突然の訪問
日曜午後9時。
部屋のドアがノックされて、躊躇いがちな森野の声が後に続いた。
「先輩…?ちょっと…いいですか?」
今まで、食事や風呂の支度ができたとかそういう連絡以外で、森野がこの部屋に来たことはない。
時間帯も相まって俺は少し緊張しながらドアを開けた。
「森野?どうかしたのか?」
森野は風呂上がりなのか、Tシャツとショートパンツといったラフな格好でそこに立っていた。
頬はピンク色に上気し、瞳をうるうるさせて、何やら思い詰めたような表情で俺に近付いて来た。
「あの…、先輩…。私…。」
「な、何だよ?」
次の瞬間大量の涙を流し、森野は叫んだ。
「ううっ。めっちゃ感動しました!!『宇宙英雄伝説』最高です!!」
泣きながら森野は文庫本が入っている紙袋を俺の前に突き出した。
うん。まぁ、森野だし、そんな事だろうと思ってたけどな…。
ふぅっと静かに息を吐いて、脱力した俺は気持ちを立て直して言った。
「あぁ。小説全部読んだのか。面白かったか?」
「はいぃっ。貸して頂いてありがとうございましたっ!」
感極まった様子の森野に俺は少し躊躇いながら
問いかけた。
「感想語りたいなら、部屋入る…か?」
「いいんですか?お邪魔しまーす。」
森野は目を輝かせてなんの躊躇いもなく、部屋に入ってきた。
コイツ…。警戒心なさすぎだろう!
すれ違い様に洗いたての森野の髪からフワッとシャンプーの香りがするのに、少し戸惑いながら俺はドアを閉めた。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇
森野と俺はフローリングの床に敷かれたラグマットの上に座り込んで、それから小一時間ほど、宇宙英雄伝説のあのシーンこのシーンについて、登場人物について、様々な事を語り合った。
「もう、とにかく将軍さんと軍師さんの二人のそれぞれの生き方が素晴らしかったです。
周りの人たちも、一部のおじさん達を除き、魅力的な人ばかりで、カッコ良かったです。
二人を支える女性達も優しくて、賢くて、芯が強くて同性として憧れます。
戦いの記述も最初は読みにくいと思いましたが、ちゃんと読んでみると面白くて、機転の利かし方とか、相手の性格を見極めて戦略を練るところとか、すごい勉強になるなぁと思いました。
それぞれ立場も違い、敵同士ではある将軍と軍師さんですが、どこか通じているところもあって、
なんていうか宇宙も人もみんなみんな繋がっているんだなぁって感動しちゃいました。」
森野は涙目でまくしたてた。
「最後ちょっと意味不明だが、森野がこの物語に感銘を受けた事は伝わってきたぞ。だから、最初に言っただろ?読んで損はない本だって。」
「はいっ。先輩に紹介してもらわなかったら、こんな素晴らしい物語がある事を知らずにむしろ損をするところでした。
普段読まないジャンルの本を好きになって、なんだか新しい扉が開けたようで、嬉しいです。
全部先輩のおかげです。ありがとうございます。」
森野は嬉しそうに目をキラキラさせて語った。
「うん。君の頭の中身の割によく頑張って読んだな。知性がレベル0から1に上がったんじゃないか?」
「私の元々の知性そんな低かったんだ?!
レベル1からじゃなくて0から?まぁ、賢くなってるのはいいですけど。」
「そんなレベルアップした森野にご褒美をやろう。」
「え。ご褒美?わーい!何ですか?」
俺は本棚から分厚い文庫本を一冊手に取ると
森野に渡した。
「??三○志…?」
森野は手にした本を読み上げると、戸惑ったように俺の顔を見た。
「戦いの記述にも慣れてきたなら、その本も読んでみろ。人生の役に立つぞ。」
「え…?」
何故か森野は目を見開いてピキンと固まった。
「横文字の長い名前とか苦手って言ってたろ?それなら、漢字の名前しかないから入っていき易いだろ?」
「え…、やーでも、漢字ばっかりっていうのも…。」
感動のあまりかぷるぷる震えている森野に俺はイケメンスマイルで爽やかに笑いかけてやった。
「そうだな。四字熟語とか故事成語もたくさん出てくるし、勉強になっていいな。全8巻!きっと読み終える頃には、かなり賢くなれるぞ?
よかったな、森野!!」
その瞬間、再び森野の両目からブワッと大量の涙が吹き出した。
「お願いだから、もう許してぇっっ!!うわぁ~ん!!」
その後の森野ー。
熱烈な○飛ファンになりました。(浩士郎談)
「どうして皆いつも○飛を軽く扱うんでしょうか?
朝令暮改な方が多い中で、ブレない○飛が一番感情移入できます。
誰がなんと言おうと、私は○飛の味方です!」
「ああ、うーん、森野…。○飛かぁ…。分かる気がする。」




