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望まぬ再会

今日は学園理事長の母から、昼に理事長室に来るよう言われていた俺は、気乗りしないながらも大人しく来てみれば、生徒指導の谷本=独身アラフォーの厳格なおばさん先生 から隣の会議室で待つよう言われた。


「んだよ。人を呼び付けといて、自分は来賓と話し込んでるんじゃねーか。」


俺は会議室に入ると、ギシッと軋む音をたててパイプ椅子に腰掛けた。


「まだ理事長室で話し合いされてるようなので、隣の部屋で待っていなさいね。」

「あ、はい。失礼しま…」


谷本の硬質な声と共に部屋に入ってきたのは俺がもう二度と会いたくないと思っていた相手だった。


「あ…。里見…先輩…。」


森野林檎は俺と目が合った途端、引きつった笑顔を浮かべた。


「先輩…もいらっしゃってたんですね…。」

 

「あぁ…。」


恐らくこいつも、俺に二度と会いたくなかったに違いない。


俺から離れた席にそっと座って気まずそうに手をモジモジ動かしていた。


俺は奴となるべく目を合わせないように、壁際の書類棚の方を睨んでいた。


「……あの、里見…先輩。」


「何だ?」


俺は書類棚から目を離さないまま、不機嫌そうに返事をした。


「この間は…あの…すみませんでした。」


は?


「彼女さん達と別れたって…噂で聞いて…その…。」


言いにくそうに森野林檎は口をつぐむ。


俺は森野林檎に向き直って言った。


「別れたっていうか、二人に同時に振られたって噂だろ?あぁ、事実もだいたい合ってるよ。

中庭で二人にメタメタに殴られた後、振られたよ。今は確か二人とも他の男と付き合ってるんじゃないかな?

君のおかげで、今まで培ってきた俺のイメージ、名声、人脈、人気、全てが地に落ちたよ。以前は俺がいると男女問わず寄ってきて、羨望の眼差しで話しかけてきたのに、今は俺が通りがかると、誰も遠巻きにしてヒソヒソ話をしたり、哀れみの目で見たり、失笑するような状況だ。さぞや君は胸のすく思いだろうよ。」


「そ、そんな事…!」


「っていうか、すみませんてなんだ?

そんな申し訳なさそうな顔をするな!

君はバカなのか?

こんな状況になると思わずに、あんな事をしたとでもいうのか?」


「こ、ここまで噂になるとは思ってませんでした。ただ、私は彼女さん達にちゃんと向き合って欲しくて…。」


「それこそ、余計なお世話だろ?彼女達は君の恩人か親友か何かなのか?俺は君の親の仇か何かか?何の関係もない他人だろ?どうしてここまでのことをする理由があるんだよ?」


「……ごめんなさい。」


彼女は青ざめて両手をひざの上で固く握り、絞り出すような声で言った。


「もちろん、俺だって二股していたし、自業自得の部分があるのは分かっている。でも君を前にして全く友好的な気持ちにはなれない。

君だってそうだろ?お互い関わり合いたくないと分かっているなら、思ってもいない謝罪の言葉なんて口にするなよ。余計に不愉快だ。」


「でも…私は先輩に許してもらわないと、この学園にはいられません。あなたは理事長の息子でしょう?」


俺は森野林檎の顔を真正面から見た。

怯えているような表情で、固く組み合わせている手は震えている。


(ああ…そういう事か……。)


「私…。中流家庭の出だけど父の友人の口利きで奨学特待生枠でやっとこの学園に入れたの。この事で処分を受けて退学なんてなったら、私父に申し訳がたたない……。」


俯いた目には涙が浮かんでいた。


彼女は何か誤解しているらしい。



腹立ちまぎれに、このまま放っておいて、怯えている様子を存分に眺めてやりたい気もしたが、じき分かる事であるし、彼女には協力してもらいたい事もあったので、苛立ちを抑えて言った。


「許されるも何も君には謝罪させられる理由なんてないだろう。学校的には素行不良な生徒を懲らしめたんだから、むしろ褒められるべきなんじゃないか。」


「でも、息子さんを辛い状況に追い込んだのに…。」


「あの人(理事長)は息子だからって特別扱いするような人じゃないよ。

むしろもっと厳しく罰せられるだろう。

あの騒動の後、俺は家でも両親からこっぴどく叱責を受けている。

おかげで今月は昼飯代以外小遣いゼロにされた。君の事を話すと、今どき珍しく正義感のあるお嬢さんだって、こぞって褒めていたよ。

息子が辛い目に遭っているのに、ひどい親だよ。全く。まぁ、そんな訳だから君が処分されるなんて事はないよ。むしろされるとしたら俺の方。」


「でも、それなら私が呼び出しを受けたのはどうして?」


「だから、君にお礼でも言うんじゃないか?

学校の風紀を取り締まってくれてありがとうとか何とか。表彰もあるかもな。

それで息子の方はその前で罵倒され、自分の罪を反省して悔いるという、そういう茶番が今から始まるんじゃないか?」


「茶番…。」


「少しでも君が俺に対して申し訳ないと思ってるなら、君は君の役割を演じてくれ。君は英雄。俺は道化。例えお互いに腹に一物抱えていようともおくびにもださず、俺は反省して自分のした事を悔い、君はそれを寛大にも許す。

その茶番を完璧に演じてくれ。

それが最も早くこの気詰りな状況から解放される方法だ。

お互い長く顔を合わせたくないだろ?

よろしく頼む。」


「はぁー。先輩やっぱり賢いんですね。この状況でも最善の道を瞬時に考えられるなんて。

さすがです!」


森野林檎はイイねサインを出した。


「やめろ。今君に褒められても、イヤミにしか聞こえない。」


俺はうんざりして言った。


「でも先輩。やっぱり変ですよ。褒められるとか表彰されるとかの事で、うちの両親まで学校に呼ばれるなんて。」


「君の両親も呼ばれてるのか?」


「ええ、今理事長とお話ししています。」


「てっきり来賓と話しているのかと思っていたんだが…。随分話も長いな。

そういえば、君の名前を伝えたとき、父が妙に驚いたような反応をしていたんだよな…。

何だかとてつもなく嫌な予感がするな。」


「何ですか、ソレ?ただでさえ、ビビっているというのに嫌なフラグ立てるのやめてくださいよ!」


「とにかく何があったとしても、お互い空気を読んで慎重に行動しよう!」


「は、はい…。そうですね!」


関わり合いたくない相手ではあるが、この不気味な状況下で、森野は唯一不安を共有する運命共同体のようにも感じていた。


しばらく沈黙があってから、会議室の戸をノックする音が聞こえた。


「遅くなってしまってごめんなさいね。二人共理事長室に移動してくれるかしら?」


理事長である俺の母の柔らかな声音が聞こえた。





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