パラサイト
僕が まだ 「僕」 だったとき
保育園に行きたくないと泣きわめき
家に帰りたい と教室から飛び出した。
成長し 毎朝ランドセルを背に
コンクリートの要塞の中に
塵のように 吸い込まれはじめてから
「誰かと居ればいじめられない」と学び
金魚の糞 のように つきまとっては
頑なに 一時も 離れなかった。
時が 経ち 学生生活を 終え
授業と授業の狭間の安らぎと緊張や
退屈を埋め尽くす同級生との会話も
なかったかのように消えて
誰か という杖を失った怪我人のようになった。
いつしか社会に出て
昭和の時代なら結婚し 子育てでもしている歳に
(一方的な)友達も 我も職も失い
まとわりつける相手は 何でもよくなって
携帯電話やパソコンの向こうの誰かになった。
そして 介護保険を 支払う義務になり
つきまとっていた この 金魚の糞は
肛門から切り離されて 沈んだ底から
見上げたゆがむ水面の向こうで
みんなが家族と食卓を囲み
談笑しながら旅の計画を立てたり
子供たちの夢を聞いているような姿をみていた。
保育園に行きたくない と泣いた「僕」
家に帰りたいと教室から飛び出した 「僕」
さあここから僕の時間がはじまるのだ と思った時
「僕」は 人生の 折り返し地点に 立っていた。