39
番外編として書いていましたが本編っぽい内容なので、そういう扱いにしています。ただ、内容的にはタイトルを越えている感があり。。。
38のエピローグから半年ぐらい経っている想定です。
エピローグまでに入れられなかった魔法陣についての話も少しだけ語っています。
「……、ファルトが消えた?」
<魔女の森>は、いつもと違い人々が大勢いた。年に数回だけ<魔女の森>に人がたくさん入ることが許される時がある。
その一つは、生誕祭と呼ばれる冬の季節の一日だ。
主源精霊ヘイアノードが初めて人間に力を貸し、魔法士と言う存在が初めて誕生した日である。その主源精霊が人間に渡した力の最初は火だと言われており、それに似た赤だとされるノーチェリアと呼ばれる植物を皆が求めにくるのだ。
そのため今日のランカはとても忙しかった。朝早くから普段なら絶対に足を踏み入れたりしないような一般の人たちまでくるのだ。
しかもたまたま今年は生誕祭が週末であり、仕事が休みな人が多いせいか人の数も例年より多いのだ。
人の多さにてんやわんやのランカだったが、なんとか日中の忙しさを乗り切ったところだった。
すでに空は夜の帳が下り始めており、橙色に濃い藍色が迫っている。
「本当なら、ファルトと居れた日なのになぁ」
思わずそんな言葉を呟いてしまう。ファルトにはもちろん事前に会えないことは伝えている。年に数回しかないドミエの魔女の役割を果たさないわけにはいかない。
「って、言ってもねぇ」
いつものテーブルに突っ伏して、ランカは大きくため息をついた。貴重な週末に会えないのは結構堪えるのだと実感する。
それでなくてもこの日この森に訪れるのは、恋人たちが多いのだ。生誕祭はいつの間にか恋人たちの行事になっている節があり、生誕祭の象徴のノーチェリアを求めて仲睦まじい恋人たちがやってくる。
そんなのを一日中見せられたのだ。ランカとて、ファルトが恋しくなる。
そんなことを考えながらうとうととしていると、突然玄関の方から大きな音がして、びくりと身を起こす。カツンカツンと玄関扉を叩く音はいつまで経ってもやむ様子がなく、ランカは仕方なく立ち上がり玄関へ向かう。
その間も扉を叩く音は規則的に鳴っており、ランカは思い至るものがあり扉を開けた。すると、扉を開けた瞬間、何かが部屋の中へ入ってくる。飛びやすいようにか変わった形に折られた黒い紙であることがわかる。
このタイプの手紙を送ってくるのはドミエの魔女のことが多いのだが、わりと皆決まった紙を使うことが多く、見たことのない質感の紙に訝しむ。
ランカに向かって飛んできたところで、空中で鷲掴みすると中を開いた。見慣れない文字だが、宛先はランカで合っているらしい。
その手紙の一文目の内容にランカは目を見開いて思わず、その文章をそのまま口にした。それが冒頭である。
「ファルトが、消えた?どういうこと?」
それはファルトの仕事上の先輩であるヴィザからの手紙だった。通信機での連絡が取れないためやむを得ず手紙を送ると書いてあった。通信機はお互い登録していなければ掛けることもできない道具である。当然ランカの通信機にヴィザの通信機は登録されていないためかけようがない。
今日ファルトは別の日に休暇を取るために仕事に出ていたらしい。その仕事は氷結都市という、国の最南端の都市への出張が伴うものだったが、その仕事中にファルトとの連絡が取れなくなったと言う内容が書かれている。
ランカが恋人であることを知っており、何かファルトへの連絡を取る手段を持っていないかを確認する内容だった。こんな仕事と関係ないランカにまで連絡をしてくるということは、ヴィザは相当切羽詰まっている状況なのかもしれないと思うと血の気が引いた。
王宮士官とは国のために命を掛ける仕事である。それはわかっていたのだが、まさかそんな事態に陥るなどとは思ってもみなかった。
そして、ヴィザが言うような特別な連絡方法はない。こんな事があるならばそう言う魔法道具を渡しておけばよかったと思っても後の祭りだ。
とりあえず返事を書かなければいけないと思い、ランカは近くにあった適当な紙に、連絡手段はない旨と氷結都市のどの辺りに行ったのかを尋ねる文章を描き、書いた紙に魔法をかけた。
