番外編 栞の送り主 2
「先輩、どうですか?様になってます?」
アフロのもじゃもじゃ髪に黒縁メガネの女生徒は
保健室の丸椅子を軋ませて、ベッドに座っている俺の方に振り向くと、楽しそうに問いかけてきた。
「うん、普通に不審者だな。カツラはいらないだろ。」
そう言うと、森野の頭を引っ掴むとカツラをとってやった。
「ああっ、私のアフロが…!」
森野はカツラを取られて恨めしそうにこちらを見てきた。
「これは俺が預かって置いてやる。」
俺は人質ならぬ髪質をとるように、腕でアフロのカツラをガッチリと挟んだ。
「というか、ホント俺のは無理だったら借りてこなくていいからな?俺としては騒ぎを起こされる方が困る。そんときは自分の本だけ返して来いよ。」
「了解です。できたら遂行するけどくれぐれも無理はしないミッション承りました。」
俺にそう言われて、森野は真面目な顔で敬礼のポーズをとった。
「ではでは、これから図書室に行って来ますから、先輩はベッドに寝て大人しく仮病しててくださいね?」
「あ、ああ…。」
森野は俺に向かってにっこりと微笑むと、保健室の戸を開け、ルンタルンタしながら廊下へと消えていった。
あいつ、なんか面白がってないか?
また、ついつい森野の勢いに押されて話に乗ってしまったが、どうしよう?不安しかない…。
今日中に課題で指定された本を図書室で借りる必要があった俺だが、今日の図書当番はなんと二股騒動で修羅場った元カノの雪下紗理奈とその今カレ。
本を借りるのを断念しようとした俺だが、森野がいい考えがあるというので、聞いてみると…。
俺が、体調悪くてふらついているところを保健委員の森野が通りがかり、保健室へと運んだ。
しかし、課題の本の事が気になり過ぎて体調が悪化していく俺を見かねて、森野が代わりに借りることを申し出た。(…という設定)
森野のクラスメートの演劇部員から、カツラとメガネを借り、森野自身も変装した上、雪下相手だとバレる危険があるので、雪下がいない合間を狙って今カレの方に接触し、貸し出しをしてもらうようにお願いする
という作戦…らしかった。
いや、どう考えても無理だろ?その作戦…と呆れている俺に、絶対先輩には迷惑かけないから、一度やらせてくれと何度も森野に頼み込まれ、もしダメそうならすぐ諦めることを条件に了承してしまった。
俺は、森野が保健室を出た後ベッドに腰掛け、どうなることやらと気を揉んでいると…。
「センセ?ちょっと俺頭痛くて、ちょっとここで休憩してもいいすか?」
ガラッと戸を開けて態とらしく頭を押さえて中に入ってきたのは、恭介だった。
「あれ、浩史郎?」
ベッドに腰掛けている俺を見て、恭介は意外そうな顔をした。
「保健の先生は用事で今いねーよ。恭介はなんだ、生徒会の仕事サボりに来たのか?」
「やだな、そうハッキリ言わないでよ。会長にすげー面倒くさそうな用事頼まれそうだったから、逃げてきただけ。ま、でも先生がいないなら、ちょうどいいね?少し寝かしてもらおうっと。」
恭介は俺の隣のベッドへ喜々として横になった。
「お前なぁ…。」
呆れたような視線を向けている俺に恭介は唇を尖らせて言い返してきた。
「浩史郎だって体調悪いようには見えないし、俺と同じようなもんじゃねーの?」
「お、俺はやむにやまれぬ事情で…。」
「ふんふん、どんな…?」
恭介は興味津々に目を光らせてきて、結局俺は森野とのやり取りを全部喋ってしまった。
「なるほどね!森野さんまた面白い事考えるね?」
事情を聞いた恭介はクックッと笑っていたが、ふいに身を起こしてベッドの上に座り込むと、顎に指をかけて何かを考えているようなポーズをとった。
「でも、浩史郎それってちょっと心配じゃない?」
「ああ、今頃森野、図書室で騒ぎを起こしてなきゃいいんだが…。」
とため息をつく俺に恭介は手を横に振った。
「や、そうじゃなくてさ。図書当番の雪下さんの今カレ、平井くんってさ。プレイボーイらしいじゃん?
図書室でよく彼女以外の女の子も口説いてるって聞くけど、森野さん、大丈夫かなって?」
?!
「そ、そうなんだ…。ま、まぁ、森野だしな。あんなガキっぽいのを口説く事はないとは思うけど、も、森野が、なんか騒ぎ起こしてるかと心配だから、ちょっと俺、様子見て来ようかな。じゃな、恭介。」
俺は、そそくさと支度をして、アフロのかつらを手に、保健室を出ようとすると、恭介がニヤニヤしながら大きく手を振ってきた。
「行ってらっさーい!」




