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許し合うこと

「森野。」


「!」


森野は目を大きく見開いて、俺の一挙手一投足を逃すまいと見守っていた。


「俺はまだ森野に側にいて欲しい。とりあえず、同居と、許嫁の事は保留にしておいてくれないか?今すぐでなくても、いい。週一でも、週ニでもいい。あの家でまた過ごしてもいいと思えるときがあったら、戻ってきてくれないか?」


「先輩…。」


ま、そうだよな…。分かってたよ。

その困ったような瞳を見て、俺はなんとなく察しがついて、森野に助け舟を出すように言ってやった。


「まぁ…、君にはひどい事ばかりしているしな。森野が嫌だというなら、どうしようもないけどな…。」


「嫌っていうか…。私、なんて言っていいか、何だかまだ夢の中の事みたいで…。」


まだぼんやりしている様子の森野を見かねた森野の母が、口を出した。


「りんご。あんた自身は、このまま浩史郎くんとの同居と許嫁を解消する事に後悔はなかったの?何だかんだいいながら、あの家で2ヶ月浩史郎くんとうまくやってたんじゃないの?急に失って平気でいられる?ちっとも寂しくはないの?」


森野は母に問われ、考えるように視線をめぐらせると、今度は意思の籠もった瞳で宣言するように言った。


「このまま、先輩と許嫁も同居も解消して、後悔する事…?そりゃ、心残りはいっぱいありますよ!」


「!」


「先輩の苦手なピーマンを、なんとか調理を工夫して、食べられるようにしてあげたいですし、

先輩のお得意のセリフ『君はバカなのか?』に対して、気の利いた言い返しをできるようになりたいですし、先輩は制服やコスチュームマニアの疑いがあるので、どんな衣装にどれだけ興味を持つのか研究してみたいですし…。

ちなみに、今のところ、エンジェル・ドーナツの制服や猫耳に、かなり強い反応が見られ…。」

「もういい。分かった。森野。君は俺を嫌いだな?」


俺は森野の発言を遮った。


「え?何で?」


「ご両親の前で言う事か…?」


「あっ…。」


森野はしまったというように口元を手で抑えた。


森野の両親は苦笑いしている。

「ごめんね。浩史郎くん。こんな娘で…。」

森野母は俺に向けて、すまなそうに両手を合わせた。


「すいません。このあり得ない状況にテンパっちゃって、いつも思ってる事をそのまま言っちゃいました。」


森野はポリポリと頭を掻いた。


いつも思ってるのかよ?何のフォローにもなってねぇよ!


「それに…、先輩をたくさん傷つけてしまった事をちゃんと謝りたいです。

初めて会ったとき、先輩の事情も知らずに、『ちゃんと向き合え』だなんて言って、彼女さん達との仲を壊してしまってごめんなさい。

先輩が嫌がっているの分かっていたのに、同居の話を勝手に決めてごめんなさい。

同居中はいっぱい迷惑かけてごめんなさい。

それから、私がホームシックになってあんまり分らず屋で、面倒かけるから、先輩の過去の話をさせてしまって、古傷を抉るような事をしてしまってごめんなさい…。」


言いながら途中から泣き出して俯いてしまった森野を見て、俺はふっと泣き笑いのような表情になった。

ようやく、俺にも森野に謝る事の出来る機会が訪れたのだ。


「もういいよ。それに、謝らなきゃいけないのはお互い様じゃないか?

初めて会ったとき、女性に対して、ひどい対応をして、君の昔の傷を掘り起こすような事をして悪かった。

彼女達と破局した事、周りの信頼を落とした事、同居の事、全部を君のせいにして、辛く当たって悪かった。

同居中は失敗ばかりして、君に迷惑をかけるばかりで、すまなかった。

それから、俺の過去は君に知っておいて欲しかったんだ。無理に話した訳じゃない。それで君に重荷を与えてしまったんだとしたら、ごめん。」


森野は必死に首を横に振りながら、涙をポトポト散らした。


「いいえ、いいえっ。私は話してくれて嬉しかったんですよ?」


「もういい加減呆れてるかもしれないが、君が許してくれるなら、駄目な俺ともう少しだけ一緒にいてくれないか?」


差し出した俺の手に、森野は躊躇いがちに小さな手を近付けて、また引っ込めた。


「先輩…。いいんですか?私は結構図々しくて、しつこい女ですよ?これを逃すと、離れる機会はそうそうやって来ないかもしれませんよ?」


警戒する小動物のような表情の森野に、おれは笑いかけた。


「いいよ。俺も森野と同じかそれ以上には図々しくてしつこい男だ。じゃなきゃ、ここまで追いかけて来ないよ。」


「ふふっ。じゃあ、いいですよ。喜んで。私も先輩と一緒にいたいです。先輩というビックリ箱のような個性と文化をまだまだ研究して知っていきたいですし、先輩と楽しいことも辛いことも一緒に経験して成長していきたいです。」


今度ははっきりと差し出してきた手を握ると、やはり、柔らかく温かかった。


森野と俺は顔を見合わせて笑った。


森野の両親はそんな俺達を幸せそうに眺めていた。

 






 次回最終話です。

 今まで読んでくださって本当にありがとうございました(;_;)


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