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少女達の密談

次の授業が始まるギリギリの時間にふらふらと教室に戻ってきた私に、夢ちゃんは勢いこんでひそひそと訊いてきた。


「どうだったの?りんご、大丈夫?」


「ええと、何から話せばいいのか分からないんだけど…。」


私はまだ呆然としながら、親友の耳元にヒソヒソ話で告げた。


「私、またやらかしちゃった。とりあえず二股先ぱ…、じゃなくて里見先輩が私の許嫁になって、一緒にシェアハウスに住むことになった。」


「はぁぁ〜!?何がどうしてそうなったぁ〜っ!?」


いつも冷静沈着な夢ちゃんが教室中に響き渡る大声を上げた。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


教室で、夢ちゃんに衝撃の事実を伝えた後、

とにかく詳しい話をするように言われ、

放課後、夢ちゃんの家に遊びに行く運びと

なった。


夢ちゃんの部屋へ遊びに来るのは高校に入ってからは初めてだ。

部屋の広さもさる事ながら天蓋付きのベッドやらアンティーク物の机、ソファーなど、相変わらず豪奢な家具が並んでいて、見ていてうっとりとため息が出てしまう程素晴らしい。


けど、今日はそんな部屋の様子に見惚れる時間もなく、私は夢ちゃんとふかふかのソファーに並んで座り、出して頂いたお菓子を食べながら例の許嫁&同居の件について事の次第を語っていた。


「これ、ありがとうね。夢ちゃん。許嫁&同居の件についての先輩の貴重な反応を録ることができたよ。」


私は貸してもらったペン型のボイスレコーダーを夢ちゃんに差し出した。


「これが、例の先輩の…。」

カチッと夢ちゃんが、再生のボタンを押すと、

焦ったような里見先輩の声が再生された。



『君を初めて見たとき、おれの好みからは一番遠いところにいる子だと思った。女だと思えない。つまり、俺にとって君は『モブ』キャラでアウトオブ眼中だ。結婚相手になんて考えることもできない。頼むからこの話は断ってくれ。』


「はんあぁ〜っ!?何この勘違い二股野郎?!

私が宇宙一カワイイと思っているりんごを『モブ』とはどういう事なの?!一辺イス○ンダルの彼方まで飛ばしてやろうかぁ!?」


「ゆ、夢ちゃん、落ち着いて!ホラホラ、紫崎さんのココアサブレ、さくさくでめっちゃ美味しいね〜。焼き立てのうちに食べなきゃだよ。」


私は慌てて夢ちゃん家のお抱えのパティシエさんが作ったサブレを薦めた。


「紫崎さんのサブレは確かに美味しいけど、怒りは収まらないわ!りんご!なんでこんな事言われてそんなに落ち着いているの!その場でそいつの鼻っ柱をぶっ飛ばしてやりゃよかったのに!!」


「いや〜、流石にびっくりはしたけどね。あの騒動の時里見先輩の彼女の二人を見てたから、まぁ、分からないでもないかなぁと。二人ともすごく美人さんでスタイル抜群だったよ。それに比べれば確かに私は『モブ』と言われても仕方ないかも。」


「そんな事ない!兵藤明日美と雪下紗理奈でしょ?私中等部で、見たことあるけど、胸がでかいだけの下品な女じゃない!彼氏だってしょっちゅう変わってるし。そんなのと私の大事な天然鉱石のりんごと比べるべくもないわ。」


「いやいや、二人の事はともかく、夢ちゃんは私の事色々素敵に表現してくれるねぇ。」


私はちょっと照れたように頭を掻いた。


「当然よ。単に親友だからという理由からじゃなくて、りんごには本当にそれだけの価値があるから言っているの!私も含め今までも、これからも、りんごを好きになる人は星の数ほどいる。

それなのに、りんごがそんなものの価値の分からないとんだ勘違い野郎と許嫁関係結ばされて、しかも同居までさせられるなんて!

私は絶対に認められない!!理事長が権力を盾にそんな事を強要するのなら、こっちだって、宇多川の力を使って…!」


「ち、違う違う!別に理事長に権力を盾に強要されたワケじゃないよ。私が自分で決めたの!」


「自分でって、何で?! りんご、そいつの事好きでもなんでもないんでしょ?そもそも、りんご男の子嫌いじゃない?」


「だからだよ。私の事を里見先輩が『女じゃない』って言うなら、私も里見先輩を『男』だと思わなくていいんじゃないかと思ったの。もう既に相手に嫌われてる分、好かれようと気を使う必要ないし、実際あの歯に絹きせない物言いにつられて、結構私も言いたいこと言えてる気がするし。一緒に住むのなら、そのぐらいの方が楽かなと。」


