夕焼け
ザーザザー
波の音が、鼓膜を震わせてからだに浸透する。
足元には、波が運んできた海水たちが絡みつく。
そして鳥たちは、もう帰れと、私に語りかけた。
「…………」
だけど私はそれらに反応を示さず、一つ、また一つと、静かに涙が流れた。
視線を足元から、前に移す。
そこには柘榴色に染まった空が、私を見下ろしていた。
まるで彼の瞳のようで、また頬に一筋できた。
「……ごめんなさい」
謝ったって、今更遅い。無意味なことは分かっていた。
それでも私は、言葉を止めることが出来なかった。
「私が、私がもっと早くに気づいてあげられてたら……」
口ではそう言うけれども、頭のなかでは分かっていた。
もしあの時、私が彼の葛藤に気づいても私にはなにも出来ない。彼にもっと負担がかかるだけだ。
それに、彼は自分の意志で命を懸けて戦いに臨んだ。
今更、私なんかが口を出す権利も無い。
「…………」
今でも思うことがある。
なぜ彼は、私なんかのためにここまで頑張ってくれたのだろう。
そのまま、私を騙して殺せば良かったのだ。あなたはあちら側なのだから、私は殺されてもそれが運命だ。
なのにあなた、最後の最後であちらを裏切って私を守り、私の前から去っていった。
「……あなたはそれで良かったのですか?」
ザザザー
波が私を包み込むように押し寄せ、また海へと戻った。
「ふふふ そうですか……」
まるで返事をしてくれたようで笑ってしまったが、同時に罪悪感が押し寄せた。
私はあなたに何かあげられたのだろうか。あなたは私から何か受け取れたのだろうか。
彼の考えていることはよく分からないが、それでも良いかと考えた。
空を見ると、いつのまにか暗いものへと変わっていた。
あんなにも綺麗な空は覆い隠され、少しもったいないことをしたと感じた。
私は海にだんだんと近づいた。
ここに来る前に準備した花を胸にあて、まるでお祈りを捧げるように手を組んだ。
そして一歩また一歩と、足の先まで神経をとがらせて、ゆっくり……丁寧に……気持ちを込めて歩いた。
これは、儀式だ。__私とあなたの……
『俺は悪い男だ、、、死ぬ直前に、あなたの隣で笑うであろう、まだ見ぬ男に、嫉妬するなんてな、、、』
あなたの言葉を思い出す。
もう少しで死ぬような重症なのに私に向かってそんな言葉を口にするなんて、彼は私が思っていたよりも愚かなのかもしれない。
『……あなたの嫉妬を嬉しいと思う私は、あなた以上の悪女かもしれないわね。』
そして、私も彼と同じく愚かものなのだろう。
『ははは 悪いもの、同士、、お似合い、だ、な……』
「そうね」
目を開けると、空にはきらきらと星たちが光っていて、海風は私の背中を押してくれるように流れる。
海水はもう、私の首まで侵食していた。
「今度は、最初からあなたの隣にいられるかしら……」
言葉は海に飲み込まれたかどうかは分からないが、私は目を閉じた。
柘榴の花は、浜辺にあがらず、どこか遠くへと連れていかれた。
最近、長編の執筆の手が止まっていて、気分転換に書いてみましたが、全然気分転換になりませんでした。
やっぱり、悲恋は今書くべきではなかった……。