すると紙は鳥のように羽ばたき、窓の外へ飛び立って行った。王宮に行くようにしたのでおそらくなんとかヴィザに辿り着くだろう。
「ファルト、……大丈夫なの?」
誰へともなくつぶやいた。
***
凍てついた風が吹き荒ぶこの場所は、王国のなかでも最南端の氷結都市の一角だ。年中氷に覆われた土地であるためそう呼ばれているのだが、国の地図にすら載せてもらえないこともある辺鄙な場所だった。
しかし、ここは人に依っては聖地とも呼べる場所で、有名な魔法道具師の出身地でもあった。
そんな場所にファルトはいつも通りの士官の黒いコートを羽織り、そのポケットに手を入れ、凍りついた大地の上に立っていた。
「冬の氷結都市なんて、……寒すぎるだろ」
しかも氷結都市の中でも最南端の場所である。冷たい風と共に雪も降っている。雪は体の周囲に防御壁を張ることで防いではいるものの寒さがなくなるわけではない。いくら士官のコートが外気温に関する防暖防寒機能があると言えども限界がある。
寒さを感じてふるりと身を震わせたファルトは、ポケットのなかの手のひらサイズの魔法道具を取り出した。円形のそれは、ファルトの魔力によりやや赤みを帯びているものの、それとは別に盤内に点滅する光があった。
これはある種の物を探索する魔法道具である。丁度ファルトの立っている位置に対して、点滅しており反応があるのだが、見渡す限りは氷の大地である。
「一体何に反応してるんだ?まさか壊れてる?」
王宮から支給された備品である魔法道具の裏を確認してみるが中を覗けるわけでもなく、その正しさを確認することができない。
一旦王宮に戻るか?
しかし、ここまでくるのにも大量の転移石を使用している。なんの収穫もなく戻ると言うのも気が引ける。せめて何が手掛かりをと思うが、どれだけ見回してもそこにあるのは氷だけだ。
「とりあえずヴィザさんに連絡するしかないか」
気が進まないなと思いつつも、探査道具をしまい、代わりに通信石を取り出す。小型の持ち運べる通信機であるが、まだ開発されて日が浅くその性能もまだまだの代物である。そして距離が離れるほどその通信状況は悪く、対となる通信石との限定的な通話のみ可能である。
通信石に魔力を込めるとファルトの魔力でまん丸の石が赤く輝く。淡く点滅した後、パッと点灯する。
「どうした?」
途切れ途切れではあるものの、王都にいるヴィザの声が石から聞こえてくる。
「現場に到着しました。探索道具は反応しているんですが、辺り一面氷でとくに何もありません」
その時話している後ろで、ゆっくりと何かが動く音が小さく聞こえた。しかし一瞬のことで吹雪の音にかき消された。
「この魔法道具壊れてます?」
「流石にそれはないだろ。王宮内で校正しているはずだ。本当に何もないのか?」
風の音にかき消されそうになるヴィザの声に耳を傾けるため、ファルトは周りの環境音を無音化した。
「どう見ても氷しかありませんし、他に大きな魔力も感じられません」
「依頼ではそこに不思議な光が出たって話なんだが」
氷結都市はその厳しい環境のため、人が住んでいる場所は限られている。この場所もかつては町があったが、環境の変化で住めなくなり、移動したのだ。
しかし、どれだけ目をこらそうともただ真っ平らな氷の床が存在しているだけだ。
「もし確認するなら、この下を確認すべきだとは思うのですが」
ファルトは自分の足元を見つめた。そこにあるのは非常に分厚い氷だ。少なくとも目に見える範囲には何も見えないが、魔法道具が壊れていないのであればこの下ぐらいしかない。
「おい、なんか変な音しないか?」
「変な音?」
足元を見ていた視界に、小さな亀裂が走る。ハッとして後ろを振り返ると後ろはすでに大きな亀裂が出来ていたが、周りの音を掻き消す魔法をかけていたため氷の亀裂音はファルトに届いていなかった。
魔法を解除した途端、一気に氷の砕ける音が怒号のように耳に響く。同時に体のバランスが崩れ、足元の氷が完全に砕けたのがわかった。
「なっ!」
「おい、ファルト⁈何が起きてる!」
「氷が」
その後は一気に足元が崩れ、ファルトは分厚い氷の暗い亀裂の中に落ちていった。
氷結都市、書きたくて仕方ありませんでした。
氷の大地よくないですか?




