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親たちの思惑

「あなたが森野さん?」


「あっ、は、はいっ」


「可愛らしい生徒さんね。理事長の里見響子です。急に呼び出してしまってごめんなさいね。」


「い、いえ!」


理事長である母は40代半ばであったが、息子の俺から見ても年より大分若く見える。


名家の出だけあって、優雅な物腰と気品漂う母ににっこり笑いかけられ、森野は緊張しているようだった。


「さぁ、どうぞ、理事長室へ。」


森野は促され、ロボットのようにカチコチとぎこちない動きで理事長室に歩いて行った。


「浩史郎も。」


俺に対する母の態度は厳しく、その目は(とっとと移動しなさい。バカ息子!)と言っている。


あの騒動の後、厳しいお叱りを受けたてからは母とはまともに口をきいていない。


さて、どんな事になるやら。悪い予感しかしない状況に俺はため息をつきながら理事長室へ向かった。


「失礼します。」


理事長室の中は意外にも和気あいあいとした空気が流れていた。


テーブルを囲んで右側のソファーにはスーツ姿のご夫婦(おそらく森野の両親と思われる。)が、

左側のソファーには俺の父親が腰掛けて談笑していた。


?!なんで親父までいるんだ?


「晴ちゃんは本当に変わらないよな。」


父は森野の父と思われる男性に話しかけた。


「いやいや、もうこの辺がかなり後退してて、やばいよ。」


森野の父(仮)は前頭部の髪の生え際の辺りを指差して苦笑いした。


「爽ちゃんこそ、昔からいい男だったけど、今も全然変わらないな。白髪一本ないじゃない?」


「いやいや、そりゃ染めてるからだよ。実際はお見せできるようなものでは…。やっぱり仕事のストレスかな?40代後半ぐらいからもう一気に老いが加速して…。」


「あぁ、それ分かるよ〜。」


何だ?この親父達の同窓会のようなノリは?

傍らで話を聴いている森野の母親らしき女性も

終始ニコニコしている。 

親父と森野の父親(仮)が仲良く盛り上がっている姿を見て、驚いたのは俺だけでなく…。


「お、お父さん??」


森野も呆然と呟いていた。


「ん?おお、りんご!一瞬誰か分からなかったよ。学校の中で制服姿見たの初めてだけど、似合ってるじゃないか。もうすっかりここの生徒さんとしてなじんでるな。」


「あ、ありがとう…。っていうか会社は?」


「今日は、有休とったんだ。旧友から大事な用事があると呼ばれてね。」


「そうなんだ…。お母さんも、パートの仕事…。」


森野は森野の父の隣に座って、森野に笑顔で手を振っている女性の方を見た。


「お母さんも今日はパート他の人にシフト代わってもらったのよん。」


森野の母親は森野にウインクをした。


「爽ちゃん、この子がウチの長女の森野林檎です。」


森野の父親は森野を父に紹介した。


「おぉ、君が晴ちゃんの…!いやぁ〜。噂に聞いていた通り、しっかりした素敵なお嬢さんじゃないか。」


「い、いえ…。そんな!」


「りんご。こちら理事長の旦那さんで私の大学時代の親友、里見爽史郎さんだ。この学園に入るときにお世話になった友人がいると言っただろう?それが彼だよ。よくお礼を言いなさい。」


