実家の審判
里見先輩の実家に着くと、ご両親が嬉しそうに出迎えてくれた。
「森野さん、浩史郎、いらっしゃい。よく来たね。」
「お邪魔します。あの、これ、よかったらお二人でどうぞ。」
「あらあら、美味しそうなものをありがとう。」
私は駅前のケーキ屋で買った焼き菓子を
里見先輩のお母さんに手渡した。
それから、私は隣の里見先輩に(ホラ!先輩も!)と目で訴えかけると、面倒くさそうに
先輩は昨日買ったプレゼントをご両親に差し出した。
「これ、二人にプレゼント。いつも色々世話になってるからさ。」
「えっ。浩史郎がプレゼントをくれるなんて珍しいなぁ。」
「わぁ、オシャレなワイングラスねぇ。どうもありがとう。」
先輩のご両親は驚きつつも、先輩からのプレゼントを喜んでいるようだった。
おっ。先輩、ポイントアップかな?
「この間も、浩史郎、母の日にカーネーションをくれたのよ。やっぱり女の子が近くにいると違うわよね。」
先輩のお母さんは、何故か私を見てにやにや笑った。
「何だか、結婚した息子がお嫁さんを連れて里帰りしたみたいだなぁ。」
「本当にね〜。」
ご両親に優しい眼差しで見られ、なんだかとても居心地が悪い。
先輩はこめかみをピクピクさせた。
うわ。機嫌悪そう。
「何言ってるんだよ?ほら、こんなところで立ち話してないで、リビングに移動しようぜ。
森野も行くぞ。」
「あっ、はい。」
先輩に促され、リビングに向かうも、今度は背後からご両親の生暖かい視線を感じた。
ううっ。やり辛いよぅ…。
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リビングに移動した後、先輩のお母さんが、テーブルに、紅茶とマカロン、お土産に持ってきたお菓子を出してくれた。
私が色とりどりのマカロンに思わず目を奪われていると、先輩のお父さんがズバッと本題を切り出した。
「で、一ヶ月シェアハウスで暮らしてみてどうかな?二人共。これからもあそこで仲良くやっていけそうかい?」
「ええと…。」
私は話の舵取りをどの様に持っていったらいいか迷い、言い淀んだ。
そんな私を制するように目配せをすると、先輩が発言した。
「まぁ、何だかんだ大変だったけど、最初の頃よりはうまくやれていると思うよ。森野は家事をよくやってくれてるし。いきなり許嫁ってのはどうかと思うけど、一緒に暮らしていく分には今のところ問題ないと思う。」
「先輩……!」
そんな風に言ってもらえると思わなかったので、私は驚いて先輩の顔を見た。
一瞬目が合ったが、すぐ逸らされてしまった。
(だからって、そこまで気を許しているワケではないぞ。調子に乗るな。)って事らしい。
「本当かい?それならよかった!森野さんは実家でも、家事の手伝いをよくしていたそうだからね。しっかりやっていけそうだとは、思っていたんだが、いや〜立派なものだ。」
「その上浩史郎が風邪を引いた時には心配して看病してくれたのよね。」
先輩のお母さんが、私を見てウインクをした。
「浩史郎が色々迷惑かけたね。大変だったろう。」
「いいえ、そんな。私なんか大した事はできなかったですし。」
ご両親に労をねぎらわれて、私は赤くなってぶんぶん首を横に振った。
「森野さんは浩史郎と一緒に生活してみてどうだったかな?大変な事ばかりだったろう?」
その言葉にこの一ヶ月の先輩との生活が思い出された。
高圧的な態度で料理に逐一文句を言う先輩。
お財布落として、気まずそうにお弁当を作ってくれと言う先輩。
体調を崩して赤い顔で呻いている先輩。
一ヶ月の食費を一回の食事で使い切り、何故かドヤ顔の先輩。
初めてのバイトでは、着ぐるみが暑くて、
熱中症寸前のフラフラの先輩。
うん、確かに大変といえば、すごーく大変だった!
