番外編 森野家のテレビ事情
シェアハウスに同居して間もなく〜浩史郎体調回復直後のお話です。
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5月初旬のある日 午後8:00
夕食後、俺はリビングのソファーにくつろぎ、
N○Kの、特集番組を見ていたところへ、食器洗いを終えたらしい、森野が駆け込んで来た。
「あっ。先輩、先輩!もしかしてテレビ見てます?」
「ああ。」
見りゃ分かるだろ?相変わらずやかましい奴だな。
俺はテレビの画面から視線を外さず、平坦な返事をした。
「『失われた文明を追い求めて…。エジプト紀行』な、なんか難しそうなの見てますねぇ…。あの、それもとっても興味深そうな番組かなとは思うのですが、ちょっと気分を変えて、クイズ番組とか見たくなったりしませんか?実はですね、この時間ウチで、いつも家族皆で見ている、ヒキサゴンっていうクイズ番組があるんですが、解答者の珍回答がこりゃまた傑作で!よかったら…。」
「見ない!」
アセアセしながら、森野が勧めてくるのを俺はにべもなく断った。
「そ、そうですか…。」
森野は肩を落としてスゴスゴと自室に戻って行った。
その翌日17:00
「おい、森野、夕メシ…。」
帰宅後、制服から私服に着替えてから、リビングへ入ると、森野が、ジュースの入ったコップを両手で持ちながら、テレビにかじりついていた。
画面には、巨大な怪獣と○ルトラマンが二体激しく戦っている様子が映っていた。
「おおっ。新しい○ルトランがついに…!」
俺の呼びかけに気付かず、森野はこめかみに汗を垂らして真剣な表情で画面に釘付けになっている。
俺はリモコンに手を伸ばして容赦なくチャンネルを
ニュースに変えてやった。
「どええ?な、何でぇっ?あっ。先輩!」
急に、女性コメンテーターが注目のニュースについて意見を述べている画面に切り替わったことに驚いた森野は、ようやく俺の存在に気が付いたようだった。
「森野。夕飯は何時?」
「18:00の予定です。下ごしらえしてあるし、これみたら、すぐ取り掛かりますよぉ。それより、私が今テレビ見てたのに、勝手にチャンネル変えるのひどくないですか?○ルトラマンに戻して下さい!」
「やだ。ご飯前にちょっとニュースを見ときたい。だいたい、なんで君は○ルトラマンなんて見てるんだ?子供か?」
「家ではいつも弟のかっくんと一緒に見ていたんですよ!新しい○ルトラマンの武器とか分かってないと、馬鹿にされちゃいます。姉の威厳を保てなくなったらどうするんですか?」
必死に言い募る森野を鼻で笑ってやった。
「君はバカなのか?そんな事ぐらいで保てなくなる姉の威厳など、既に地に落ちていると気付けよ?
残念ながら、手遅れだ。
ただでさえ、こっちは許嫁や同居の件で振り回されてんだから、テレビぐらい好きに見させてくれよ。」
「うう〜、じゃ、せめて、番組の予約録画をさせてくださいよお。明日やる○イカツも見とかないと、いーちゃんの話に乗れない…。」
「じゃ、自分でやれよ。」
縋ってくる森野に、俺はテレビの説明書を放って投げてやった。
「り、理解不能言語…!」
説明書を開きながら、リモコン片手にフルフル震えている森野を横目で見ながら、俺はテーブルの席につき、お茶を飲んでいたが、結局ニュースが終わるまでに森野が予約が録画をし終える事はなく、時間になるとしおしおとキッチンに移動し、夕食を作り始めた。
その後も、
「お母さんと見ていたドラマが見たいんです!面白いですよ」
「いやだ。興味ない」
「お父さん、よくこの宇宙の番組見ていたんです。勉強にもなりますよ?」
「しつこいぞ?」
と俺とテレビを見たい時間がかぶるたびにチャンネル争いになり、森野の要求を退けていたが、あまりこういう事があるので、あるときキレて言ってやった。
「あのなぁ!俺は俺で見たい番組があるんだよ!無理に他のを見せようとするな。それから、森野は何かといっちゃ、家族の誰それが見てる番組だから見なきゃって言うけどな、そこに自分の意志はないのか?自分でいいと思ってるならまだしも、家族が好きだからっていう理由で勧めてくるのはどうかと思うぞ?」
