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りんごの悲劇 (洗濯物ver.)

俺は家の玄関の前でしばし立ち止まった。


飲んだくれたサラリーマンも家に帰るとき、こんな気持ちなんだろうか。


森野、まだ怒っているだろうな。

お昼の出来事を思い出して俺はため息をついた。

恭介め…。


「た、ただいま…。」


「お帰りなさい!」


恐る恐る玄関のドアを開けると、森野が玄関で待ち構えており、俺はびびった。


しかし、森野は特に機嫌の悪い様子もなく、にこやかに話しかけてきた。


「遅かったですね。もうご飯できてますよ。」


「あ、ああ。すまん。じゃ、先に食べるよ。」


「はい。じゃ、手を洗ってきて下さいね。」


森野は明るく声をかけて、キッチンに夕食を用意しに行った。


お、おかしい…。昼あんなに怒っていたのになんで、にこやかに応対できるんだ?

はっ。そう言えば、夕食はピーマンまみれにしてやるって言ってたっけ?

笑顔で油断させといて、夕食で恨みを晴らすという腹積もりか?


俺は身構えて食卓に向かうと…。


なすとピーマンの煮物に…。


ホラな。やっぱり入れてきた!


ご飯に…焼き魚に…漬物、卵焼きに…大根、ワカメの味噌汁に…。


あれ?言うほどピーマン入ってなくないか?


「さぁ、どうぞ。食べて下さいね。」


森野は悪だくみをしている様子もなく、俺ににっこり笑いかけ、自分も食卓についた。


「いただきまーす!」


「いただきます…。」


俺は焼き魚をつつきながら、幸せそうに卵焼きを頬張る森野に聞いてみた。


「森野さ…。俺の事怒ってないのか?」


「ああ、お昼の事ですか?あっ。そうだ。レジャーシート持って帰ってくれました?」


「あ、ああ…。」


「あとで、お風呂場の方に出しといてください。軽くシャワーで洗うんで。」


「それは分かったけど…。」


「先輩。お昼は私勝手に誤解して怒っちゃったみたいで、すみませんでした。」


「え?」


「さっき東先輩からラインがあって。賭けの話は東先輩が一方的にもちかけただけで、先輩は乗り気じゃなかったんですね。」


ん?どうやら恭介がラインでフォローを入れてくれたらしい。


「私の容姿を誉めたのは、レコーダーに録ったあの先輩の発言を他の人に広めて欲しくなくてただ機嫌をとってただけだったんですね。

あの発言を別に私は不快に思ったりしていないし、誰かに広めるつもりもないので、安心して下さいね。」


んん?フォローしてる…か…?恭介!?


「それだと、俺打算的で嫌な奴じゃねーか?森野はそれで怒ったりしないのか?」


「ふふっ。怒るも何も。先輩は最初からそんな感じじゃないですか。今さらですよ。」


森野は爽やかに笑った。


「!?」


いや、笑ってるけど、森野の中で、俺はどんだけひどい奴なんだ?流石に言い過ぎじゃないか?

俺は反論しようと、今までの森野に対する言動を

思い返してみたが……。


反論できる要素が何一つなくて、ショックを受けた。そう言えば、直近でも勉強を教えた分両親の心証が良くなるよう口添えしろって言ってたっけ?

本心から言ってたワケじゃないけど、森野はまともにそう受けとってたし、そら打算的て思われてもしょうがないか。


少し肩を落とした俺に森野は続けた。


「先輩のそういうところは賢さでもあると思うので、道理に反していなければ、嫌ではありませんよ。まぁ、あからさまにバカにされたり、からかったりされるのは嫌ですけど。」


「そうか…。覚えておくよ。」


「あれ?先輩。今日素直ですね。何か珍しい。」


「な、何だよ?悪いか?」


ふふっと笑って森野は言った。


「いえ。とってもいいと思います。あっ、東先輩からラインもらったときはもうピーマン買っちゃってたんで、これから少しずつ使うと思いますが、なるべく食べ易く目立ないように入れますからね。」