思わず大きく頷こうとして、勉強を教えてもらい、何故よくしてくれるのか理由を聞いた時に先輩に言われた事を思い出す。
『両親の心象が良くなるように口添えしてもらおうという作戦だよ。作戦!』
そうだった。先輩にお世話になった事もあったのだった。恩を仇で返してはいけない!
「いえ!先輩はとても素敵な方で、一緒に生活させて頂いて毎日がとても楽しいです。
家事もよく手伝ってくれますし…。」
私はにこやかに答えた。
「家の手伝いもしたことないのだけど、浩史郎ちゃんとやれてるかしら?森野さんに迷惑かけてない?」
「いえ、風呂掃除や洗濯、たまに料理もしてくれます。」
「料理も?」
「はい。とても美味しいご飯を作ってくれました。」
見ると、先輩がハラハラした顔でこちらを見ている。(大丈夫!まずいことは何も言いませんよ。)私は先輩に安心するよう目で訴えた。
「迷惑どころか、電化製品の使い方や勉強など、私が苦手な事があると優しく教えてくれ、足りないところを補ってくれます。
一緒にバイトをしたときには、キツイ仕事も平気でこなしていました。
先輩はとても頼りがいのある方だと思います。」
「浩史郎がバイトをしたのかい?」
ご両親にとっては、先輩がバイトをした事が驚きのようだった。
「まぁ、確かに小遣い減額はしていたが、昼食代結構多めに渡していたのに、バイトする程足りなかったか?」
あっ、ヤバイ!先輩が財布を落とした事や、食費を使い込んだ事を言うワケにいかず、
私は苦しまぎれにでまかせを言った。
「そ、それは、先輩は向上心あふれる方ですから、自立の為に自分でお金を稼ぐ経験をしたいと…。ね、ねぇ、先輩?」
先輩にふると、呆れたような視線をこちらに投げかけつつ、応じてくれた。
「あ、ああ…。まぁ、そんなところ。」
「そうか…。お前もちょっとは大人になってきたんだな。まぁ、そうだよな。将来責任を持つべき相手もいる事だし…。」
先輩のお父さんは感慨深そうに言うと、私に向き直って、聞いた。
「正直なところ、森野さんは浩史郎の事どう思っているのかな?」
!!ここはアピールポイントだと思い、私は熱を込めて答えた。
「えーと、先輩は厳しいところもありますが、それは強い向上心と責任感からくるもので、私は先輩のそんなところをとても尊敬しています。だからといって、冷たい人ではなくって、困っている人を放っておけず、手を差し伸べてくれる優しさもあります。
一人の男子としても人としても最高に素敵な人だと思います。」
よし!今考えたセリフだけど、噛まずに言い切った!
これで、先輩に対する評価も上がるに違いない…!
私は応援演説をやり切った感と共に、皆の反応を見ると、驚いた表情と共に、一同沈黙の場となっていた。
あれ?私、何かやらかしちゃった?
助けを求めるように先輩を見ると、目を瞬いて、真っ赤になっていた。
お…怒ってるのかな…?
どうしよう?私は途方にくれて、何か弁解しようとしたとき、先輩のお父さんが、顔を紅潮させて大声で言った。
「そ、そうかぁ!浩史郎をそんなに気に入ってもらえて嬉しいよ!」
「えっ?」
「いや、実はね、母さんからさすがに同居は性急すぎたんじゃないかって言われてね。当人達の気持ちをちゃんと確認して、まだ難しいようなら一度取りやめてもと思っていたんだがね…。」
「ええっ?」
「でも、二人がそんなにうまくいってるなら、いらぬ心配だったね。これからも、引き続き、浩史郎をよろしく頼むよ。」
「ええ、ああ…は、はい……。」
感激した様子の先輩のお父さんに手を取られながら、私は何かとんでもなくやらかしてしまった事に気付いた。
もしかして、先輩の評価をあげようと褒めるあまり、私が先輩に好意を持っているようにとられてしまった?
先輩にとっては、せっかく同居を取りやめるいい機会だったかもしれないのに、私がその機会をつぶしてしまった??
チラチラとこちらを見てくる先輩の視線が胸に痛い。
私は先輩に向けて手を合わせてゴメンポーズをするしかなかった。




