戦慄の美少女
朝、いつもの時間に階下に降りていくと、森野が出し抜けに大声を出した。
「あーっ。大変!あっ。先輩、おはようございます。」
「おはよう。森野。何かあったのか?」
「先輩、ごめんなさい。今日ついうっかり寝坊してしまいまして、先輩が出る時間にお弁当が間に合いそうにないんです。いやー、困ったなぁ!」
どこか棒読み感のあるセリフとともに、額に手を
当てた森野を不審に思いつつ、俺は言った。
「大変なら今日は学食にしてもいいぞ?」
「あっ、いや、もうかなりの部分出来上がっていて、あともうひと仕上げでできそうなんですけど…。」
キッチンのカウンターテーブルにはお弁当におかず、ご飯が詰められており、俺にはほぼ完成しているように見えた。
「一品くらいなくてもいいぞ。そのまま包んでもらえればいいけど…。」
「あっ、いえ、その一品がないともう、お弁当がお弁当たり得ないっていうか、もはやお弁当の意味がなくなっちゃう的な大事なものでして!」
「??そ、そうなのか…。そしたらできるまで待ってもいいぞ。電車一本遅らせるぐらいなら構わないけど。」
「いえいえ!先輩にそんなご迷惑をおかけするワケには…。こうなったらどうでしょう?お昼休みに学校の屋上に待ち合わせして、お弁当をお渡しするというのは?」
「あ、ああ…、別にいいけど…。」
俺は森野の勢いに押されながら、提案を承諾した。
「本当ですか?ああ。よかった!じゃ、お昼にお願いしますね。
あ、どうぞ、朝食食べてて下さいね。」
「あ、ああ…。」
俺はリビングのソファーに座り、トーストをかじりながら、森野がスマホのL○NEで誰かに連絡しているのを眺めていた。
お弁当が終わらなくて、焦っていたのでは?
スマホをうつ時間があるのだろうか?
連絡を終えた様子の森野が、顔を上げると俺に見られている事に気付き、取り繕うように笑った。
怪しすぎる…。
まぁ、森野の様子がおかしいのは今に始まった事ではないのだが…。
俺はどこか居心地の悪さを感じて、朝食を食べ終わるといつもより早めに家を出ることにした。
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そして昼休み。
俺は森野に言われたように、お弁当を受け取りに屋上へ続く階段を登っていた。
あと十段くらいで階段を登り切るというところで、突然屋上への扉が開き、強烈な日の光が差し込んできた。
屋上から誰かが出て来たようだが、逆光でよく見えない。
その人影は女生徒のようだった。
「森…野?」
俺は眩しさに手をかざし、目を凝らしてその人物を凝視した。
いや、森野より背が高く、やや髪が長い。
外から吹き込む風が、その女生徒の髪とリボンを揺らしていた。
扉が閉まると同時に、その女生徒の手から何か金属製の光るものが落とされた。
「っ!!」
反射的によけた俺の肩先をかすめて、それは階段の踊り場へと落ちていき、ガゴーンと結構な固さと重量を知らせる音を立てた。
それはステンレス製のボトルだった。
俺が踊り場まで戻り、それを拾い上げると、頭上で舌打ちが聞こえた。
「ちっ。おしいっ!」
「!?」
振り返るとすらっとスタイルのよい、
セミロングの黒髪に目鼻立ちのはっきりした美少女が立っていた。
彼女は以前一度見たことがある。
「ごめんなさい。水筒を落としてしまって。」
優雅な仕草で階段を降りてくるのは、森野の友達、宇多川夢だった。
「あの…、今惜しいって言わなかったか?」
若干引きながら水筒を宇多川夢に渡すと、彼女はうっとりするような笑顔を浮かべた。
「いえ?空耳じゃないですか?水筒ありがとうございます。」
「あなたは確か…、2年の里見浩史郎先輩ですよね?りんごの許嫁の…。」
「!!」
「私は森野林檎の親友、宇多川夢です。」
「き、君は事情を知っているのか?」
「ああ、大丈夫。その事は誰にも言ってません。りんごは私の親友です。私は彼女に仇なすことは決してしませんから。」
彼女はクスクスと可笑しそうに笑いながら、語りかけてきた。
「そうだ。先週の週末はりんごとデートしたんですよね。どうでした?あの子のメークと服のコーディネート私がやったんですよ?
