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元カノ(セフレ)

「浩くん。久しぶり。うわぁ!背また伸びて、カッコ良くなったね。元気してたぁ?」


重量級のバストを揺らして駆け寄って来たのは、

中学3年の時、何度か遊んで頂いた当時高校3年だった佐藤あやねさんだった。

Gカップバストの破壊力は今もご健在のようだった。


「あやねさん、どうしてここに…?」


「うん、近くに通ってる大学があってね。買い物に来てたんだけどーまさかこんなところで浩くんに会えるなんて。浩くんこそどうしたのぉ?」


「ああ、俺も買い物に来てて…。」


「一人?」


「いや、今連れがレジに…。」


「おーい、せんぱーいっ!」


そこへ、買い物を終えた森野が荷物を下げてこちらへ走って来た。


「ありゃ?こ、こんにちは…。先輩。こちらのお姉さんはお知り合いですか?」


「あ、ああ…。えーと…。」


俺は何と説明したものか困っていると、

あやねさんは森野の前に進み出て、にっこり笑って自己紹介を始めた。


「お嬢ちゃん、こんにちはぁ。佐藤あやねです。この近くのS女大の2年生でーす。浩くんが中学の時とっても仲良くさせてもらってましたぁ。」


「そ、そうなんですね。」


森野は戸惑ったように、俺とあやねさんを交互に見た。

俺は気まずい思いで、冷や汗を流した。


「あ、私里見先輩の後輩の森野林檎です。」


「へぇ。林檎ちゃんか。浩くん、今こういう感じの子がタイプなんだぁ。」


あやねさんは森野の頭からのつま先まで眺め渡した。


「確かに可愛いけどぉ、ここら辺も随分可愛らしいのね。私と全然違うねー。」


あやねさんは流し目で胸の辺りを指差して言った。


「!!」


俺は石のように固まった。


「た、確かに…!」


森野は自分の胸とあやねさんの胸を見比べて感心したように言った。


違うぞ、森野!そこは怒るべきところだ。


「昔はおっぱい星人だったのになー。浩くん変わったねー。」


あやねさんは明らかに悪意のある笑顔を浮かべていた。

俺はさすがに見かねて口を出さずにはいられなかった。


「あやねさん!この子はそういうんじゃない。嫌味言うのやめろよ。」


「えー、ただの友達って事ぉ?」


「あっ、はい。友達です。ええと…、共通の知り合いへのプレゼントを買いに来ていただけです。」


森野は割に機転を利かせた説明をすると、

「先輩、ちょっと。」と俺の袖を引いて、耳打ちしてきた。


「元カノさんですか?」


「いや、あの、すまん…。嫌な思いさせて。」


正確には元カノというより、セフレのような関係だったが、今それを言っても何の意味も成さないだろう。

この状況で言い訳もできず、俺はただ謝るしかなかった。


「いいんです。そういうことなら…。」


森野は納得したように言うと、わざとらしくポンと手を打った。


「あ、でもー、もう買い物終わったんで、私先に帰りますね。プレゼント選ぶの手伝ってくれてありがとうございました。

先輩は佐藤さんと積もる話もあるでしょうし。ゆっくりしていって下さいね。

ではでは、さようならー。」

森野はにこやかに手を振ると、早足で売り場を離れていった。


「えっ。ちょっ…。森野?」


俺が驚いて後を追おうとすると、あやねさんがすかさず腕を絡めてきた。


「物分かりのよい後輩を持って幸せだね?浩くん。じゃ、行きましょうか?

この階に、美味しいコーヒーが飲める店があるから、取り敢えずそこでお話しよ?」


あやねさんは俺の腕をとり、歩き出そうとした。


甘い香水の香りが鼻腔をくすぐる。腕にはふくよかな胸の柔らかさも甘ったるい声も、いつもの俺にとって魅惑的でない筈はなかったが、今俺を支配している感情は怒りだった。


「行かない。」


腕を乱暴に振りほどくと、あやねさんは驚いて目を見張った。


「浩くん。怒ってるの?ただの友達だって言ってたじゃない。それとも、あんなガキッぽい子に本気になってるっていうの?やめときなさいよ。

ああいう子はHもつまんないよ?」


「あやねさんには関係ないだろ?友達だろうがそうじゃなかろうが、今日は森野と一緒に来てたんだ。あやねさんとは行けない。じゃあ!」


去ろうとする俺を引き止めるようにあやねさんが手を伸ばしてくる。


「ちょ、ちょっと待ってよ!連絡先教えるから。今日がダメなら他の日でも…。」


「いらない。」


あやねさんの手を振り払うと、俺はもう振り返らず、大股で歩き出した。


「何よ!せっかく声かけてあげたのに、バカ!