「えっ?それじゃあ、お父さんの友人って、里見先輩のお父さん⁉」


森野は色々な事実を受け止めて青くなったり、赤くなったりした。


森野が入学のときに口利きしてもらったのが、

ウチの父だったのか…。まぁ、恩人に仇なすような事をしてしまった訳だからそりゃショックだろうよ。


ザマーみろ。森野!俺は森野が衝撃を受けている様子に胸のすく思いがした。


「そうだ。ほら、早く挨拶して。」


「はっ、初めまして。森野林檎です。入学の件では大変お世話になりました。本当にありがとうございました!」


顔色は悪かったものの、森野は必死に体勢を立て直し、気力を振り絞ってそう言い、頭を下げた。


「あぁ、そんなのいいんだよ。僕は晴ちゃんに試験について説明をしただけで、大した事してない。ほら、顔を上げて。」


「いえ、そ、それからその…、そんな恩義がありながら里見先輩の件では…た、大変失礼を…!」


森野は申し訳なさに顔が上げられないようだったが、父はあっさりと言った。


「あぁ、その件だったね。まぁ、二人ともそこのソファーに座って、話をしようか。」


俺と森野は気まずそうに顔を見合わせるとテーブルの手前側にあるソファーに腰掛けた。


母も父の隣に座り父と顔を見合わせて頷くと、おもむろに話を切り出した。


「森野林檎さん。この度はウチの愚息が大変なご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。」


「えっ?」


いえ、私は何も…と森野は呟きかけた。


「こんな素敵なお嬢さんがいながら、三股かけようとしていたなんて…!」


「へっ?」

「んんっ?」


俺と森野はほぼ同時に素っ頓狂な声をあげてしまった。


「浩史郎は二人も彼女がいるのに、貴方をデートに誘ったらしいじゃない。それで森野さんが怒って、その前に彼女達との仲を精算するように言ったのよね?当然だわ。それで浩史郎は

彼女達に別れるときも、まともな対応ができずに怒らせてしまい、あのような騒ぎになってしまったと。本当に情けない息子だわ。」


森野は母の話をポカンとした顔で聞いていたが、途中から俺に(どういう事ですか?)

と目で訴えかけてきた。


俺も(ワケが分からない。)と首を振った。


「あ、あの、違います。デートに誘ったっていうのは、里見先輩がその場を切り抜けるために、私に手伝って欲しかったからで。先輩が私に気があるワケでは全くなく、私もそれを分かってました。私が怒ったのも、全く別の理由で…。」


森野は必死で弁解を試みた。


「えっ。それって、浩史郎がデートの約束をエサに森野さんを利用しようとしたって事?

なんて救えない息子なのかしら。」


母はため息をついて先ほどよりも数倍冷たい目で俺を睨んできた。


「えっ、いや、あの…。」


俺は森野に(余計な事をいうな!)と鋭い視線を送った。


森野は(じゃあ、どう言えばいいんですか?先輩が何とかしてください!)と目で訴え、俺を指差してきたので俺も抗弁を試みようとした。


「いや、あの違うんだ。」


「浩史郎!」


その時、父の鋭い声が割って入った。


「言い訳をするんじゃない。浩史郎。動機はどうあれ、事実だけ確認するぞ。森野さんをデートに誘ったんだな。」 


「それはそうだけど、でも…」


「『だけど』とか『でも』とか言うな!」


「森野林檎さん。」


「は、はい。」


「君は浩史郎が誠実な交際をしていない事に怒ったんだね。」


「それはそうですけど、でもそれは当事者としてではなくて、同じ女子として許せなかっただけで…。」


「素晴らしい!間違った事を正そうとするその勇気!さすが、晴ちゃんの娘さんだね。」


森野も「けど」とか「でも」とか言っていたけど父はその事には全く触れずに森野を称賛しまくった。この扱いの違いはなんだろう?


「お恥ずかしながら、浩史郎は中学の時少々荒れていてね。高校入る頃から少し落ち着いたんだが、今度は女性関係でよくない噂を聞くようになってね。また中学の時のようになったらと尻込みして、今まで強く諌められないでいたんだ。親として、情けないね。

