幼馴染はいい匂いがする
「わっ、悪い伊月!」
「う、うん、大丈夫、大丈夫だから……」
ヤバい、胸元に抱き込むみたいな体勢になってた!
はぁ……女の子ってやわらかくていい匂いがするんだなぁ……って違う!
「……け、怪我とかないか?」
「…………っう、うん……っ」
顔を赤くし、ぱっと目を逸らされる。
うん、物凄く気まずい!
と言うか、なぜ困っているところを助けたのに、俺が気まずい思いをしなければいけないのか。
まぁ、好きでもない男に抱き寄せられたともなれば、仕方ないのかもしれないけど。
そもそも、危ないところを助けてやってこれとか、どんだけ嫌われてるんだよ俺……!
「はぁ……ならよかった。今日はもう早く帰った方がいいぞ?」
「うん、わかってる……」
「また変なのに絡まれないように、気をつけて帰れよ」
「……………」
俺も伊月も、これ以上ここにいてもやる事はないだろう。
この空気の中、ここに居座るのも居たたまれない。
かと言って、伊月より先にここを離れるのも躊躇われる。
そして伊月は伊月で、なぜ先に帰ろうとしないのか。解せぬ。
というかさっきからチラチラ見てるの、わかってるんだからな?
こっちから見ると目線そらすけど!
うーん……あ、そうだ。
さっき伊月が取ろうとしていた猫のぬいぐるみ、あれでも取ってみるか?
そう思い、伊月のやっていたキャッチャー筐体まで来てみたのだが……。
……うわっ、なんか絶妙に可愛くないなこいつ!!
伊月のやつ、こんなぬいぐるみ集めてんのか……。
そういえば、昔からこいつの可愛いの基準おかしかったな……まさか未だにこんなのが好きとは思わなかったけど。
まったく、見た目はいいくせに、よくわからんやつだ。
それにしても2本爪筐体か……首のところ、爪刺さるかこれ?
「それ、取るの?」
「うーん、まぁ一回やってみて……」
「ねぇ、それ取るの?」
「んー……ん!? えっ、俺に話しかけてんの!?」
「他に話しかける人いないよね……? ちょっとびっくりしすぎじゃない?」
いや、そりゃびっくりするでしょうよ、こんな風に話すの何年ぶりだと思ってるんだよ。
え、なんなの? 俺嫌われてるから、長いこと話もしてなかったんじゃないの?
その割に、相変わらず目線はあわせようとしないし……わからん、本当にわからん!
「ああ、まあ取れるかどうかわかんないけど……」
「やってるところ、見ててもいい?」
「いいけど……本当に取れるかわかんないからな?」
「うん、大丈夫。ありがと」
あぁそっか、さっき散々やって取れなかったから、他の人がやってるのをみて自分の参考にしたいんだな? おっけー把握しました。
500円玉を投入、軽快な音楽が流れ出す。
まずはアームの確認、これがわからなければ、景品を取ることはできない。
もちろん、1度目は失敗する、これは分かっている。
隣で落胆の声を上げる伊月は無視する。
見てろよ……俺がこのブサ猫……必ず落としてみせる……!!
結論。
2000円かかりました。
なんだこのクレーンの設定馬鹿じゃないの?
まぁ、後に引けなくなって熱くなった俺が一番馬鹿なんだと思うけど……。
「凄いね! 私、何回やっても全然ダメだったのに……」
「お、おう……ソウダネ……」
「こういうのってコツとかあるのかなぁ、本当に凄いなぁ」
やめてくれ……こんなブサ猫に2000円もかけた俺をそんな目で見ないでくれ……!
キラキラと目を輝かせている、伊月の顔が恥ずかしすぎて見れない……!!
ああもうっ!
「~~~~~~っ! これっ!」
「えっ?」
「これっ、お前欲しかったんだろ!? やるから!」
「……いいの?」
「これ欲しくて、ずっとここにいたんだろ?」
「……私がここにいるの、知ってたんだ……」
やるから、その尊敬の滲んだ目で俺を見ないでくださいお願いします恥ずかしくて死んでしまいます。
「ほんとにいいの?」
「おう、俺が持って帰っても仕方ないだろ」
そっと手を伸ばし、俺の手から伊月の手に渡るブサ猫。
そのブサ猫を大切そうにぎゅぅ、っと抱きしめながら……。
「……ありがとう、ヨウくん、大事にするね」
おずおずと見上げながら淡く頬を染め、ふにゃりと笑みを浮かべた伊月の顔を正面から見て。
――――俺の心臓が、大きく跳ねたのがわかった。




