闘病日記
その日は生前の彼女を否定するかのような土砂降りの大雨だった。そんな中彼女の葬儀は行われた。俺は部屋から出れずにいた。
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この街で1番でかい族の頭を張る俺は、ひょんなことから入院していた。隣町の族との抗争で全治半年の骨折をした。
「ってぇー。まさかこの俺が全治半年の骨折をするとはな。恥ずかしくてあいつらに顔向けできねぇよ」
「そんなことないぞ。お前は立派に総長として頑張ってくれたよ」
そんなことを言う俺に副総長の明は慰めてくれた。
「じゃ、また来るからな!お前が治るまであいつらは任せろ!」
「まじで申し訳ない。任せた」
明とはガキの頃からの腐れ縁で、族を作る時も真っ先に声をかけた。二つ返事で「楽しそうだな!やろうぜ!」と答えてくれた。それから徐々に仲間を集めて、今じゃこの街1番の族へと成り上がっていた。
明が帰った後、車椅子で病院の中を徘徊していた。
廊下の曲がり角を曲がったら
「ドンッ」
何かとぶつかった。思わず
「ってぇな!危ねぇだろ!どこ見て……」
「あなたこそどこ見て歩いて……。あ、ごめんなさい。まさか車椅子だったなんて。大丈夫ですか?」
同じ高校の服を着た女子とぶつかった。車椅子が倒れて立ち上がろうとするのに必死だった。差し出された手を取り、何とか車椅子に戻れた。
「その、なんだ、ごめん。俺が悪かった。あと、手伝ってくれてありがと」
「いや、私こそよく見てなかったから。て言うか君同じクラスの人だよね?」
「あぁ。どうしてお前はここにいるんだ?」
と初めに思った事を問いかけた。平日の真昼。普通は学校にいるはずだ。そんな時間に会うと誰しも聞きたくなるだろう。
「……あぁ!抜糸だよ抜糸!じゃ私急いでるから!またね!お大事に!」
「なんだ。抜糸か。そうだよな!普通は学校だもんな!おう!ありがとな!」
そんなことを言い彼女と別れた俺は病室に戻ろうとした。その時、彼女のらしき本が落ちているのを見つけた。手を伸ばして頑張って取った俺は、返そうと振り返ると彼女の姿はなかった。病室に持ち帰った俺はその内容を読み、愕然とした。
《闘病日記》
そう書かれた本には、彼女の誰も知りえないことが書いてあった。
(私は、脳の病気にかかってしまいました。どうやら長くないみたいです。)
その1行を読んだ俺は息をするのを忘れていた。