幼馴染の好きな人
火口曰く。
伊月日向が高校に入ってからこの2年でフった男子の数は両手両足の指ではきかないようで、その全てに「好きな人がいる」と答えている、らしい。
「あの伊月さんの好きな人だからな、年上のイケメン彼氏がいるって噂だ」
「……ふーん……」
「おっ、その反応! やっぱ気になるよなお前は!!」
「ばーか、ほら、さっさと行くぞ!」
正直なところ。
もちろんその話は俺も聞いたことがあるし、伊月に誰か好きな男がいる、という噂も聞いたことがある。
……ただ、今の話を火口からも聞いて、ますます「ヒナちゃん」が遠い存在になった気がして。
ほんの少しだけ……胸がもやっとした。
* * *
1日の授業が終わり、放課後。
なんだか今日はよくわからないモヤモヤした感じで、なんとも言えない一日だった気がする。
こんな時はさっさと帰るに限る!
「じゃあ俺帰るわ、火口」
「おーうお疲れ、また明日なー」
火口はこれから、彼女とデートらしい。
リア充爆発しろ。
さて……俺も帰ろ……うとしたら、昇降口に向かって伊月が歩いていくのが見えた。
危ない危ない、今俺も昇降口に行ったら、後ろをつけてるように見えるな……。
ちょっと自意識過剰すぎる気もするけど、仕方がない、そう思ってしまったのだから。
「あっ、水城! 何帰ろうとしてんだよ!」
「金谷……」
出るのに一瞬躊躇ってしまったのがいけなかったのだろう、面倒臭い奴に声をかけられてしまった……!
「放課後なんだからそら帰るだろ、金谷はこれから部活だろ? 頑張れよー」
「いやいや、お前も陸上部だろ! そろそろ出てこいよ!?」
「じゃあなーお疲れー」
「……っみんなお前が来るの待ってるからな……っ!」
「ま、気が向いたらな」
ここで足を止めないようにするのが肝心だ、こいつは隙を見せたら絶対に俺を引っ張って行こうとする!
ま、こうやって気遣ってくれるのはありがたいんだけどな。
ひらひら、と手を振り、今度こそ昇降口へ向かうのだった。