あんたみたいなガキもう相手にしてあげないからね!」


背後で、あやねさんが悪態をついているのが聞こえた。


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


俺は森野の姿を探して、辺りを走り回った。


あいつ……、勝手なことを、しやがって……!


あんな格好で一人でいたら、どんな事になるか。俺は待ち合わせ場所でナンパされて困っていた森野の姿を思い出していた。

断り慣れていなくて、降りかかる火の粉も自分自身で払えないくせに!


「………!」


幸い森野はまだ同じフロアーにおり、すぐに見つかった。

が……。

本屋の入口の前で優男風の男性に声をかけられていた。


案の定か……!


「森野!」


大声で呼びかけると、森野はこちらを振り向いて不思議そうな顔をした。


「あれ?先輩。」


「すいません。彼女、俺の連れなんで。」


俺は優男と森野の間に割って入った。


「あ、そーなんだ。残念。じゃね。可愛いお嬢さん。」


優男は結構あっさりと引き、にこやかに手を振った。


「彼氏、あんまり彼女に荷物持たせちゃダメだよ?」

すれ違いざまにウインクをして去って行った。


キザな奴だな。余計なお世話だよ!


「さっきの人、荷物を持ってくれようとしたんですよ。悪い人じゃなかったですよ?」


呑気な森野に俺は苛々して言った。


「君はバカなのか?ああいうこ慣れた奴が一番危ないんだ。親切に見せかけて、ついでにお茶でもっていう手口なんだよ。」


「ああ、そういえば、本屋併設の喫茶店に誘われました!」


「だろ?口車に乗ってついて行ってみろ。うまく言いくるめられて、あっという間にホテルに連れ込まれるぞ。」


森野はギョッとして縮み上がった。


「ひぇっ。そうなんですか!?あと5分ぐらいお話していたら、カフェぐらいいいかな?って思っちゃっていたかもしれません!危ないところでした…。先輩が来てくれてよかったです。」


「本当に君は危なっかしいな。」


俺は長いため息をついた。


「貸せよ。」


「え?」


「荷物、俺が持つ。」


「でも…。」


「いいから!」


俺は半ば強引に森野から買い物の手提げをひったくって左手に持ち替えると、右手の指を森野のそれに絡めた。


「えっ。ちょっ…!」


いきなり手を繋がれた森野は驚いて声を上げた。


「こうしてれば、声かけられないだろ?」


「そ、それはそうですが…。わっ。」


急に手を引いて歩き出した俺にバランスを崩しそうになりながら、必死について来た。


「あ、あの…。さっきの女の人はいいんですか?」


「いいんだよ。今日は森野と約束してたんだから。」


「でも、元カノさんなんでしょ?私に遠慮しなくていいんですよ?

心配しなくてもご両親にチクったりしないし。」


「いいって言ってるだろ?」


声を荒げた俺に森野はビクッと肩を震わせた。


「……ごめん。」


怯えた表情の森野に俺は一言小さく謝った。


それからしばらく無言で二人で歩き続けた。


           ❇

           ❇

           ❇


気付いたら、店を出て、そのまま待ち合わせ場所の駅前広場まで戻ってきていた。

立ち止まったときに、繋いだ手は自然と緩み解けてしまっていた。


「………。」

「………。」


き、気まずい……。


森野はこちらの様子をチラチラと窺っている。


時計を見れば、もうお昼時だったが、この重苦しい雰囲気じゃ、どっかで食べてく感じでもないし、このまま帰る流れかな。


いかんせん同じところに住んでいるので、帰るところも同じ。この雰囲気のまま家で過ごすのかと思うと気が重い。


まぁ、俺がそういう雰囲気にしちゃったんだけど。自業自得だけども。


沈黙を破って、ポツリと森野に問いかけてみた。


「森野は男と二人でどっか出かけた事ってあるのか?」


そんな突然の俺の質問にも、やっと話しかけられてホッとしたのか、森野は嬉しそうに答えた。


「あ。うん。ありますよー。」


「!!……誰と?」


俺は意外な答えが返ってきたに驚き、思わず、問い詰めるように訊いてしまったが…。


「去年の夏休み、かっくんとプールに行きました。その時いーちゃんとお母さんは習い事の発表会のリハーサル行ってて。帰り二人で甘味処でかき氷を食べたんですけど、七色のシロップをかけてもらったんですよ。あれは楽しかったなー。 

