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さまざまな短編集

チートできない世界(仮)

作者: にゃのです☆

 会社では、毎日が仕事に追われている状態でみんながバタバタしていた。

 そんな中で唯一の楽しみといえば“休日”でずっと寝ていられる。

 家事とか、残りの仕事とか。

 やることは山積みだったけど、休日にはそんなことはとうに関係はない。

 データのまとめとか、顧客の要望に応えるだけでは全然できもしない。そこんとこ考えろよバカ上司。

 ただ単に仕事を押し付けてきて自分じゃ何もせずに接待だの理由をつけて毎回外出。みんな知っている遊びまわっていることを。

 

「文句言っても仕方ない。今はこの休日に感謝だなぁ」


 そう言って私は昼間に干しておきふわっふわの布団で横になり目を閉じる。時間は午後十時を過ぎていた。

 休日後はいつもの忙しい毎日に戻るんだから多少早く寝ても罰は当たらないだろう。

 だが、午後十一時三五分四四秒。

 地面が横に揺れる。その夜に襲ったものはマグニチュード五.四、震度六強の地震。

 ものが宙を舞い、部屋自体も激しく揺れる。どこかでは轟音が鳴り爆発したような音さえも響き渡っている。

 私はというと、地震で気が付いたと思った。自分の部屋じゃない白い部屋、いや、空間に座っていた。


「ここどこ……?」

「おお、ようこそようこそ」

「だれ……?」


 黒髪でガタイがいいオジサンが布をまとって笑顔で近づいてくる。

 不思議なことに嫌気とか生理的に受け付けないようなことではない。


「ワシは……神様とでも思ってくれ」

「はぁ、というとこれはあれですか。死んでしまったと?」

「物分かりが速いお嬢さんだのぉ。そうじゃ、死んでしまったのじゃ」


 えっ、それって小説や漫画の世界じゃないってこと!?

 ということは私も異世界とか行けちゃうの!?

 こう見えて異世界モノとか読み込んでいるから、チート知識がいっぱいだし英雄になれたり、金持ちになってみたりできるってことじゃない!

 死んだなら会社に行かなくてもいいし、つらい仕事しなくてもいいしね!

 それに予定外の死ならここで目の前の神様とやらが、いい所に転生させてもらってこれまたチート級の何かを付与してもらったりして!


「あー。盛りがっているところ申し訳ないんじゃが」

「どうしたんですか? 私の死は予定外なんですよね?」

「いや、その死の予定なんじゃが……今日がその日なんじゃ」


 え……? 予定通り? 

 私は普通に死んだってこと?


「つまり、お嬢さんはこれから輪廻転生に向けての転生申請書と移動許可届を書いてもらわにゃならん」


 いやいやいやいや。ちょっと待って!

 ここは異世界に直接でしょ!

 なんで役所仕事がここで出てくる!?


「一応、ここに書き方も――」

「ちょ、ちょっと待ってください! 転生は! 異世界は!」

「さっきも説明したじゃろう? 予定通りだから規定に従って――」

「いや、規定とかどうでもいい! 死んだんなら転生させてよ!」

「それはできん。これも規定でな」

 

 話の分からんオジサンだなぁ!

 こっちが望んでいることをしてくれるだけでいいのに!


「はぁ、最近は困った子ばかりじゃな……」

「そうでしょうね!」

「そうじゃのぉ。転生させるのは構わんが――?」

「そうそう。それを待っていたの!」


 最後はうまく聞き取れなかったな。でもいいや、転生させてくれるだけで充分。この知識自体がチート能力みたいなものだし!

 どんな世界でもどんとかかってこい!

 そう考えたら再び眠りにつくように暗くなった。


 気が付くと模様の書かれた天井が目に飛び込んでくるが、うまく見えない。まるで目がいいのにメガネをかけてぼやけているそんな感じ、体もうまく動かない。声も出ない。ここはどこだろう?


「ウェルちゃん。しっかり食べましょうね」


 あ、私は赤ん坊か。ウェルっていうのか……。男みたいな名前だな。ただ、意識がまだぼんやりだなぁ。

 はっきりと世界を知ることができたのは歩き回れる二歳の頃。

 私は鏡を見て自分の容姿を確かめた。

 性別は女。髪は前と一緒の黒髪の長髪。これまで自然に見たり運動したりしていたから腕とか足は普通だったんだけど目だけは……。

 鏡を見て初めて気が付いた。左目がない……。

 話を聞けばここは修道院のような場所で私は捨て子。ここで育ててもらったが、目は捨てられた時には刃物かなんかで斬られていたらしく視力ともども失っていたとのこと。

 ただ、こんなことは小さなショックでしかない。

 最大のショックとは、意識は前のままなのに前の世界で培ってきたチート級の知識が全くない! チート級の能力も!

