幼馴染とテスト勉強
今日は土曜日。
日向に勉強を教えてもらう約束の日だ。
日課の朝のトレーニングを終え、シャワーを浴びて準備万端。
いざ伊月家!
「陽愛ちゃんは今日も可愛いね、兄は出かけてくるぞ」
「了解、妹も今日は帰り、遅くなるかも」
「わかったー、車には気をつけるんだぞ!」
「兄も。妹は今日頑張ってくるから、楽しみにしててね」
「? わかった、じゃ、行ってくる」
「アイス、今日はチョコミントでよろしくー」
「はいよー」
いったい陽愛ちゃんは何を頑張り、俺は何を楽しみにすればいいのだろう。
陽愛ちゃんのことは好きだが、時々何を言っているのかわからなくなる……。
* * *
「いらっしゃい、ヨウくん」
というわけで早速、勉強道具を持参し、伊月家へ訪問していた。
チャイムを鳴らした時点ですぐに俺だと分かったのか、すぐに出てきてくれた。
膝丈のジャンパースカートが清楚な印象で可愛らしい。
「おはよう、日向。……えっと、ほんとにいいのか?」
「うん、いいよいいよ、入って」
「お、お邪魔しまーす……」
うわぁ、日向の家入るの、凄い久しぶりだ……。
本当に誰もいないし。ちょっと危機感薄すぎるんじゃないだろうか……。
日向のお父さんも長らく見ていないが、もう少し厳しく教育して欲しいものである。
「私の部屋、まだ覚えてる?」
「ああ、忘れるわけないだろ、うちの部屋の目の前なのに」
「ふふ、そうだよね?」
日向の部屋は、俺の部屋の目の前にある。
その気になれば、屋根伝いにお互いの部屋を行き来できる距離だ。
小さい時は、よくお互いの部屋を行き来したものだ……今となっては、流石に難しいが。
「じゃあ、先に私の部屋に入っておいてもらえる? お茶入れてくるから」
「わかった」
「下着は、入ってすぐの洋服箪笥の一番上だから、開けないでね?」
「あ、あけねーよ!」
クスクス、と笑いながら台所へと入っていく。
それにしても、日向ってあんな冗談を言う子だったっけ?
この4年の間に、そんなに変わる出来事でもあったのだろうか。
何か腑に落ちないものを抱えながら、日向の部屋へと向かった。
「おお…おお? なんか……あんま変わってない気がするな……」
約4年ぶりに訪れた日向の部屋は……正直、あまり変わっていなかった。
いや、女の子らしい小物は少し増えただろうか?
基本的な配置は変わっていないので、昔に戻ったような気がする。
「お待たせ……何きょろきょろしてるの?」
「数年ぶりに来たけど、なんかあんま変わってないなって」
「うーん、そうかな?」
「強いて言うなら……ブサイクなぬいぐるみが増えてるってところか」
「ぶ、ブサイクじゃないよ! みんな可愛いよ!!」
この前取ってやったねこ? のぬいぐるみを大切に抱き締め、形のいい眉をきゅっと寄せながら詰め寄る。
「ほら、この前ヨウくんが取ってくれた子だって可愛いでしょ!」
「うーん……どこが?」
「もう……ヨウくんはほんと、センス悪いよね」
日向がはぁ、とため息をついて、やれやれという顔をする。
あれ? なんで俺がセンス悪いことになってんの?
おかしくない? このねこ、ブサイクだよね?
なんか、顔ぱんぱんだよ? 普通のねこと並べたらねこ? くらいになるよ?
「改めて言うけど……本当にありがとうね、この子のこと、一生大切にする」
「そ、そんなに喜んでもらえたんなら、まぁうん、嬉しいよ」
「うん……」
ねこ? に半分顔を埋めながら、上目遣いでこちらを見る日向と目が合う。
学園では普段、少し大人びた表情を見せる日向の年相応のあどけない表情は非常に愛らしく……。
「「………………」」
数秒、見つめあう。
ああ、くそ……今、絶対顔赤いだろ俺……。
耐えられずに視線を外すと、目の端で日向がこてん、と首を倒したのが分かった。
その仕草だけでも火口が50人は死ぬぞ……!
「よ、よし! 勉強! 勉強しようか日向!!」
「あ、うんそうだね! ええっと、ヨウくんはどの科目が一番危ないの?」
「うーん……理数は問題ないと思うんだけど……よくわからないのは現文かなぁ」
「わかりました、ではそこからやりましょう!」
「よろしくお願いします、伊月先生!」
「ふふ、任されました♪」
こうして、俺と日向、二人だけの勉強会が始まった。
* * *
「だから、読み取り問題はこうやって探すと、必ず文章内に答えが書いてあるの」
「ふむふむ」
「なんとなくここかな? って答えには絶対ならないのはわかる?」
「それは文章内に答えが書いてあるからってことだよな?」
「そうそう。現国で間違えるときは、だいたい読み飛ばしてるせいだよ」
ふんふん、と解答欄を埋め、答えを合わせる。
おお……まさかこんな簡単に正解するとは……ぱないな。
「はぁ、なるほどなぁ……これで部分点回避か……」
「うんうん、やっぱりやれば出来るよねヨウくんは!」
「ふぅ……さんきゅーな日向、すげー教え方、わかりやすいわ」
「ふふふ、これくらいしか役に立てないからね」
「いやいや、めちゃくちゃありがたいよマジで」
「じゃあ、もっと役に立たないとね。次の問題、やってみよ?」
「了解!」
そうして、次の問題に取り組む俺を、日向が横からサポートの形で次々問題を解いていく。
日向の教え方は本当に上手く、どんどん答えた解けていく……やっぱりすごいな日向は……!
「はー、疲れた……」
「お疲れ様、いい時間だし、そろそろお昼にしようか?」
「カレー! 伊月カレーの時間か!」
「ふふっ、なぁにそれ……」
ここまで頑張れたのも、伊月カレーのため!
次なる『久しぶり』に、俺は心を躍らせたのだった。




