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 しばらくするとランカの顔色も戻り始め、「降りる」と言ったランカを仕方なく下ろした。少しふらりとしていたが、なんとか立てるようだ。

 目が合うとランカはちょっと気まずそうに笑う。


「ファルトが優秀な魔法士だって知ってても、消えたって聞いたら不安になっちゃうね」

 そんな風に笑ったランカにファルトはなんとも苦しい気分になる。

 士官の仕事は危険を伴う。だからこそ高待遇であり高給である。一緒にいる限り、ランカが不安に感じる時が、度々出てくるのかもしれない。

 

 それでも。

 ランカを自分から手放すなんてことは、できない。


「すまない」

「え?無事だったからよかったよ?」

 そう言って笑うランカにファルトは申し訳ない気持ちが溢れる。不安にさせてしまうことも、彼女を逃す気がないことも。


 もう一度抱きしめるために手を伸ばすと、ランカに止められる。

「ファルトの先輩士官さん、いたよね?!」

「ヴィザさんのことは気にしなくて良い」

 人に見られるのは良くないと言うランカにファルトが強引に抱き締めようとしたところで、魔法道具屋の扉が開いた。

「お前はちょっとぐらい気にしろ」

 どうやら全部聞こえていたようだ。それはそうだろう、ここは音がない。地上での吹雪の音が嘘のように聞こえないのだ。


「オレが見た限りは、この建物は魔法道具師ハルハの店だと思うんだが?お前の方が詳しいんじゃないか」

 暗に確認してこいと言われてファルトが歩き出そうとしたところ、ランカに袖を掴まれる。


 めっちゃ目が輝いてる。


 キラキラとした目で見られてファルトは目を細める。

「……、体調は」

「もう大丈夫!」

「あくまで仕事で来てるんだが」

 その言葉にショックを受けた表情をしたランカを前に、ファルトがチラリとヴィザを見ると「しょうがないか」と首をすくめていた。

 許可を貰えたと判断して「一緒に行こう」と誘うととても嬉しそうにランカが頷いた。

 

 魔法道具屋の前に立つと、ランカがさっきよりもさらに目を輝かせて建物を見ていた。

「この建物、『魔法道具師の歴史』の32ページに載ってる絵によく似てない⁈」

「そう言われると確かに」

 先ほど見た時には気が付かなかったが、「魔法道具師の歴史」と言う本の中に、店前をスケッチしたような絵が描かれているのだ。正直ページ数までは覚えていなかったが、確かにそういう絵があったことを覚えている。

「ちょっと氷に覆われちゃってるのが残念だけど、憧れのハルハさんのお店ね!」

 ランカが声に出すとファルトもその実感が湧いて来て仕事だと言うのに妙に心が高揚する。隣をチラリとみるとランカも嬉しそうに笑った。


 店の扉のノブに手を掛け開くと、カランカランとドアベルがなる。まるで本当に魔法道具師ハルハの店に来たかと勘違いするほど、中は綺麗なままだった。中は外と違い凍りついていることもなく、おそらくそのままと思われる状態だった。入ってすぐがカウンターになっており、左右の壁には棚がある。本来ならこの棚には魔法道具がならべられていたのかもしれない。今は魔法道具は並べられていないが、カウンターには五角形の金のランプが置かれていた。


 二人とも感動で声が出ない。


 ランプは灯されていないが、ハルハの魔法道具屋の象徴と言えるのが五角形のランプだった。気まぐれなハルハは店を開けているときにだけ、この金のランプを店前に掲げていたと言われている。


 くいくいと袖を引かれてみると、ランカが興奮した様子で話しかけてくる。

「ねぇ!あの金のランプだよ!」

「あぁ、まさかここでお目に掛かれるとは」

 ファルトも一見落ち着いているように見えるがランカ同様興奮しているのは明らかだった。二人してカウンターに置かれた金のランプをじっと見つめる。

 五角形のランプは上にいくと五角錐になっており、上には丸い輪っかが付いている。ガラス張りになったランプの中には、光源となる魔石が入っている。まるで大輪の花が開くような形をしており、今は光が灯されていないもののかつての輝きを容易に想像できた。

