表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/46

「何してるのヨウくん、追いかけて!!」

「え……でも……お前……」


日向をこのまま放っていくのか?

でもひかりも……

ダメだ、俺今、めっちゃ混乱してる……!

なんでこんな最悪の場面をひかりに見られるんだよ!


「いいから! 土矢さんのこと好きなんでしょ!」

「……っ悪い! また今度、埋め合わせすっから!」

「そういうのもいいから、早く!!」


そういい残し、屋上を飛び出していく。

くっそ、あいつ意外と足速いんだぞ……毎晩俺と走ってて体力もあるし!

追いつけるか……!?

……いや、追いつかなきゃ、いけないよなぁ!


こんなときに全力で走れなくてどうすんだよ、俺!

今こそ本気で走らせてくれよ……!


 * * *



「あーあ……行っちゃったなぁ……」


屋上から下を見下ろすと、凄いスピードでヨウくんが走り去っていくのが見えた。


「ふふっ、やっぱり速いなぁ……かっこいいなぁ……」


じわぁ……っと視界がだんだんゆがんでくる。

ああ、今私、泣いてるんだなぁ……。


「…………っふぅ……っ!」


あの時。

変に意識して、ヨウくんの側を離れなければ。

もっと早く素直になって、ヨウくんと仲直りできていれば。

去年の夏、怪我で苦しむヨウくんを側で支えていれば……。

……今とは違った結果が待っていたんだろうか?


ぽたぽた、と地面が涙で濡れていく。

やだなぁ、男の子にフられて泣くなんて……かっこわるい。

そう思っているのに、私の涙は、全く止まる気配がなくて……。


「ヒナちゃん」


「……陽愛ちゃん……っふふ、カッコ悪いところ、見せちゃったなぁ……」

「いえ……」

「ヨウくんに、フられちゃったよ。やっぱり土矢さんが好きなんだって」

「そうですか……兄はどこに?」

「今は、ひかりちゃんを追いかけていったよ……私が告白してるの、見られちゃって……」

「あの子はまた勘違いして……」


はぁ、と陽愛ちゃんがため息をつく。

こんなときだけど、陽愛ちゃんがいてくれてよかった、と思った。

一人だったら、多分もう動けなくなっていただろうから……。


「……どうして帰らないの、陽愛ちゃん」

「なんとなく、帰りたくない気分なんです」


そういうと、陽愛ちゃんが私の隣に腰を下ろして、話を聞く体勢になってくれる。


「ふふ……私の事嫌い、なんでしょ?」

「嫌いですけど、泣いてる幼馴染を放っていくほど、私は性格悪くないんですよ」

「優しいね、陽愛ちゃんは……」

「さて、ヒナちゃんは私を優しいといってもいいんですかね? 恋敵を応援していた女ですよ、私は」

「ふふふ、それでも、やっぱり優しいよ……」

「そうですか……」


そんな私たちの間を、夏とは思えないほどの清清しい風が吹き抜けていく。


「私ね……ヨウくんが好きだったんだ」

「はい」

「好きだったんだよぉ……!」

「……ヒナちゃんには、もっといい人がいますよ」

「もうこんなに好きになれる人、出来る自信ないよぉ……」

「大丈夫、大丈夫ですから、ね?」


そういいながら、私が落ち着くまでの間、陽愛ちゃんはずっと、私を慰めてくれた。

年下なのに、なんだかお母さんみたいだな……と。

なんとなく、思ってしまって、ちょっと笑えてしまった。


ヨウくん。

今頃、まだ土矢さんを追いかけてるのかな?

それとも、もう追いついて、ちゃんと好きだって言えたのかな?


ヨウくん。

ずっとずっと、好きだったよ。

今度はヨウくんが、頑張ってね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