りんご、可愛いかったでしょう?」
「いや…、デートっていうか、ウチの両親のプレゼントを買いに行っただけだけど。まぁ、森野は見違えたよ。最初モデルか何かかと思った。いい腕だな。」
「ふふっ、そうでしょう?『モブ』キャラって言ったの後悔しました?」
「!!」
その瞬間背中に冷水を浴びせられたような気がした。
「君は…、それを…何で…?」
青ざめて一歩引いた俺に、宇多川夢は悪魔のような美しい笑みを浮かべて言った。
「ふふふっ。りんごの事なら何でも知っています。何しろあのボイスレコーダーは私があの子に、持たせたんですからね。あまりの言い草だったので、私のスマホにもコピーしちゃいました。今再生してあげましょうか?」
宇多川夢は笑っていたが、瞳には明確な敵意があった。
さっきのあれは、偶然の事故ではなく、故意にやった事だと、その瞳が告げていた。
俺は戦慄した。女の子をこんなに怖いと思ったのは初めてだった。
「いや、いい…。」
宇多川は一歩一歩俺に向かって距離を詰め、
いつの間にか、俺は後ずさりして、壁際に追い詰められていた。
「里見先輩…。」
「!!」
ダン!
宇多川は俺を縫い留めるように壁に手をついた。つまり、俺は宇多川に『壁ドン』をされている形になる。
「今ここで、可愛いあの子を『モブ』キャラと言ったのを撤回して下さい。」
間近で見る宇多川の目は据わっていた。
こいつを敵にしたらヤバイと本能が告げている。
俺は蛇に睨まれた蛙のようになり、思っているままを言うしかなかった。
「あ…、あれは親に勝手に許嫁にされそうになっていて、パニックになっていて言った事で…。
あんな失礼な事普段なら絶対言わない…。」
「本心じゃなかったと…?」
「いや、あの時は正直そうだったけど今は…。」
「違うと…?」
「あ、ああ…。」
「そう、りんごが可愛いのをやっと分かりましたか?ザマーミロです。」
宇多川は満足そうににっこり微笑むと壁ドンしていた腕を引き戻した。
「そうですよね。デートのときのあんな可愛い姿を見ちゃったら、もう『モブ』キャラ扱いはできませんよね。当然です。」
……?
俺は宇多川の態度の軟化に安心しつつ、一方でその発言に引っかかりを感じていた。
「それだけ確認できれば、あなたにもう用はありません。後は、適当な時期にりんごの前から…」
「メイクをして可愛くなったから意見が変わったワケじゃない。」
「は?」
俺はよせばいいのに、反論してしまった。
「あの時は他の奴にナンパされまくって大変だったんだぞ。別に森野はメイクなんかしなくても…。」
「充分可愛いと…?」
宇多川が冷えた目で俺を見ていた。
しまったと思ったときにはもう遅かった。俺の言葉は火に油を注ぐように宇多川の怒りを煽ってしまったことに気が付いた。
「りんごから聞いてた話と随分違いますね。
あなた、りんごを嫌って疎ましく思っていたんでないの?何?他の奴にナンパされて大変って?普段の姿が可愛いって?あなた、一緒に住んでるからって、りんごを自分のものだと勘違いしてない?」
宇多川は怒りを全身に漲らせて言い募った。
「あの子が許嫁のことを受け入れたのは、家族の為よ!あの子があなたにひとかけらでも好意を抱いていると思ったらそれは壮大な勘違いだから!!
もし、そう見えるなら、それは誰に対しても邪険な態度をとらないあの子の優しさやお人好しな部分からくるもの。
あなたは出会った瞬間にあの子を最も傷つける事を言った!あなたにはりんごから好意を抱かれる資格もなければ、りんごに好意を抱く資格もないのよ!!」
俺は息を詰めて、宇多川の言葉を聞いていた。
宇多川は激昂のあまり、乱れた呼吸を整えると
俺を睨みつけて言い捨てた。
「全く、チョロチョロうるさい蠅を追い払ってやろうと思ったら、とんだ毒蜂だったわ。」
宇多川は俺を指差して宣言するように言った。
「いいでしょう。あなたは今から私、宇多川夢の敵。必ずりんごをあなたの魔手から守って見せますからね。」
「……!」
財閥の令嬢、宇多川夢にくれぐれも粗相のないようにと母に言われていた事を俺は今更ながらに思い出した。
やばい。盛大にやらかしてしまった。
背中を冷や汗が伝うのを感じた。
その時屋上の扉が再び開いてもう一人女生徒が出て来た。
「あっ、夢ちゃん。忘れ物とりに行けた?もうご飯用意できて…。ありゃ、先輩?」
気の抜ける程呑気な声かけをしてきた森野だった。
俺は脱力して、詰めていた息を一気に吐き出した。
「ふふっ。里見先輩とちょうどそこで会って、ちょっとお話してたのよー。」
その途端、宇多川はコロッと態度を変え、森野ににっこり微笑んだ。
正直、助かったと思った。
が…。
森野は無邪気に笑いながら言った。
「先輩、お弁当とりに来たんですよね。ちょうど夢ちゃんとお昼食べるところだったんです。よかったら、一緒に屋上で食べませんか?」
この天然バカ森野。やめろ!