 するとまるでそこから店の中に灯りが広がるような感覚がして、二人は同時に店の中を見渡した。


 きらきらと光がランプから滲むように広がっていき、あたりが一気に明るさを増す。壁の棚にたくさんの魔法道具が並び、窓の向こうに青空が広がっているのが見えた。カランカランとドアベルがなり、誰かが入ってくる姿が見えた。12、3歳ぐらいの茶色の髪の男の子が、店の中に駆け込んでくる姿が見えてパッとカウンターの方へ消える。その後を追いかけるように、また同じ年頃の女の子の姿が手に何かを抱えて現れて、パッと消えてしまう。

 消えた方向を見るとカウンターに金色の長い髪に碧眼の女性の姿が現れる。真っ白な服を来たその女性は、優しく微笑み金色のランプを優しく抱えるように両手を添えると、中の光をそっと消した。


『ハルハさん、ごめんなさい。最後までお店守れなくて』


 誰か若い男性の声がして、すっと音がなくなった。すると二人に見えていた幻も一瞬にして消えてしまう。明るい店の景色はなくなり、シンと静まり返った空間が広がっている。

 

 二人はお互い目を見合わせると震える声で確認する。

「み、見えてた?」

「見えてた」

「最後の人、ハルハだよね」

「あぁ、きっとそうだ」

「めっちゃ美人だった!」

「その前に出てきた二人は?」

「誰だろう、……最初の男の子は二番弟子のスフリエかなと思ったけど」

「これはこの店の記憶みたいなものなのか?」

「わかんない。けど、店なのか、それとも……」

 二人はカウンターに置かれた金のランプを見つめた。


 もしかするとこのランプのもつ記憶なのかもしれない。

 

 そんな風に感じながら二人は店をでた。

 本当であれば店の奥の住居部分も確認するべきなのだろうが、二人とも恐れ多くなり、中に入ることはできなかった。



 店を出るとヴィザはこの空間の状況を調べていたのか、空間の上限あたりを飛んでいた。ファルトが手を振るとそれが見えたらしく、上から一気に降りてくる。まるで自由に空を飛んでいるような様子のヴィザに、ランカも驚いているようだった。

 

 普通人間が魔法で空を飛ぶには何かしら飛ぶための道具がいる。しかしヴィザは特に道具に乗っているわけでもないため、不思議に感じただろう。先ほどファルトが上からの落下する時に衝撃を和らげたのとは訳が違う。

 何もないところに安定して立つ、ましてや飛ぶのはかなり難しい。


「どうやって飛んでるの……」

「ヴィザさんは体幹がどうのって言ってるけど、俺にもわからない」

「また筋トレ的な話なの……」

 以前ランカに体を見られた時に何故そんなに鍛えているのか聞かれたことがあった。ファルト自身は筋トレの趣味もまったくないが、ヴィザの考えにより学生時代から体を鍛えろと言われて素直に鍛えていた。

「まぁ、すごく器用に魔法を使う人なんだ」

 おそらく魔法と鍛えられた体により。


 ふわりとコートが舞い、すとんと楽に着地したヴィザが状況を確認する。

「どうだった」

「魔法道具師ハルハの店でした。ヴィザさんには見えませんでしたか?ランプの記憶」

「何だそれ」

 どうやら見えなかったらしい。もしかしたら何か条件があったのかもしれない。

「隣の建物は?」

 ヴィザが指差したのは魔法道具屋ではない方の建物だった。

「……看板によるとパン屋です」

「確認してくれ。こっちは気になるものをいくつか見つけた。ドミエの魔女殿」

 ヴィザは唐突にランカに視線を向けた。

「事後契約で仕事を頼まれてくれないか。この床の下には巨大な魔法陣がある。少し床を削ってみたが、古語で書かれていそうだ。斑らな床を見えるようにするから、魔法陣の意味を読み解いて欲しい」

 ヴィザの言葉にランカは特に迷うこともなく頷いた。

 

「わかったわ」

 完全にドミエの魔女としてのスイッチが入ったらしいランカはヴィザの言葉にも臆しない。

ただの魔法道具師ハルハのファンと化する二人

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