あ、後小さい頃はよくお父さんに近所の本屋さんに連れてってもらいました。」


「そ、そうか…。それはよかったな…。」


俺は脱力しつつ、そう言うしかなかった。


森野よ。それは男と出かけたとは言わない。

家族とお出かけしたって言うんだ。


でもまぁ、男子苦手って言ってたもんな。

とすると、今日俺と出かけるのがこいつにとっては初デートだったワケか。


初デートがあれって森野にとっては散々だったろーな。


他の男に沢山声をかけられて困るわ、デート相手の元カノ(セフレ)に因縁をつけられるわ、気遣って二人にしてくれたのに、相手は逆ギレして不機嫌だわ。


森野にとっては柿人くんとのデートの方がよっぽど楽しかったかもな。


余計に男嫌いになったりしてな。ハハッ。


別に森野にどう思われようといいんだけど、いい筈なんだけど、俺は何でこいつの前だとこんなにうまく出来ないんだろう?


他の女の子とデートをするときは、俺はその子が嫌がる言動は絶対しないし、望んでるであろうことを先んじてしてやれる器用な奴だったのに。


謎の無力感に包まれていると、森野がふふっと笑って言った。


「でも、今日先輩と出かけたのもメッチャ楽しかった。」


「ええ?何で?」


俺は驚いて聞き返してしまった。


これで本当に楽しいと思えたらマゾの領域だぞ?


「買い物で色々見て回るの楽しかったし、プレゼントもお土産も納得いくものが買えたし、先輩の表情を見てるのも楽しかったです。」


「表情?」


「ええ。こんな格好しているからか、今日は男の人からよく声をかけられて、その度に先輩が必死な顔で、連れ戻してくれて。何だかお姫様のような気分でしたよ。先輩は怒ってたけど、なんだか私は嬉しくて…。たまには、オシャレもいいもんですね。」


「……………。」


森野はチラッと俺の顔を見て、怒っていないかどうか確認すると調子に乗って余計な一言をつけ加えた。


「あと、元カノさんに会った時の先輩の顔!

私と元カノさんの間でアタフタしちゃって。

ハハッ。ホントメッチャ面白かっ…いっつ!!」


思わず無意識に手が動き、俺からゲンコツの制裁を受けた森野は頭を押さえて涙目で睨んできた。


「こんな可愛い子に何するの!!」


「当然の報いだろ?」


ったく、ガキめ!!

何だかもう、こいつの前であれこれ考えるのがバカらしくなってきた。


「おい、森野。」


俺は他の女子には決してしない、ぞんざいな口調で森野に呼びかけた。


「何ですか?」


森野はまだ痛むらしい頭をさすりながら、恨みがましい視線を向けてくる。


「パンケーキ、好きか?」


「えっ。」


「この近くに美味しいパンケーキのお店があるんだが、食べに行かないか?」


「い、行く。行きたい!」


森野はぱぁっと表情を明るくして、二つ返事で答えた。


「言っとくけど、割り勘だからな。」


「分かってますって。先輩、金欠ですものね。」


「うるさいな。今月乗り切ればすぐに解消するんだよ。」


「ふふっ。今度お小遣いもらったら、落としちゃ駄目ですよ。」


「………。」


ああ言えばこう言うの森野に思わず拳を固める

と、森野は慌てて、頭をかばった。


「あっ。先輩!もうゲンコツは駄目!暴力反対です!やったらご両親に言いつけますからね!ホラホラ手を繋ぎましょう。仲直り仲直り!」


森野の言う事を聞いたワケではないが、その後は珍しくケンカもなく、終日穏やかに過ごした。

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