「い、いや…、俺は遠慮するよ。友達同士水入らずで食べろよ。」
俺は必死に断ろうとしたが…。
「あら。いーじゃないですか。里見先輩。まだまだお話したい事もありますし。」
さっきとうって変わってにこやかな宇多川が
「ねっ。」と拒否する事を許さない瞳で念押ししてきた。
屋上には既にレジャーシートが敷いてあり、
三人分のお弁当の包みと水筒が置いてあった。
「さぁ、さぁ。どうぞ座って下さい。あ、これ先輩の分です。」
「あ、ああ…。」
俺は隙あらば逃げ出したい気持ちだったが、仕方なく勧められたところに座った。
そして、その両隣に森野と宇多川が座った。
宇多川の隣から、なんとなく怨念のようなオーラを感じる。怖い!!
「はい。これ、先輩の分です。」
「あ、ああ。ありがとう。」
他の二つのお弁当に比べて大きめのブルーのナプキンに包まれたものと水筒を渡された。
「で、これが夢ちゃんの。」
森野は宇多川に藤色のナプキンに包まれたものを渡した。
「ありがとう!りんご。」
宇多川は嬉しそうに受け取った。
「もう黒川さんに毒味はしてもらってるから、食べて大丈夫だよ?」
「黒川さん?うおっ!」
りんごが指し示した方を見ると、黒いスーツを着た男が一人、屋上の端にたたずんでいた。
大男で目立つはずなのに、全く気配を感じなかった。
宇多川は男に命令し慣れた口調で声をかけた。
「黒川。ご苦労。」
「はっ。お嬢様。」
そして、宇多川は俺に向き直ると、事も無げに言った。
「ああ、ウチのSPなの。気にせず、普通にしてね。」
「夢ちゃんとこは、お祖父様が政府の要人だから、警備が厳しいんだよね?」
「大げさなのよね。りんご、ごめんね。私が今日はどうしてもりんごのお弁当食べたいって
ワガママ言ったから…。毒味分があるから多めに作らせちゃって。」
「全然オッケーだよ。むしろ、普段からお世話になってもらっている黒川さんに毒味とはいえ、食べてもらえて嬉しい。」
黒川という男はペコッと森野にお辞儀をした。
「恐縮です。」
SPがいるって…。毒味って…。
噂以上にすごい家だな。さっきは宇多川に圧倒されっ放しで、反撃も出来なかったけど、何かちょっとでもやり返していたなら、俺、あの男に殺されてたんじゃねーの?
