあの建物だけ何故残っているかの確認をしているのかもしれない。

 ファルトはパン屋側の建物内部を調べるように言われているが、ランカを一人にしたくなくてその場から動かなかった。


 どれだけかするとランカは一気に下に降りて来た。少し頬を赤くして興奮した様子でファルトに話しかけてくる。

「一緒だった!」


 一体何と?


「幻影都市で見た魔法陣!」

「え?」

「一番最後に記録したあの巨大な魔法陣、あれと全く一緒だよ!」

「……、季節の精霊を入れ替える内容のやつか」

「そうそう!」


 ランカに初めて仕事を依頼した時のことを思い出す。複数の魔法陣の読解の仕事だったが、いくつかの読解をした魔法陣のうち最後の魔法陣の内容と同じだという。


 魔法陣は大きく分けて三層の円でできており、大きいものがその魔法陣の大枠の意味を決めて、小さい円ほど具体的な発動する事項を決める構造となっている。

 最後の魔法陣の内容は、ざっくりと次のようなものだった。大きな縁の中には、季節を入れ替えるという内容の記述がされていた。真ん中の円には、二つの中精霊を入れ替える内容が書かれており、最も小さな円には冬と春の中精霊をと具体的な内容として記載していた。


 大地を司る季節の精霊を入れ替えると言うと、単純に季節が変わる話であり、かなり大掛かりな魔法である。しかも本来の季節に逆らう話である。それなりに精霊の抵抗もあるため、簡単な内容ではない。

 つまり、この魔法陣上では冬の季節が来るとその精霊は問答無用で春に変えると言う内容なのだ。とんでもない魔法陣である。

 しかも季節の精霊は、各属性毎にそれぞれおり、6体の中精霊の入れ替わりを示しているのだ。


 こんな魔法陣一体どこで使うのかと思っていたのだが、まさか研究されていただけではなく、実際に国内に存在するとは思ってもいなかった。


「こっちが先なのか?」

「どうだろう。さすがにわからないね」


 この魔法は今はその輝きを失っている。ぼんやりと輝いてはいるものの、おそらく起動はしていない。つまり、精霊の入れ替わりはされていない。


「もしかして、この魔法陣が機能していた頃は、この上に人が住めたのか?」

 冬の精霊を無理やり春の精霊に変えるのだ、それは季節が変わる行為である。いくら氷に覆われた氷結都市でも多少の季節変化はある。冬が厳しいのは言うまでもなく、それが春になるということは、それだけで人に取っては住みやすい場所になるのではないだろうか?


 冬の季節になったため、魔法陣は一度起動しようとしたが、何らかの理由で起動できなかった。しかし、その起動時の様子が光となって外に漏れて、王宮に相談があったのかもしれない。


「ここに人が住めなくなってから五十年ぐらいか?」

「それぐらいだと思う」

「でも、逆にいつから人が住んでたのかしら?それを調べればいつから魔法陣があるかはわかるかもしれないけど」

 二人ではパッとその答えは出そうになかった。


「おい、ちょっとこっちに来てくれ!」

 ヴィザの声がしたが姿が見えず辺りを見渡すと、建物の後ろから手を振る姿が見えた。

「どうしました?」

 建物に近づくとヴィザがちょいちょいと手招いてくる。建物の裏側にしゃがみ込んで何かを見ている。

「これ、何かの魔法道具じゃないか?」


 そう言われてランカと二人して覗き込むとガツンとお互いの頭が勢いよくぶつかる。

「すまない」

「ご、ごめん!つい!」

 ランカが痛そうに額を押さえながら赤くなって謝る。


 今すぐ抱きしめたい。


 ところではあったが、ヴィザの手前なんとか堪えた。ランカはどうぞとファルトに譲ってくれたため、ファルトはヴィザのしゃがんでいる隣に膝をつく。

 確かに床に少し埋もれるように三角錐の形をした魔法道具が埋め込まれていた。丁度魔法道具屋とパン屋の間だ。


 ファルトは動かさないように気をつけながら魔法道具を確認する。こう言うものは場所を動かした途端動作がおかしくなったりすることもある。

「もしかして他にも埋まってますか?」

「そう言う類のものか?」

「わかりませんけど、これだけじゃなさそうな」

 すると家の周りを歩き始めていたランカがファルトを手招きする。

「これじゃない?」

 地面から少しだけツノが出ているようなものがあり、同じような三角錐のものが埋まっているだろうと容易に想像できた。


 調べてみると結局全部で小さなものが五つ、ヴィザが見つけた一回り大きなものが一つで、計六つ建物を囲むように埋められていた。

「これで建物を保存してるのかしら」

「そんな気はする」

「でも魔力は?」

「わからない。魔力石らしきものは見当たらない」

 ランカと二人で唸り始めたところで、ヴィザがパンパンと手を叩いた。

 

「お前ら熱心なのはいいが、だいたい状態はわかったから一度戻るぞ。オレも慌てて王宮を抜けて来たし、一旦ファルトが無事であることを士官長に連絡しておかないと」

「すみません」


 ヴィザのランカへの態度がだんだん士官たちと同じになって来ている気がした。

「オレは先に王宮に戻るから、ドミエの魔女殿を送ってやれ」

 どこからか取り出した革袋を渡された。

「予備の転移石だ。これだけあれば、礎都市によっても帰って来れるだろ。お前からの報告は、……まぁ、明日でもいい。今日は生誕祭だからな」

 にっと笑ってそう言うと、ヴィザはさっさと飛び上がりコートをはためかせて、入って来た裂け目から出て行ってしまった。

 そんな慌ただしいヴィザに、ファルトは若干呆れた。早く帰りたいのはヴィザも同じということだろう。

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