森野は目をパチクリさせた。
「え?テレビなんてその場にいる人が見たいものを一緒に楽しむもんじゃないの?自分がそれを見たいかどうかなんてあんま考えた事なかった…。」
「その森野の理論から行くと、この場にいるのは俺と森野しかいないぞ。どうして、ここにいない森野の家族の見たい番組を気にしなきゃいけないんだ?」
「…!! そ、そっかぁ………。」
森野は考え込むような顔で下を向いてしまった。
ちょっと言い過ぎたか…?いや、これぐらい言ってやってもいいだろ。どうせ、お互い好きで一緒にいるわけじゃないんだ。どう思われようと、言いたい事はちゃんと言ってやらないと。
その時はそう思っていた……。
*
*
*
それから暫くたって、森野に大分世話になることもあって、その礼というわけじゃないけど、森野の見たい番組の予約録画はやり方を教えがてら、やってやった。
だが、勉強やら家事やらで忙しそうな森野は、録画した全ての番組は見れていないようだった。
その代わりというのか、俺が見ている番組を時々隣で一緒に見るようになった。
その時も、俺がテレビを見ていると、森野はいつの間にかソファーの隣に座り、話しかけてきた。
「『量子力学の発展 シュレディンガーの猫の思考実験』…。また難しそうな番組見てますねぇ。」
「そうだな。森野の頭で理解できるかな?見るだけ無駄かもしれないぞ?」
「むむっ。失礼な!分かり易く説明してくれれば、私だって分かりますよ。
えっ。箱に閉じ込めた上に、青酸ガス発生装置を起動させるなんて、猫ちゃんになんて事を!!動物愛護団体から訴えられますよ!?」
プリプリ怒ってテレビの画面に文句を言ってる森野にため息をついた。
「だから、ただの考察だろ?例えばって話だよ。希望通り分かり易く説明してくれてるのに、文句言ってたら世話ないなぁ。」
「うう…。だってぇ。」
森野は納得いかないようにふくれっ面をしていたが、
段々興味を引かれていったようでそれからは静かに
番組を見ていた。
「蓋をあけてみないと、どちらの状態か分からないか…。もし私が…。」
「森野?」
ボソッと呟いたのを聞き返すと、森野は取り繕ったように笑った。
「いえ、なんでもありません。ただ、面白い考察だなーと思って。」
*
*
*
その数日後の夕方、コーヒーを淹れようと階下に降りると、森野が何かのテレビ番組を見て、笑っているところを見かけた。
「ふふっ。メッチャ可愛い!」
テレビに映っていたのは、部屋で走り回って遊んでいる子犬と仔猫の姿だった。
「動物バラエティ番組…か?」
「へっ!?」
ふいに話しかけられて、森野はビクッとした。
「あっ。先輩。ニュース見ますか?」
と言って、席を立とうとするのを手で制した。
「いや、飲み物とりに来ただけだから見てていいよ。お母さんとか苺ちゃんの好きな番組か?」
俺が問うと、森野はキョトンとした顔になった。
「えーと、お母さんもいーちゃんもこーゆーの嫌いじゃないですけど、自分からは見ないですね…。そう。私が何となくいつも見ていて、一緒に…。ああ!!」
「ど、どうした!?」
いきなり大声を出した森野に驚いたが、森野は、はしゃいだように俺に告げてきた。
「私、動物の番組、好きみたいです!今、初めて気付きました!!先輩、教えてくれてありがとう!!」
「??あ、ああ…。」
俺はどうして森野がそんな嬉しそうな顔をするのか、
お礼を言ってくるのか、首を傾げるばかりだった。
いつも読んで頂き、ブックマーク、評価頂きありがとうございますm(_ _)m
前話あとがきに、今後のスケジュールについては毎週月曜5:00更新とお伝えしましたが、
毎週火曜5:00更新の誤りでした。
大変申し訳ありませんm(_ _;)m
見に来て下さる方がいらっしゃったら申し訳ないので、今週月曜のみ、番外編を更新させて頂きます。
今後は本編、5/31、6/7、6/14、6/21、6/28
更新となります。
色々ご迷惑をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。




