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別れの朝

昨日は何だかんだであまり眠れず、ようやくウトウトしたのが、明け方近くだった。

夢と現の境の俺の耳に部屋のドアがノックされる音が響き、一気に現実に引き戻された。


「先輩?朝早くにすみません。起きていますか?」

ドア越しの森野の声に俺は欠伸混じりに返事をした。


「森野…?ちょっと待ってろ。」


ドアを開けると半袖のブラウスにプリーツスカートといういつもよりかなりフォーマルな格好をしている森野が立っていた。

準備などであまり寝れていないのか赤い目をしていたが、表情は心なしか昨日までよりスッキリしているように見えた。


「もう出るのか?」


「あっ。は、はい。起こしてしまってすみません。」


明らかに起き抜けのパジャマ姿の俺を見て、森野は申し訳なさそうに言った。

昨日のやり取りのせいか目が合うと、気まずそうに目を逸した。


「いいよ。荷物はまとめられたのか?」


「はい。玄関口に置いてあります。先輩にご挨拶してから行こうと思いまして。」


「荷物、多いなら持ってやろうか?最寄り駅までぐらいなら送ってやっても…。」


「いえっ。ここで結構です。今日持ってくのはキャリーカートとこのカバンくらいなんで、そんなに荷物も多くないですし!」


俺の申し出を言い切る前に森野はキッパリと断った。

そうかよ。そんなにおれと長く顔合わせたくないかよ。俺は憮然として森野の持っていたかばんに手をかけた。


「あっ?」


「じゃあ、せめて玄関まで、見送るよ。カバン貸して。」


「あっ。ありがとうございます…。」


俺は森野のカバンを手に取ると、階段を降り、玄関の方へ歩いて言った。

森野は大人しくその後をついてきた。


玄関には森野のサンダルの横に森野がここへ来たときに引いていたキャリーカートが置いてあった。


「先輩。荷物ありがとうございました。」


森野はカバンを受け取って、キャリーカートの上に載せ、白いサンダルを履くと、俺に深々と頭を下げた。


「先輩。色々お世話になりました。先輩には本当に迷惑ばかりかけてしまってすみませんでした。」


「ま、迷惑かけたのはお互い様だ。気にするな。もう今後の事は決めたのか?これが最後の挨拶って事になるのか?」


「あ、いえっ。許嫁と同居の件を今後どうするのかは両親や、先輩のご両親と相談してからという事になるかと…。

でも、多分解消した方がお互いの為…ですよね。」


「…そう…だろうな。」


「まだ部屋に荷物もありますし、どうなるにせよ、明日一度ここに戻ってきて、結果をご報告しますね。」


「分かった。」


「今日、明日はご飯作れなくてすみません。」


「そんなのはこっちで適当にするからいーよ。」


「あっ、でも、朝ごはんだけリビングのテーブルに用意してありますので、よかったら食べて下さいね。」


「ああ。出掛けで忙しいとこ悪かったな。」


「いえ!先輩にはしてもらってばかりでお返しが何もできてないので、コレぐらいは!」


「そ、そうか。ありがとう。後で頂くよ。」


体を前のめりにして主張する森野に圧されつつ、礼を言った。


「そ、それから先輩…。」


「ん?」


森野はじーっと俺を見つめると、自分のおでこの右上辺りを指差した。


「前髪のところ寝癖ついてますよ?後で直して下さいね。」


「あっ?」


俺が慌てて頭に手をやり、はねた前髪を押さえると

森野はししっといたずらっぽい笑みを浮かべた。



「じゃあ、先輩。行ってきますね。」


森野林檎は笑顔でこの家を出て行った。


俺はキャリーカートを引いた小さな背が道路の向こうに消えるまで、見送った。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


森野を見送った後、一仕事終えた後のような達成度と疲労感を感じ、ふーっと大きなため息をつくと、部屋の中に戻った。


多分森野はこのまま同居を解消する事になるだろう。

荷物をとりに来たらもうここには戻らない。


やっと望んでいた一人の自由な空間と時間を手に入れたのに、森野のいない家の中はただただ静かで、解放感より寂寥感が漂っていた。


「ははっ。何だよこの喪失感…。」


彼女やセフレと別れる場面なんて今までも何度もあったのに。


「キスもしなかったのに…。」


別れ際の森野の笑顔が目に焼き付いて離れなかった。


リビングを覗くと、テーブルの上には森野が言ったように食事の用意がしてあった。


フードカバーを外すと、大きなオムライスと野菜スープが皿に盛り付けてあった。


オムライスにはケチャップでこう書かれていた。


“センパイありがとう!”


右下には笑っている表情のリンゴが描いてあった。


「はっ。こういう事…すんなよな…っ。くっ…。」


俺は乱暴に席に座ると、鼻水をすすりながら、

一心不乱にオムライスを口に掻き込んだ。


森野の残したオムライスはふんわり甘く、少ししょっぱい味がした。


食べ終わると、やる事がなくなってしまい俺は放心状態になった。

空虚な気持ちでこれからの事を考えた。


森野からの連絡を待って、許嫁と同居の解消する。

こういう状況になってる事を一応両親にも報告しといた方がいいだろうな。


森野がここを出た後、俺はどうするのか決めなければならない。


ここに残って生活するのか、両親のいる実家に戻るのか。自立して生活するのも悪くないが、

この家には短いながら、森野と生活した思い出がありすぎた。


考えていると、テーブルの上のスマホが鳴り、俺は飛びついた。


『ハローん?浩史郎元気してた?』


「恭介か…。」


俺は一気に脱力した。


『あれぇ?ガッカリしてる?失礼な奴だなぁ。』


「そ、そんな事ねーよ。」


『そ?や、テスト前に悪いんだけど、今日もし時間とれたらお茶でもと思ってさ。

俺、最近できた彼女に振られちゃってさ。愚痴でも聞いてくれよー。』


「ははっ。恭介もか。」


()?』


「あ、いや、何でもない。いーよ。何時にどこ?」


『じゃあ、いつものス○バに11:00!』


振られたばかりの筈なのにいつもの明るい声で

恭介は時間と場所を指定してきた。







活動報告を書くようにしましたので、よかったらご覧頂ければと思います。


よろしくお願いしますm(_ _)m

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