よくある乙女ゲヱムっぽい世界の悪役令嬢にジョブチェンジしたと思うけれども、世界が悪役令嬢させてくれない
「(あ、私、ジョブチェンジしてる)」
そう認識したのは、三歳の頃。
「美雪、ナディ。
二人についてもらう、この屋敷の侍女頭だ」
「陛下、殿下におかれましては、お初に御意を得ます。
成海・由と申します」
「あいっ、わたち、ナディーヤ・ワカコよっ!」
「秋桜・橘・朝臣・勝柄・美雪です。
どうぞ、お顔を上げて楽になさってください」
住み慣れた地球を母娘二人で飛び出して、宇宙へ移り住んでから、間も無くのこと。
使用人用の子供部屋から抜け出して、そっと開けた扉の隙間から、見目麗しい、見るからに高貴な身分と理解る、上座に位置する三人に向かって、クラシカルなメイド服を着た母が一礼したのを見た。
それが、私の前世からの意識体が覚醒した瞬間となった。
前世。
そう、前世である。
私は、いつか私にも、物語の中のヒロインの様に私を選んでくれる男性が来ると憧れ、しかし自らを磨く事には労力を割かず、よくある乙女ゲームの悪役令嬢の側に感情移入しては、悪役令嬢にも幸せを運ぶ王子様がやって来るというストーリーの二次創作で自家発電し、聖地東京国際展示場にて同人誌を頒布するという、まあ痛いタイプのオタクであった。
原稿の締切に追われてエナジードリンクを倍プッシュしたところで記憶は途切れているので、多分、その時に心臓か頭がプツンと逝っちゃったんだろうと思う。
後始末をする事になったであろう前世の家族たちの心情たるや、想像するに余りある。
すまぬ。
これ以上前世を顧みると、色々な意味で居た堪れないので現世に話を戻そう。
現状確認。
今世の私の名は、サトカ。綴りはまだ知らない。
母の名は、ユウ。姓はナルミ。仕事は、このお屋敷の住み込み使用人。さっき「侍女頭」って言ってたから、多分お屋敷の中では、ヒエラルキーが上の方に居ると思う。
父の存在を感じた記憶はないから、名前も顔も知らない。多分、居ないんだと思う。
この身体が知る世界の暦は「コーキ」。多分、「後期」か「皇紀」だと思う。コーキ九九九九年。もう数字からして作為的過ぎて、その辺でよく転がってそうな何某かの異世界転生ものっぽさが半端ない。
私の知るところ、この世界の人類は宇宙にも居を構えるようになっているらしい。このお屋敷に移り住む事になった時、スペースプレーンに乗り込んで、無重力と、無限に吸い込まれていきそうな遠近感の無くなる漆黒に浮かぶ星々と、私にも見覚えのある姿をした惑星を見たからこその判断である。
それだけでは、私の前世の遥か未来なのか、はたまた平行世界的なサムシングの中なのか、判別はつかないけれども。
少なくとも、前世の時代とは隔絶した科学技術を持つ世界であることは確かだ。
共産主義者が目指した世界は、極めて高度に科学技術が発達した資本主義社会に於いて、貧富の差が縮まるか、或いは富の多寡が暮らしの豊かさを左右しなくなり、身分の差が消失する事によって始まる、という説がある。
その説が正しいとするなら、「コーキ」で九九九九年も数えた時代は共産主義者の理想世界となっていても良さそうなものだが、現実には、今目の前に於いて、「陛下」「殿下」と呼ばれる、ファビュラスな上座の三人に向かって、母が明らかに臣下としての礼を取っているという、厳然たる身分制の光景が展開されていた。
そして、流されるがままに、「陛下」と呼ばれた美幼女、ナディーヤ・ワカコちゃんと仲良くなったり。
彼女が本来生きているべき過去の時代に帰還した後、「陛下」となったこのお屋敷の主人二人を、身を挺して庇った母が亡くなったり。
その忠義に報いるべく、「陛下」方が私を養女として引き取ってくださり、私の身分が「従一位大勲位こすもす公・平・朝臣・成海・由が世子・佐人佳」になって、本物の皇子女殿下方に混じって一家の一員として育てられたり。
過去と現代を自在に行き来するナディーヤ・ワカコ陛下と、一緒になって、泣いたり、笑ったり、怒られたり、褒められたり。
その様な状況であるからして、私が、
「(これは私、よくある乙女ゲヱムっぽい世界の悪役令嬢にジョブチェンジしてしまったのでは????)」
と思ってしまっても、それは無理からぬことだったのである、と言い訳をさせてほしい。
血の繋がりがある「陛下」三人と、皇子女「殿下」方が五人。
そこに混じる、忠臣の娘というだけで義理の子になった娘が一人。
親となった「陛下」二人も、きょうだいとなった「陛下」「殿下」六人も、血の繋がりがあるとかないとか関係なしに、分け隔てなく私を「家族」として扱ってくださる。
どう考えても、私が異分子である。
私が悪役だったら、真っ先に目をつけて政争に利用する。
賭けたって良い。
私を虐げさせて実子の方々の性格を歪ませるとか、或いは逆に私に実子の立場を奪わせて実子の方々を虐げるとか、あっても不思議じゃないじゃないか。
な○うではよくあったテンプレだし。
なのに、「家族」の性格は歪まないし(「家族」に害を成す人間に対して苛烈だった、という意味では歪んでいたとも言えるけれども)、「家族」に仕える人々も、ただの忠臣の娘に過ぎない私を、「陛下の義御子」として敬意を払って接してくれる。
それだけじゃない。
「陛下」を平和の使者として、畏れ、崇め、奉る国民から、私を異分子として排除しようという声を、私は聞いたことがない。
「家族」が予め排除してくれていたのかもしれないけれど、それだけで、私が「陛下の義理の娘」という皇族の身分で公務に臨んだ時全てで、私を嘲り誹る視線や声や態度に接することがないということが、果たしてあるだろうか?
とてもではないが、汚れた心の持ち主である私には、出来ないことだ。
だから、
「……泣かないで、ナディ」
「泣いてないッ、泣いてないもんッ、もう喋んないでよ、佐人佳の馬鹿ァッ!」
汚れた心の持ち主である私は、「その機会」を見つけた瞬間、母と同じ様にその身を投げ出して、「陛下」をお守りすることを、躊躇わなかった。
「馬鹿で良いよ――ナディが死んでしまうぐらいなら、私、馬鹿で良い」
「馬鹿ッ、阿呆ッ、呆け茄子ッ、佐人佳ァッ! 」
「ふふ……っ、私の名まえ、わるくちじゃ、ない、よ……」
「……佐人佳?
――佐人佳ァッ!?」
第四代皇帝ナディーヤ・ワカコ陛下生誕一〇〇〇〇年記念映画
「よくある乙女ゲヱムっぽい世界の悪役令嬢にジョブチェンジしたと思うけれども、世界が悪役令嬢させてくれない」
今冬、全世界同時公開予定――――
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