そこへ、今回の騒動を知って森野さんの行動に目が覚める思いだった。その上森野さんが晴ちゃんの娘さんと分かって、運命的なものを感じたよ。」


父は、感嘆したようにため息を漏らした。


「それでね、君のご両親とも話し合ったんだけど…。君さえよかったらなんだけど、将来的な意味も含めて、浩史郎を相手として考えてみてくれないかな?」


「はぁ?」


衝撃の発言に固まる俺。


「相手…?」


今イチ察しの悪い森野はポカンとしている。


「まぁ、つまり、親公認のお付き合いをするって言う事で、堅苦しい言い方だと許嫁って事になるのかな?」


「あぁ、許嫁…って、えええっ??」


やっと得心がいったと一瞬笑顔になった森野が次の瞬間事態を把握して青くなった。


「な、何で?いつの間にそんな話…!私まだ16だよ!?お父さん、お母さん?」


「いや、自分の娘が大学時代の親友の息子さんと結ばれるなんて、ロマンチックだろー?

2つ返事でOKしちゃったよー。」


「出会いに早いも遅いもないわ。

こんなにいいご縁滅多にないでしょ?お断りするなんて勿体なくてできないわよ〜。」


「お、お父さんもお母さんもそれを望んでいるの?」


森野は真剣な表情で両親に問いかけた。


森野の父と母は顔を見合わせて笑顔で言った。


「もちろん、りんごの気持ち次第だけどね。」

「そうだね。」


「〰〰〰〰」


森野は考え込むようにして、黙りこんだ。


「ちょっと待てよ。親父。勝手に話を進めるなよ!」


「浩史郎、お前に発言権も拒否権もない。今回の事でどれだけ人を傷つけ、迷惑をかけたか分かるか?母さんは理事を辞任する決意までしたんだぞ。」


「え…?」


母を見ると目を逸して、苦笑いして言った。


「辞任状出したんだけど、他の理事達に止められてね。今後浩史郎の行動をしっかり管理することを条件に続けさせてもらう事になったのよ。」


「お前は多くの娘さんを傷つけ、森野さんを怒らせ、母さんの名誉を傷つけ、悲しませた。

失った信頼を回復するには、お前のこれからの行動にかかっている。

今後お前は森野さん以外との女性との交際をスッパリとやめ、勉学やスポーツなど自分を高める事に励みなさい。

それができないなら、里見のこの家を出て行ってもらう。」


「!!」


「お父さん…。」


母がたしなめるように父の袖を引いた。


「森野さん。家族の情けないところを見せてしまって、すまないね。」


「い、いえ…。」


「そういう訳で、今後は浩史郎には女性関係で心配させる事はないようにさせる。

君の気持ち次第ではあるのだけど、許嫁の件どうだろう?」


「ええと、あの……。いきなりの事で、その、すぐには…。その…。」


「もちろん、君らはまだ高校生だし、将来の事を考えるにはまだ早いよね。

最初は親同士が仲のいい友達ぐらいに思ってもらえればいいよ。

それで提案なんだけど、お互いを知るために二人ともシェアハウスで生活するのはどうだろう?森野さんはもともと家の手伝いをされていて、しっかりしているから問題ないし、浩史郎も森野さんに刺激を受けて、自立するいい機会になると思うんだ。」


「しぇ、しぇぁはうす?」


森野はもはや、理解が追いつかなくて、ひらがな読みになっていた。


俺も堪えきれず、口を出した。


「親父、次から次に何を無茶なこと言い出してんだ⁉」


「浩史郎。お前に発言権はないと言ったぞ。」

「ぐっ。」


「その方向で考えてもらえるのなら、森野さんはもう半分私達の娘のようなものだ。シェアハウスにかかる生活費及び学費等は差し出がましいようだが、こちらで負担させて欲しいと思っている。途中で森野さんの気が変わって、シェアハウスを出る事になったとしても、過去に支払った分については返さなくていいよ。

まぁ、それについては後で正式に書面で出そうと思ってるから詳細をご両親とよく確認して

もらえれば、ね?」


父は森野の両親とアイコンタクトをとって言った。


これらの事は、既に俺の両親と森野の両親の間で充分に話し合われたことなのだろう。


双方共ニコニコして俺達を見守っていた。







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