「お、おぅ…。お手柔らかに頼むぜ。」


「先輩、びびり過ぎ!」


ひきつった笑みを浮かべた俺にししっと森野はいたずらっぽく笑った。


たぶん、こいつ、いつものふふっという大人ぶった笑い方よりも、こういう笑い方をしてるときの方が地だな。


森野の子どものような無邪気な笑顔に俺は動物の赤ちゃんを見て抱くようなほんわかした気持ちになった。


恭介に勢いで言った妹みたいという言葉も案外的外れではないのかもしれないな。


人間関係に疲れた今、俺は激しく求め合う男女の関係よりも、癒やし癒やされる家族のような優しい関係を求めているのかもしれない。


最近森野の事が気になっていたのも、きっとそのせい。


そうだよな。恋愛対象にしちゃ、今まで付き合ってきたタイプとあまりに違いすぎるものな。


「よかった…。」


俺は自分の感情にようやく納得いく答えが見つかった事に安堵し、思わず呟いた。


「??」


そんな俺を見て、不思議そうに首を傾げていた

森野だった。


************************

「ごちそうさま」


「はーい。お粗末さまでした。」


食器を流しまで運び、上に戻ろうとする俺に森野が声をかけた。


「あっ。先輩、そこのソファーに洗濯物あるんで、自分の分持って行って下さい。」


ソファーの上にはタオルの山の横に森野のエプロンやら俺の制服のYシャツやらがきれいに畳まれて置いてあった。


「ああ、分かった。」


俺は自分の洗濯物をとろうとして、タオルの山を崩してしまった。


「やべっ。」


俺はタオルを直してからもう一度洗濯物をとり、自分の部屋まで運んで行った。


部屋に戻り、ベッドの上に洗濯物を置き、タンスに戻そうと整理をしていると…。


「ん?」


洗濯物の中に見慣れない華やかな色彩の布地が見え、俺は目を見張った。


手のひらサイズに小さく畳まれたそれは、ミントグリーンの地に赤いりんごの柄模様という、俺の所有物には絶対にない類のものだった。


森野の…ハンカチか?

俺は器用に折り込まれ、畳まれたそれを広げようとした。

そのとき階下からドドド…と、ものすごい勢いで階段を駆け登ってくる森野の足音が聞こえてきた。


「?」


「先輩っ!ちょ、ちょっと開けますよ?」


ノックするのももどかしく、森野がドアを開けるのと、驚いた俺に思わず力が入り、それを広げるのと同時だった。


パラリ…。


!!!


(うきゃあああぁぁ~っ!!!)


俺がソレ=りんご柄のパンツをゴムの伸びるままに広げている姿を見ると、森野は声にならない悲鳴をあげた。


次の瞬間、俺の手から()()を凄い勢いで奪い取ると、ゆでダコの様に真っ赤になって森野は怒鳴った。


「な、なんで先輩が持っているんですかぁっ!?エプロンの下に見えないように置いといた筈なのに!」


ああ、タオルを崩したときに他の洗濯物も微妙に乱してしまい、洗濯物を持ち直したときに

誤って持ってきてしまったんだな。


これはまずい!俺はこめかみに冷や汗を垂らした。このままでは俺は森野の下着を

奪った変態になってしまう。

よし、ここは毅然とした態度で望もう。


「ギャーギャー騒ぐなよ。森野。間違ってとっただけだろ?そんなに言うなら手に取れる場所に置いとくなっての。あ、それとも何か?わざと手に取らせて誘ってるとか?」


「なっなっなっ……!?」


俺のあまりの言いように森野は怒りと羞恥で何も言えないようだった。

俺もよせばいいものを口が止まらず、更に追い打ちをかけるように言った。


「どうせ誘うんだったらもっと色気のあるパンツにしとけよ。りんご柄って…。そんなお子様みたいなパンツで俺をどうこうできるとでも…。」


「わざとって…、誘うって…、そんなワケないでしょ!先輩の馬鹿!意地悪!変態!!」


言い終わらない内に森野はありったけの大声で罵声を浴びせてきた。


「もう、知りません!うわぁーん!!」


森野は部屋のドアを勢い良く開けて、泣きながら走り去って行った。


森野が出て行くと、俺は脱力してベッドに体を突っ伏した。


あぁ、やってしまった!

せっかく直っていた森野の機嫌をまた損ねてしまった。

しかも変態は免れなかったらしい。


まずい言い方をしたのは分かっているが、それでも俺は大きく息をついて安堵した。


ビックリした。女の子のパンツってあんな小さくて伸びがいいんだな。森野は小柄な方だけど、それにしたって…。


実は()()()()()()()()()()()()()

を気付かれなくて本当によかった。


二股事件の後、暫くそういうのもご無沙汰だったから欲求不満なのか?俺?


ついさっきまで、森野との兄妹のような関係に癒されると思ったばかりなのに。


妹のパンツに反応する兄。


いや、普通にアウトだろ!


俺は悩ましく大きなため息をついた。

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