俺は背筋が凍る思いだった。
やはり、宇多川は色んな意味で恐ろしい奴だ。
そうこうする内に森野と宇多川はお弁当を堪能していた。
「いただきまーす!ああ、うま〜。りんごの作る唐揚げ最高ー!日本一!!」
「ふふっ。夢ちゃんは大げさだなぁ。でもありがと。」
「そういえば、里見先輩は毎日りんごにお弁当作ってもらってるんですよね?」
玉子焼を口に放り込もうとしていた俺は、急に宇多川に話をふられて、ビクッとした。
「あ、ああ…。」
「いいですね。いつもりんごの手作り弁当食べられて。わたしは家がうるさいから、たまにしか食べられないんですよ。」
「夢ちゃんのいつも食べてる一流シェフの手掛けたお重弁当の方がよっぽど羨ましいよ。
それに、先輩は金欠で仕方なくお弁当にしてるだけだもの。先輩、本当は学食の方がいいんですよね。」
「へぇー、そうなんだぁ。せっかく作ってもらってるのに、里見先輩勿体ない事言うんですねー。」
「あ、ああ…うん、いや…。」
森野やめろ!宇多川が『死ね』という目で俺を見てくる。
「あっ、でももう先輩はご両親からお小遣い貰ったんでしたね!ごめんなさい。今日いつもの勢いで作っちゃいましたけど、明日からなしにした方がいいですか?」
森野は申し訳なさそうにこちらを窺った。
「えっ。」
「学食の方がいいなら、その方がいいかもね。私はりんごのお弁当の方が100倍いいけど。
りんご、お手間だけど、また来週の月曜日お弁当作って来てくれる?」
「いいよ〜。一人分も二人分も手間はそんなに変わらないから、大丈夫だよ?夢ちゃんの好きなもの入れてあげるね。」
「やったぁ!」
宇多川はりんごに笑顔を向け、その後にふふんと勝ち誇ったような顔を俺に向けて来た。
くそっ。何かムカつく!
一人分も二人分もって…。森野も俺が返事しない内に来週は俺の分作らない予定にしてるし。
納得のいかない俺は反撃を試みた。
「いや、森野。すまないんだが、実はもらった小遣いが思ったより少なくてな。出来たら今月もお弁当にしてもらえないか?」
「え?ご報告に行ったときはご両親先輩のこと感心されていた様子だったのに、また減額されちゃったんですか?」
「あ、ああ。やはり簡単には許して貰えそうにないみたいだ。」
大ウソだけどな。本当はむしろ、以前より少し多めの額の小遣いをもらっている。
「そうなんですね。まぁ、地道に努力してご両親の信頼を回復していきましょうよ。じゃ、今月はお弁当にしときますね。」
森野は疑うこともなく、にっこり笑って了承してくれた。
「ああ。ありがとう。」
俺は森野に礼を言うと、宇多川に勝ち誇ったような笑顔を向けた。
宇多川はうぐぐ…と悔しそうな顔をし、ボソッと呟いた。
「水筒ぶつけてやればよかった!」
やっぱりわざとかよ!
俺は更に調子に乗って続けた。
「それにな。最近、森野の弁当にある発見をしてな。それからは毎日結構楽しみにしてるんだ。」
「えっ!分かっちゃった?」
森野は頬に手を当てて驚いた。
「えっ、何?」
「いや、すぐ分かるだろ。毎日何かしら『りんご』に関係するものが一品は入っている!」
「おおっ。正解です!」
「りんご?」
宇多川は不思議そうに首を傾げた。
「ああ、例えば今日のお弁当はご飯の上にリンゴ型ののりが散らしてあるだろう?」
宇多川は自分の弁当を覗き込んで、確認すると歓声をあげた。
「あっ、本当だ!のりの形がリンゴだわ。」
「先週の金曜日はウサギ型のりんご、木曜日はりんご型のコロッケ、水曜日はりんごゼリー、火曜日はミートボールにりんご型のピックが刺してあった。」
「へぇー、そんな法則があったのねー。」
俺への敵意も一時忘れて、宇多川は感心したように何度も頷いた。
「先輩、気付くの早いですねぇ。お父さんなんて今だに気付いてないですよ。それに記憶力すごっ。」
「まぁな。ただ、分からなかったのが、月曜日、豚の甘煮にサラダ、ごはんだったと思うんだが、どれが『りんご』に関係するものか分からなかったんだ。ちょっと気になって、写真まで撮った。」
俺はスマホを取り出して、問題のお弁当の画像を森野と宇多川に見せた。
「本当だわ。りんご型のものもないし、りんご自体が入ってるということもないし、分からないわね。」
宇多川も首を傾げた。
「りんご、この日はりんご関係のもの入れ忘れちゃったの?」
「いーえ。ちゃんと入ってました。でも、これは実際に食べてみないと分からないですね。
先輩、気付きは良かったんですけど、見た目にとらわれすぎですね。」
森野はチッチッチッと人差し指を揺らして偉そうにのたまった。
「見た目?」
「そう。答えは見た目ではなく、味にあったのです。ズバリ答えは…!」
「「答えは…?」」
宇多川と俺は思わずハモった。
「豚肉の甘煮の隠し味にりんごジュースを入れていた…でした!!まだまだ一流の料理人までは程遠いようじゃの、○ャングム!」
「そんなの分かるワケないだろーが!○ャングムって何だよ?料理人目指してねーっつーの!」
俺は森野の頭を手刀で小突いた。
「あてっ。○ン尚宮様お許しを!」
「ぶふっ!くっ………。」
その時、宇多川が肩を震わせて何かを必死に耐えているように声を漏らした。
やべ。森野に手刀をかましたのに怒って、震えてるんじゃないだろうな…。
「う、宇多川…?」
「夢ちゃん…?」
「何、その絶妙なノリ突っ込み?ぶふっ。なんでいきなりの韓ドラネタ!ははっ。あははは…!りんご面白ーい!はははは!やだもー、止まらない!あははは……!」
なんと宇多川はお腹を抱えて爆笑しだした!
