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幼馴染とお祭りと『誰か』の足音

 お祭りの会場までは、地下鉄で一本、10分程の場所になる。

会場とは言え、ある地域一帯が歩行者天国となり、あちこちに出店が出るようになるため、駅を出た瞬間からもう、お祭り会場のようなものだった。


しかし、電車の中といいここといい、日向への視線の数が半端ない。

すれ違う男の大半が、振り返って日向を見ている気がする。

当の本人の日向は全く気にせず、平然と歩いているわけだが……。


「ね、お祭りって、ワクワクするよね!」

「そうな、気分が盛り上がるのはわかる」

「結構人が多いし、はぐれないようにしないとね」

「そうだなぁ、昔みたいにはぐれて、また日向にメソメソ泣かれたら困るしな!」

「な、泣かないし、泣いてないしっ!!」


そう言いつつ、俺にぴたりと寄り添い、繋いだ手をしっかりと握り直す日向に、

こちらも握り返して応える。

今日向とはぐれたら、どんなことになるかが目に見えすぎている。

絶対に日向の手を離さないようにしよう、そう強く思った。


***



「このお祭りって、こんなに人多かったっけ……」

「昔も人多かったけど、今は観光で来てる人が増えてるからねー」


うむむ、俺の記憶のお祭りは、ここまで人が多くなかったのだが……。

これでは、適当に屋台を冷やかして歩くのも結構難しいぞ……。


「あ、ヨウくん! 私りんごアメ食べたい!」

「りんごアメって歩きながら食べるの難しくないか?」

「いいのいいの、お祭りって言ったら、やっぱりりんごアメ食べないとね!」


りんごアメってでかいから、食べようとするとべたべたになるんだよな。

というか、りんごをまるまる一個アメで包もうと考えたのは一体どこの誰なのか。

案の定、りんごアメを食べるのに苦戦している日向を見ると、笑えて来る。


「うー……美味しい……けどやっぱり食べづらい!」

「そんなデカいの買わないで、小さいのにしたほうがよかったんじゃないか?」

「ううん、大きいのでいいんだよ。あ、ヨウくんも食べる?」


はい、と差し出されるりんごアメを大きく齧る。

やば、大きく口開けすぎて顎がいてぇ……。


「ぐえ、アメが歯茎に刺さった……!」

「あはは、意地汚く大きく食べるからだよー!」

「しかも顎痛いし……大して美味しくないくせに……!」

「む、これ私が買ったりんごアメなんですけどー?」

「大変美味しく頂きました」

「うむ、よろしい」


その後はお祭り定番のたこ焼き、焼きそばと回っていく。

どう考えても割高なんだけど、お祭りって空気だけでついつい買ってしまって不思議だ。

フランクフルトなんて、コンビニで150円で買えるのに、お祭りだと300円とか超えるんだもんなぁ。


「ヨウくん、焼きそば一口ちょうだい?」

「ん、ほらよ」

「ありがと……うん、普通の焼きそばだね」

「そりゃな」

「ヨウくんも私のたこ焼き、一個食べる?」

「おう、食べる食べる……うーん、普通のたこ焼きだな……」

「逆に普通じゃないたこ焼きってのを食べてみたい気がする!」

「中にチーズ入ってるのとか?」

「それは普通に美味しい奴だと思うんだけど?」


俺は日向が使っていた箸ごと受け取り、そのまま食べる。

もちろん、日向も日向で俺の使っていた箸をそのまま受け取り、食べる。

これが恋愛もののラブコメ漫画や小説なら、間接キスだね……なんて展開になって

甘い空気になってお互い恥らうような話が入るのかもしれないが……。


「なぁ日向、これいわゆる間接キスってやつだな」

「今更すぎるよ……もうそんなの気にしないよ?」


これである。

ちょっとは、恥らうサマを見せてくれてもいいと思うんですよ!

むぐむぐと口を動かしながら、不思議そうな目で見てくるんじゃないよ!!


「よし、食べ終わったし次いこー次!」

「よし……ってここ来てから食ってばっかだったな、俺ら……」

「ね。もっとお祭りっぽいこともしないとね!」

「じゃあヨーヨーでも釣るか」

「ふふふ、勝負だよヨウくん!」

「はっ、返り討ちにしてやるよ!」



 その後……

ヨーヨー釣りも、カタ抜きも、金魚すくいも……全てで敗北した。

なんだこいつ万能超人かよ……!!


一方、日向はニコニコ顔だ。

俺を圧倒し、悔しがらせたのがよほど楽しかったようで……

くそっ、見た目可愛いのに性格悪いぞこいつ!


「はー! 楽しかったねーヨウくん!」

「そうなお前はな……くそっ……来年は絶対、俺が勝つからな……!」


来年。

ヨウの将来の展望に、自分がまだいることが、日向はとても嬉しかった。

でも、本当に来年も、自分は隣にいれるのだろうか? とも、ふと思ってしまい……。


「来年、かぁ……来年も来れるのかな……」


そして、俺はその呟きを、聞き逃してしまった。


「ん、なんか言ったか?」

「んーん、なんでもない! 明日も学校だし、そろそろ帰ろっか?」

「だなぁ……あー、学校行きたくない。早く夏休みになんないかなぁ」

「もうあと1週間もしたら休みなんだし、頑張ろうよ……」

「宿題の事を思うと、今から憂鬱だ」

「溜め込まないでちょっとずつやれば、憂鬱にならないよ?」

「出来るなら毎回やってるんだよなぁ」


そんな、どうでもいい事を話しながら、日向と手を繋いで帰り道を歩く。

テストのこと、夏休みのこと、明日からのこと、それから……。


「ね、ヨウくんは……好きな女の子っている?」


好きな女の子、か。

正直、気になってる奴はいる。

ただ、それが好きかどうか、と言われると……どうなんだろう?

俺は……その子の事をどう思っているんだろう? 

今の俺には、よくわからなかった。


だから、俺の答えは……


「……気になる子、って意味ならいるよ」

「そっか」

「前も言ってたけど、日向も好きな奴、いるんだろ?」

「うん、いるよ。すっごく好きな人」

「そっか……」

「うん」


それきり、俺たちの会話が止まる。

なんと言って会話を再開させればいいのか、と考えていると。



 突然、強い風が吹いた。


「あ……いたっ……」

「どうした日向?」

「んっ……なんか目に、ゴミが入ったみたい……」

「大丈夫か? ちょっと見せてみろよ」

「うん、お願い……」


そうして、日向に少しあごを上げさせて目を覗き込み、様子を見る。

大きなゴミが入っているわけではないようなので、少し様子を見ていれば大丈夫かな?

目薬でも持ってればよかったんだけど、流石に俺は持っていなかった。


「目ぇこすったらダメだからな。目薬とかは……持ってないよなぁ」

「流石にその備えはないかな……大丈夫、ちょっと待ってれば引くと思うから」

「ん、わかった。ちょっと端っこ寄るか」

「うん、ありがと……お願いね」




この時、俺は気付いていなかった。

俺のすぐ後ろに、誰かが近づいていたことを。


その誰かが、踵を返し、走り去っていったことを……。


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