番外編 栞の送り主 4
「閉架図書をお探しですか?本のタイトル教えて下さい。」
雪下紗理奈先輩はアフロの先輩ににっこりと笑いかけた。
そしてその隣には、さっき、話を遮られたせいなのか、若干の敵意を込めて、雪下先輩の今カレの平井先輩がアフロの先輩を睨んでいる。
アフロの先輩は、雪下先輩を見て、少し動揺しているようだった。
何だろう?ゆるふわ美人の雪下先輩を前に緊張しているのかしら?
アフロの先輩は、一瞬返却台の方にいる私に向かって睨むような視線を送ってきた。
ひっ!な、何?私、何か悪い事した?
アフロの先輩は再び雪下先輩に向き合うと、急にオドオドした様子になった。
「あっ…。すいません。俺教室に図書カード忘れてきたみたいだ…。とって来ます…。」
「あ、そうなんですか?じゃ、また呼んで下さいね。」
雪下先輩は肩透かしを食らったような様子でそう言い、平井先輩は急かしたくせにそれかよ?というように顔を顰めていた。
な、何だろう?アフロ先輩、不思議な人だな…。
アフロ先輩が図書室の入口に向かっていくのを見送りながら、私は首を傾げた。
カウンターでは、平井先輩と雪下先輩がイチャイチャしたやり取りをしていた。
「紗理奈ぁ、書庫の整理終わった?」
「うん。もう少しで終わりそう。東次くんは、私のいない間、女の子に色目使ったりしてなかった?」
「まさか!俺は紗理奈一筋だよ!」
平井先輩は、顔色一つ変えず、そう言い切った。
かなりの強者です!
しかし、雪下先輩と二度も修羅場を交える気はなかった。
さっきまでの平井先輩とのやり取りは私の胸一つにそっとしまっておく事にした。
あ。もちろん、夢ちゃんだけには話すけどね?
「うふふ。東次くん、嬉しい…♡」
雪下先輩は幸せそう。世の中には知らない方がいいという事もあるのかもしれないな…。
私がそーっとその場を離れようとすると、突然雪下先輩が声を上げた。
「あれ?東次くん。このメモ何?」
ギクリ!
「ああ、それ?そこの一年生の子が代理で借りに来たんだよ。」
「えー、そういうのってダメなのよ?しかも、これ、元カレのだわ。ちょっと、あなた!」
ビクッと肩を震わせた私は恐る恐る雪下先輩に振り返えった。
「は、はいっ。」
「ん?あなた、どっかで…、ああ、そういうこと…。」
雪下は森野を値踏みするように見て頷いた。
もしや、バ、バレた…?
「……っ!」
私は蛇に睨まれた蛙のように震えていた。
「あなた、里見浩史郎に頼まれたんでしょ?
こんな代理で貸出なんてダメよ!
全くあの男ったら、一年生までコマして都合のいいように使ってひどいわね!
あんな男に入れ込むのはやめて置いた方がいいわよ?女を落とす事しか考えてないような人よ。」
「いえ、そんな!私は里見先輩の事は別に…!」
ぶんぶん首を振って否定する私だったが、雪下先輩は取り合ってくれなかった。
「否定しなくていいのよ。彼、女心を掴むのうまいものね。私もコロッと騙されちゃった。
本が好きなフリして私に近付いてきたんだけど、よく考えたら、本の感想も浅かったし、女を落とす手段でしかなかったのよね。本当に中身ペラッペラの男。
その点、東次くんとは本の中身の深いところまで話せるし、今は幸せだわ。」
「紗理奈〜。」
雪下先輩は平井先輩と手を取り合ってイチャイチャし出した。
うわ〜、雪下先輩、言いたい放題だ。平井先輩とイチャイチャしてるし、こんな場面、里見先輩見たらショックだろうな。
私はこの場に里見先輩がいない事に心底ホッとした。
「だから、あなたもあんな男早く見放して、もっとちゃんとお互いに理解し合える相手を見付けた方がいいわよ?」
うーん…、雪下先輩、一応私の事を思って言ってくれてるんだよね?
雪下先輩が、二股事件の後、平井先輩と幸せになったという事はいい事だと思うし、それは祝福したいと思えるのだけど…。
私は考え考え、言葉を選びながら、訂正したいと思うところを口にした。
「え、えっと〜。ご忠告ありがとうございます。
でも、私は本当に里見先輩とはなんでもないですし、
里見先輩、女性関係についてはひどいかもしれませんが、全てがいい加減な人ではないと思います。
勉強に関してはとても真面目な人です。
じゃなかったら、私は代理をしてまでここに本を借りに来ようとは思わなかった訳ですし…。」
雪下先輩は私の言葉を聞くと、ふうっとため息をついた。
「ま、勉強に関してはそうだったわね…。貸出、今回だけ特別に許してあげるわ。次は自分で借りに来るように言ってね?」
「あ、ありがとうございます!」
私は顔を輝かせ、雪下先輩に礼を言った。
そして、お辞儀をして図書室を出ようとする私を
今度は平井先輩が呼び止めた。
「あっ、待って君!」
「はい?」
ドキッ。まだ何か?
「これ、君のだろ?返却した本の中に挟まっていたよ。」
平井先輩は、ピンクの押し花の栞を私に差し出した。
「あっ!すみません!」
いけない!本の中に挟みっぱなしにしてしまったんだ。
危うくなくすところだった!
私は顔色を変えて、壊れものを扱うように栞を受け取った。
「大事なものだったんだろ?」
「は、はいっ。ありがとうございます!」
「ふ〜ん、その反応、男からのプレゼントかな?」
「え!」
思いがけない追求に私は真っ赤になった。
「図星。なんだ。そっちが本命か。だから、あんなに頑なだったんだね?」
平井先輩は残念そうに肩を竦めた。
「いや、別に、そ、そーゆー訳では…。」
私はゴニョゴニョと言い訳をした。
全然そんなんじゃないのに、なんで顔が火照るんだろう…。
「ねぇ。頑なってどういうこと?」
「いやいや、何でもないよ。」
「で、では、失礼します!」
雪下先輩と平井先輩のやり取りを背に聞きながら、私は逃げるように図書室の外へ出た。
「遅かったな。」
??
廊下に出ると、さっきのアフロ先輩が腕組みをしてこちらに話しかけて来た。
え?なんで?
それに、声さっきと違くない?すごく聞き覚えがあるような…。
「何を呆けてるんだ?森野?」
!!!
そう言って、アフロの頭を取った長身の先輩は、
さっき保健室で別れたばかりの里見先輩だった。
次回で最終回になると思います。
多分…(^_^;)