「りんご…。だからって、わざわざそんな事するメリットりんごには…。

私はりんごの性格大好きだよ。

天然で、優しくて、家族思いで、友達思いで。

周りの空気を読んで穏やかに過ごしたいと思っているのに、好奇心や正義感に勝てずに、時々やらかしちゃうとこも含め全部!」


「夢ちゃん…。」


私は夢ちゃんが私の事をどんだけ分かってくれてるんだろうとびっくりするやら、ありがたいやらだった。


「でもね。今回の事は私どうかと思う。りんご、正直に言ってね。その決断は何の為に、誰の為にしたの?」


ズキッ。うっ、流石夢ちゃんだな。痛いところを突かれちゃった。


「家族の為っていうんなら、違うからね。りんご!りんごが思っているような事ご両親は考えていない。

嫌な相手なら、気にせず断ってもよかったんだよ?」


「夢ちゃん…。」


「学費の事が心配なら、ウチでメイドさんのバイトすればいいじゃない。時間だって、融通きくし、めっちゃ時給高いよ?」


「ありがとう。夢ちゃん。私の為にそこまで考えてくれて!でも、私もう決めたんだ。

里見先輩のご両親に許嫁&同居の話を提案されたときに、今まで考えないようにしていた事、これからやりたい事が明確になって、進むべき道がさっと見えたような気がしたの。

決して後ろ向きな気持ちで決めたワケじゃないんだよ?

里見先輩には悪いけど、しばらくこのまま話を進めてもらおうと思ってる。」


「りんご…。決意は固いのね?」 


「うん!」


「意外とりんごも頑固だからな。分かった。そうまで言うなら私も協力する。

できる限りの助言はさせてもらうわ。」


「あ、ありがとう…!心強いよ、夢ちゃん!!」


夢ちゃんは中等部のときから学年一位の成績を

維持している優秀な頭脳の持ち主なのだ。

彼女に知恵を借りれるなら、こんな有り難いことはない。


「まず、今の状況で心配なのは、二股野郎の

里見先輩の意思を全く無視して話を進めちゃってる点かしらね。

別にあいつが辛い思いをしようが、不満があろうが、自業自得の結果だから全く同情の余地はないけど、あまり負の感情を持っていると、いざ同居となったときに、りんごに危害を加えられかねなくて怖いわ。

不承不承でも、相手を納得させる必要があると思うのよね。」


「た、確かに…!里見先輩とお話し合いをする必要があるって事だね。

本当に夢ちゃんってすごい!勉強になるよ。」


私は通学バッグからノートとペンを取り出し

メモを取り始めた。


「まず、里見先輩の性格や志向を見極め、

許嫁と同居の件について相手にもメリットがある点を挙げ、説得すること。

そして、期間を区切ること。」


「期間を区切る?」


「そう。不満があることでも、期限が決まっていれば我慢できる事ってあるでしょう?

方便でもいいのよ。お試しで3ヶ月とか、1年だけとか取り敢えずの期間を設定するの。期間が過ぎたら、相手の様子を見ながらまた次の期限を設定すればいいのだから、そこはライトに考えてね。」


「は〜、な、なるほど〜!」


私は目を丸くして、夢ちゃんの言葉に感心していた。この子本当に私と同じ16才なのかしら?


「それと!」


「ま、まだ、あるの?」


「これが一番大事な事なんだけど、許嫁&同居するにあたって、りんごにとっての、里見先輩の位置づけはブレないようにすること!」


「??」


「つまり、りんごにとって里見先輩は家族から自立した生活を送る為の、単なる同居人とか協力者とかそんな程度の存在でしょ?

まぁ、りんごが、あんな最悪な出会い方をした二股先輩に気を許す事はないと思うけど、

りんごは素直で、人懐っこい子だから、里見先輩にいいように言いくるめられて、利用されないかすごく心配なの。」


「私が里見先輩を好きになるかもしれないって事?」


「まぁ、ないとは思うけど、万一って事よ。」


「分かった!気をつけるね。」


私は心配そうな夢ちゃんに私はにっこり笑って

答えたが、それは無用の心配だなぁと思った。

何せ私には()()()()()()もてないようになってるもの。


「何かあったら、逐一私に教えてね。力になるから。こっちも、里見先輩の情報できる限り調べておくから、何か分かったらすぐ知らせるわ。」


「うん。ありがとう!夢ちゃん」


「いいのよ。りんごの大変なときにこれぐらいしかできない自分が歯がゆいわ。」


「夢ちゃん、そんな事…!もう充分過ぎるくらいしてもらってるよ。」


「そんな事ないのよ。せめて、そのボイスレコーダーはりんごにプレゼントさせて。」


「えっ、こんな高そうなものもらえないよ!」


「いいの。私いくつも持っているし、それがあると、何かのときにあいつの弱みを握る証拠にもなるかもしれないわ。私の為にもらっておいて。」


「……。分かった。ありがとう!大切に使うね。」


私は、親友の思いを抱きしめるかのように

ボイスレコーダーレコーダーをそっと胸に抱いた。


「うん、それともう一つ。黒川!!例のもの持ってきてちょうだい!」


「はっ、失礼します。」


ドアの外から野太い声がして、屈強な体に黒服にサングラス姿の男性が部屋に入ってきた。夢ちゃんのボディーガードの黒川さんだ。


小学校のときからよく知っているけど、あの頃から全く年を取っていないかのような風貌。

年齢不詳の人だ。


黒川さんは、大きな手のひらに小さな箱のようなものを乗せて私に見せてくれた。


「森野さん。これ、女性でも、扱いやすいタイプのスタンガンです。」


「へ?」


間抜け顔の私に夢ちゃんが補足説明してくれた。


「いざというときは、里見先輩に使って!

自分の身は自分で守らなくちゃね?」


!!!


美しい親友は魅惑的な笑顔でウインクを決めた。


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