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目を逸らしてきたこと

「やっぱり、先輩は悪い人じゃないよ。今日だって結局、夕食代出してもらって焼肉食べただけだもん。無茶振りしてるようでメッチャ親切じゃん?」


私は自室のベッドの上で、体をうつ伏せに横たえながら、スマホを片手に親友に話しかけていた。

すると、親友が凄い剣幕で反論してきた。


『あいつのどこが親切よ!?りんご、騙されちゃ駄目よ?あいつ、結局自分の事しか考えてないわ。今日だって…!』


「今日?先輩お昼に屋上来なかったよね。夢ちゃんどこかで先輩に会ったの?」


不思議に思って問いかけると、一瞬間があって…。


『いえ、ごめん、昨日の間違いだったわ。とにかく!あいつはいい人なんかじゃないわ。』


「まぁ、口悪いし、完全にいい人とは思えないけど、悪い人にもなりきれないっていうのかな?

意地悪しても、どっか中途半端っていうか…。」


私は威圧的な態度をとりながらも、お金を出すといってきた先輩のどこかちぐはぐな態度を思い出してふふっと笑ってしまった。


『りんご…。大丈夫?』


夢ちゃんはそんな私に心配そうに訊いてきた。


『里見先輩は、本来ならりんごが最も警戒すべき相手なんだよ?最近気を許し過ぎてない?』


「……。そんなつもりは…ないんだけど…。」


『私、怖いのよ。里見先輩のせいで、いつかりんごが深く傷つくんじゃないかって…。今だって間接的にりんごにひどい事をしているわ。』


「夢ちゃん…。」


私は夢ちゃんが何を心配してるのか、全部分かったが、一つは気付かないふりをした。


「夢ちゃん。大丈夫だよ。そういうんじゃないから。そういうんだったら、逆に仲良くなれなかったから。ずっとこのままでいるつもりもないし。」



『!! それって…。』


「うん。シェアハウスでいいところあったら、紹介して?」


『そう!乗り気になってくれたのね?

何件かよさそうなところがあるのよ。学校にも近いとこでね…。今度資料を持って来るわね。』


嬉しそうに説明してくれる夢ちゃんに私は心からお礼を言った。


「ありがとう。」


『あっ、それから、シェアハウスの利用には保護者の同意がいるからね!これを機にご両親とよく話し合わないとダメよ?りんご!分かったわね?』


『……分かった。夢ちゃん、ありがとう。』


親友の気遣いが胸に痛かった。

❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


夢ちゃんとの電話を切ると、私は全身の力を抜けてベッドの上にへばった。


「情けない…。」


夢ちゃんには全部見抜かれている。


夢ちゃんの心配そうな声が。


ここ数日の先輩の私を見る気遣わしげな目が。


有り難くもあり、私をやるせない気持ちにもさせる。


「ごめん、昨日の間違いだったわ。」


頭脳明晰な夢ちゃんが間違う事なんて滅多にない。

私に言えない事がある。何か隠している。

でも、だからって夢ちゃんが先輩にあの事を教えるワケない。

そんな事絶対にないのに、さっき一瞬だけ疑ってしまった。


もう、きっと私おかしくなってるんだ。


ホラ、また襲ってくる。

アレが来る…。



小さい女の子がべそかいてる姿が目に浮かぶ。


『また、りんごちゃん、私のプリン食べたー!もう、許してあげないからぁ!…え?季節限定苺プリン?うーん…。○っちんプリンと二つ買ってくれるなら特別に許してあげないこともないけど…。』



それから、いたずらっぽい笑みを浮かべた偉そうな態度の男の子。


『りんご。仮面○イダーの映画行きたいか?

お母さんが俺と一緒だったら行ってもいいってさ。……いや、逆じゃねーもん!りんごの方が機械操作苦手じゃん!席の発券もどうせ俺がいないとできな…いってぇ!!分かったよ…。お姉さま。どうか映画に連れて行って下さい!』



ギャーギャー騒がしい、いーちゃんとかっくんとの言い合い。泣き声。笑い声。

小さい足に蹴られて夜中に起こされたときには

悪気のない寝顔に心底腹の立ったし、時には鬱陶しいと思うことがなかったわけじゃない。

けど、こんなに急に温もりも、重さも一気になくなってしまうと、戸惑うよ…。


「ふっ…。ふぐっ…。」


「うん。今日は空気が澄んでて、星を見るのに、持ってこいの日だね。今の時期だと夏の大三角形にもなっているベガとアルタイルが見頃かな。…りんごは、家族の中で一番お父さんの話聞いてくれるから嬉しいなぁ。」


真面目で優しくて天然のお父さん。いやいや、私だって実はそんなに身を入れて聞いてないよ?だって、お父さん毎年同じ季節がやって来る度に同じ解説してるからね?

もう皆耳タコなの。だけど、普段無口なお父さんが、少年のようなキラキラした目で嬉しそうに語ってるのを聞いたらさ、仕方ない、形だけでも聞いてあげようかなって気になるじゃない?

でも、今年はお父さんの解説聞けないな。

面倒臭いと思っていたのに、なんだか…。星を見るだけで胸がつかえたようになるのは何でなんだろう?


「ふうぅっ…。ひっ…。」


そして…。


「りんご。勉強お疲れ様!ねぇ一段落したらさ、後で一緒に大河ドラマ見ない?最近テレビによく出てくる佐藤くん信長の小姓役で、出ててカッコいいんだよ?…ん?大丈夫大丈夫。今日はお母さん早帰りだったから夕飯の下ごしらえも、掃除もバッチリよ?いつもありがとうね、りんご。…もちろん、とっておきがあるわよん?文○堂のカステラ!ひかえおろ〜!」


「ふぅっく…。ひぃっく…。うぅっ。」


お母さん、お母さん、お母さん…!

強くて優しくておもろ可愛いお母さん。私が一番大好きで尊敬している人。


お母さんは私を救ってくれた人。

感謝しても仕切れない。返せないぐらいの恩がある。


だから、こんな事思うのはお門違いだって分かってる。

だけど…。

どうして…?

何であの時…。わ、私の事がそんなに…。

そんなに…。


だったら、いくらでも機会はあった筈じゃない?

あの時もあの時も何で私を…。

言ってもらえたら、一言言ってさえもらえたら私だって、身の振り方を考えたのに…。

それが今になって…。


「ふぐぅっ…うぅっ、うぁぁっ。」


どうしよう…。涙が止まらない。


昼間は大丈夫なのにどうして夜はこんな事ばっかり考えてしまうんだろう。


早くこの夜が明ければいいのに…。


私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をクッションに押し付けて、声を殺して泣き続けた。


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