 これでどうやってこの世界で生きていけばいいの?

 それにこんなハンデまで背負って!

 神さまのあほー!


「ウェルちゃん。鏡を……見てしまったのね」

「院長先生……」

「大丈夫よ。ウェルちゃんは強い子だから」


 院長先生は優しい人だ。だが、私はこの目でショックを受けているわけじゃない!

 くそ……どうして生きていけばいいのか全く浮かんでこない。

 そんな感じで年が過ぎてとある日。


「はーい皆さん。注目してください」


 孤児が全員集められ院長先生が話すのはビザの時かなんか特別な事があった時だけだ。あ、個人ごとは別。

 隣には見慣れない男性の姿。

 何かしらあるのだろうが、あれが誰で何の服装なのかは全く分からない。

 だからだろうか、内心ちょっと警戒しつつワクワクしている。


「こちらは王国関係者のラミリットさんといいまして結構偉い人なんです」

「院長。そこまではないですよ」

「あらそう? まぁいいわ。今日は皆さんにお話があるそうです」


 そう紹介されてちょっと笑顔の紳士はみんなの前に立った。

 

「それじゃあ、みんなこんにちは!」


 ふ、誰が返事するか気恥ずかしい。と思っていても体が勝手に返事する。

 みんなでかわいく大きな声でこんにちはとの一大合唱に。

 

「皆さん元気でいいですね。今日は大事な話があってきました」


 そうして話が進められていく。

 概要は孤児である自分たちを王国がまとめて引きとろうという話だ。

 修道院とはいっても慈善活動でやっていて、経営は私たち孤児の養育費が圧迫していることは事実。

 そこで王国からの話が出たということだ。

 理解ができるのが辛い。自分の周りの子らは王国に行けるんだ。と口にしているが修道院の実態があからさまにわかる説明会だ。


「という訳で、皆さんはこれから王国軍育成課に行きますので準備を急いでください」


 それを聞いてみんなが速く荷物をまとめようと笑顔で走っていく。

 私はこの時六歳。

 体の自由にも慣れてきていた。

 だからかもしれないが、ポツンとその場に残っていた。


「おや、君は準備しないのかね?」

「ウェルちゃん? どうしたの?」

「今の説明では王国が私たちを引き取るという名誉な話ですよね?」

「そうよ」


 院長先生は普段と変わらない笑顔で話しかけてくる。

 王国のラミリットという人物も笑顔のまま。


「実際は校ではないですか? 修道院の経営破綻。もしくは何らかの計画のための徴募……」


 二人とも笑顔が一瞬、ひきつった表情になる。

 当たらずも遠からず、かな。

 

「ウェルちゃんはちょっと頭の回転が速いけど、そんなことはないわよ」

「そう。これは王国からの正式な決定なのだよ」

「ではもっとしっかりした説明をお願いします。私は納得いきません。例えば――」


 説明を求める話を出そうとしたらラミリットは胸元から短剣を出して私の喉元に刃を突き立てた。私の死角から。


「それじゃあ、説明しよう。君たちは兵士だ。将来消耗品となる兵士だ。君には理解できるだろう?」

「ラミリットさん!」


 院長はラミリットの行動を見て、口元を手で覆い腰を抜かしていた。

 私もびっくりしたが、今にも泣きだしたいがそうはいかない。


「それじゃあ、私をここで殺したら王国にとっては損ですね」

「いや、そうではないな。それは間違った考え方だ」

「間違っているでしょうか? 私は知識もなく非力で身体的にハンデを背負っている。だけどこの中で私だけがこうしてあなたと腹を割って話せているではないですか」

「……」

「その沈黙は期待していると判断しますよ?」

「ふふ――」


 ラミリットはちっょと笑うと短剣を私の首から離す。

 私の目の前に改めて座りなおして話始める。


「君には驚かされる。確かにここの子供たちは孤児で身寄りがない。だから兵士として教育して王国で働いてもらう。これには間違いない。ただし、有能な君みたいに才があれば出世することも可能だ。ただ単に死なせるための兵士ではないことを合わせて補足させてもらう」

「それで」

「君にはぜひ士官学校に入校してもらいたい」

「は? 士官学校?」

「そうだ。士官学校自体は飛び級でも入れるようになっているからな。ただ、六歳というのは異例中の異例だな。ははは」


 あれ、適切な説明を求めただけなのに短剣を突きつけられて士官学校に入れとか、脅しじゃん。

 そう仕向けてしまったか……。

 今後はもう少し慎重に行動した方がいいかな?

 これはもう士官学校行きは間違いなさそうだし。行くか。


「わかりました。ウェル・ゲーレルは士官学校に志願いたします」


 こうして私はみんなと共に王国入りをしてみんなとは違う士官学校に推薦入学することになった。


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