珍しい人がいる
バイトをしているわけでもない放課後は、特に暇な時間だ。
……友達がいないわけじゃないんだ、ないんだぞ? 泣いてないぞ??
かといって、特に行くところもなく、この時間にやることもない学生が行くところなんて、せいぜいゲーセンくらいしかないわけで。
さて、今日は何をしようか、いつもどおりなら音ゲーを適当に冷やかして帰るくらいだが……。
「あれっ」
入ってすぐのUFOキャッチャーの前で、しかめっ面をしている美少女がいる。
――――伊月だ。
まさか、こんなところであいつを見るなんて思わなかったな。
しかも、いつも周りを友達に囲まれているのに、今日は一人でUFOキャッチャーで遊んでる。
本当に珍しいものを見たなぁ……と思っていると……。
あっ、失敗した。
ブサイクな猫? のようなぬいぐるみを取ろうとしていたのか、ここからでも「ああ〜〜っ」と言う声が聞こえて来そうな表情だ。
ははっ、すっげーむくれてる。ああいうとこは昔と変わってないんだな、あいつ。
昔から機嫌が悪くなると、あひる口のあの顔するんだよなぁ。
学校ではまず見ることがない顔だから、久しぶりに見た気がする……。
……っと、いつまでも伊月を見てるわけにはいかないな。
こんなところを火口にでも見られたら、またストーカー扱いされかねない!
さてさて、今日は何をして帰りますかね?
* * *
その後、中を一周、適当に音ゲー格ゲーを何度かやり、他の人のプレイを見て。
ゲーセン内にあるコミュニティノートで、プレイしているゲームの情報を集めたり。
ある程度遊んだので、そろそろ次へ行くかと考え出した頃に、客が騒いでいる、といった声が聞こえてきた。
キャッチャーコーナーで、女の子が男3人に絡まれている、と。
キャッチャーコーナーといえば、伊月がいたはずだ。
とはいえ、さすがにここに来てから結構な時間がたっているから、伊月が関わった騒ぎではないだろう。
そう、思ってはいるのだが……。
先ほど、ぬいぐるみが取れずに一人で項垂れていた伊月の姿がふと、頭をかすめる。
「いやいや、さすがにもう帰ってるだろ、どんだけ時間たってんだよ」
そう思ってはいるのだが、どうも気になってしかたがない。
火口が言っていたように、あいつの容姿はそういう男を惹きつけてしまうだろう。
俺には昔のイメージしかないからかもしれないが、それを上手くかわせるようにはどうしても思えなかった。
嫌な想像が、どんどんわいてくる。
「……様子を見るだけだし。伊月は関係ないし……」
言い訳のようなことを呟きながら、俺の足はキャッチャーコーナーへと向かった。