「??」
「ゆ…夢ちゃん…。」
笑い転げる宇多川を俺は呆気にとられて、
森野はどこかキュンとした様子で見守っていた。
森野は俺に親指を立てて、興奮気味に言った。
「先輩。グッジョブ!ナイス突っ込みでした!夢ちゃんが、こんなに笑ってる姿を見られるのは、竹に花が咲くぐらい滅多にない事なんですよ?」
「そ、そうなのか?」
「ホラ、SPの黒川さんもちょっと驚いてるじゃないですか!」
見れば、確かに黒川という男の鉄面皮のような表情がわずかに緩んで、驚きの表情が浮かんでいるように思えた。
「はぁ、はぁ…。笑い過ぎてお腹が痛い…。って、里見先輩、何見てんのよ!!」
涙目になってうずくまってお腹を押さえていた宇多川は、俺を見ると逆ギレぎみに噛み付いてきた。
理不尽だ…。
そして立ち上がって歩み寄ると、やおら森野をぎゅっと抱き締めた。
「もぉー。りんごはホントに面白いんだから。大好き!りんごと同じ学校に通えて本当によかった。」
「夢ちゃん…。私もだよ!」
何なの、この百合展開?俺がいる事二人共忘れてないか?
も…帰っていいかな?
しかし、宇多川は意外にすぐに森野から身を引いた。
「お弁当、ありがとう。美味しかったよ。
私、職員室に用事があるから、先に行くね。」
「うん。後で教室でね。」
宇多川はくるりとこちらに向き直ると、指を突きつけて険しい表情を向けて来た。
「里見先輩。今日のところはこれで引くけど、ちょっとりんごの事分かったからって、いい気にならないでね。私はあなたの事信用したワケじゃないからね。」
最初の猫をかぶった敬語はどこかへ吹き飛び、宇多川は俺に対して敵意のあるタメ口という対応になったらしい。
「それじゃあ。」
宇多川はSPの男を引き連れて去って行った。
「何だったんだ…。」
呆然としている俺に森野はすかさず言った。
「先輩。あれはね、ツンデレって言うんですよ。初対面で爆笑した姿を見られて、ちょっと恥ずかしくってツンツンしちゃったんですね。可愛いでしょう?」
可愛いってどういう意味だったっけ?怖いとか背筋が凍るようなとかそんな意味だったか?
「夢ちゃん、先輩の事少し気に入ったみたいじゃないですか?私嬉しいです。」
「どこがだよ!俺はさっき宇多川に脅されてたんだぞ?嫌われてるに決まってるじゃねーか!」
「でも、夢ちゃん、本当に嫌いな人には一言も喋りませんよ。」
「いや。あいつは俺に殺意すらあるね。
屋上前の階段で、あいつにステンレスの水筒ぶつけられそうになったんだぞ。幸い服をかすっただけですんだけど。」
しかし、森野は笑顔で言った。
「先輩?夢ちゃんは、あー見えて中学までソフトボールの優秀な投手だったんです。それが本当ならわざとはずしたんですよ。本気で狙っていたら外す筈ありません。」
「怖いこと言うなよ!」
「まぁまぁ、文句言わないで。今日はお昼休み、両手に花だったんだからいいじゃないですか。明日のお昼も寂しかったら、また屋上に食べに来てもいいですよ?」
「行かねーよ!」
「そういえば明日は東先輩が私達と一緒に食べたいって言ってたような…。」
「…!か、考えとく…。」
「ふふっ、東先輩の事大好きなんですね。」
「………。」
能天気な森野の笑顔に、小さくため息をついた俺だった。




