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幼馴染と一本の傘

 日向に連絡をいれ、図書室へ向かう途中、雨の降り出した空を見上げる。

俺傘なんて持ってきてたっけ……一本だけ、置き傘があったか?

最悪、今日は日向に傘を渡し、俺は濡れネズミになって帰らないといけないかもしれない。

傘を忘れたフリをして、日向も夏服で濡れ透け……うん、いいね。よくねぇよ。


このまま雨が続くと、夜のトレーニングには出られないな、今日はどうするか。



 そんな事を考えながら、図書室まで来たわけだが……。


図書館の隅。

仲睦まじげに、男女が語らっていた。

男女というか……片方は日向だな、あれ。


(おお……日向が見知らぬ男と、親しげに話している……)


相手の男は……見たことないな、誰だあれ?

見た目はそこそこよく、日向とはよく釣り合って見える。


(……あの中に割って入って、日向を連れ出すのか……?)


正直、あの仲睦まじげなところに、入っていく勇気はない。

先に帰ってはいけないだろうか、と若干ゲンナリしつつ、

帰ったら帰ったで後から面倒くさそうだ……とも思いつつ。

仕方がないので、少し離れた席で観察する事にしたわけだが……。



 あれが、噂の日向の好きな男か? と最初は思った。

しかし、それはないなとすぐに思い直す事になる。


あの顔は、教室でよく見ている所謂『余所行き』の顔だ、と。

表情は笑っているが、目の奥が冷えている……というか怖い。

あのイケメンくんも、なぜ気が付かないのか。


それにしても、あいつの『余所行き』の顔を引き剥がせる男っているのかね?

今更ながら、あいつの今後が心配になる。

願わくば、『日向の好きな人』、というのが

その仮面を剥がせる男であればいいな、と願わずにはいられない。


っと、そんな事を考えていると、とうとう日向に気付かれた。

しかもめっちゃ怒っている……!

ええと、何々?


『な、に、み、て、る、の、た、す、け、て』


ヘルプ要請きました。

はっきり言って行きたくない……が、仕方ない、行くか……。


「日向、お待たせ」

「あ、ヨウくん!

 ええと……すいません、迎えが来ましたので、今日は帰りますね」


ペコリと頭を下げて、席を立とうとする日向。

随分親しげに話していたが、あのイケメンくんは知り合いではないのだろうか?

いや、知り合いなら、あんなにこっそりヘルプを出さないのか?


「ま、待ってください伊月さん! もう少しお話できませんか!?」

「……ごめんなさい、今日は彼と帰る約束でしたので……」


キッ、とこっちを睨みつけてくるイケメンくんには悪いんだけど、

俺をそんな目で睨まれても困る。

悪いが、俺に選択肢はないんだ……いや、本当に。


「それでは、失礼しますね」

「あっ……」


そのまま、振り返りもせずに歩いていく日向を、哀しそうに見つめるイケメン君。

俺もとりあえず会釈をし、図書室を後にするのだった。



 * * *



「なぁ日向、さっきの人、あれでよかったのか?」

「うん、いいのいいの。だってああでもしないと帰れなかったし……」

「ほーん、大変なんだなぁ人気者も……で、さっきの人は知り合い?」

「わかんない……ヨウくん待ってたら、話しかけられただけだから」


知らない人なのに一見仲良さげに話してたのかよ。

これがコミュニケーション強者の実力……!


「て、雨! 凄い雨降ってるよヨウくん!?」

「そうそう、雨降ってるんだよ。今日、雨降るって聞いてたか?」

「……朝、天気予報見てなかった……」

「ちなみに、俺も見てない」


とにかく、靴を履き替えないことにはどうしようもない。

昇降口まで来て、置き傘を確認。よし、誰にも取られてないな。


その頃には、さらに雨脚は強まっていた。



「ヨウくんは傘、持ってる?」

「置き傘が一本、だな」

「そっかー……ね、ヨウくんは相合傘、って知ってる?」

「しないぞ」

「まだ何も言ってないし!」

「いや、そこまで言われたら分かる。傘は貸すから、日向が使えよ」

「えー、しようよー、ラブラブして帰ろうよー」

「日向さん、俺の話聞いてますか?」


一応、傘を広げてみるがやはりあくまで一人用、二人が入るには狭い。

これでは、二人で入ると、確実に半身は濡れるだろう。


「どうする日向」

「そこで私にいい考えがあります。ほら、私の後ろにヨウくんが立って……」


ふむふむ、後ろに立ちまして?


「ぎゅっと抱きしめるようにしてくれれば! 一本の傘でもいける!」

「いけないしやらないよ!?」


何その体勢! いまどきのリア充カップルでもやらないぞ!?


「いい考えだと思ったんだけどなぁ……」

「日向さんは成績いいのに、たまにアホの子になりますね」

「ぶー。あれも嫌、これも嫌! じゃあ、どうするの?」

「だから、日向が使って帰ればいいよ。俺は走って帰るし」


トレーニングだと思えば、そんなに長い距離でもない。

日向を濡れ鼠にして帰るくらいなら、俺が濡れたほうがいいからね。


「でも、それだとヨウくんが風邪ひいちゃうよ……?」

「俺は、日向に風邪を引かれたくないんだよ」

「私だってそうだよ……」


お互いの意見は平行線。

こうなると、妥協点を探るしかないわけで……。


「……仕方ない、誠に遺憾だが、相合傘で帰るか……」

「私がしたいって言ってるんだから、最初からそうするって言えばいいのに」

「男の子には、かっこつけたくなる事があるの」

「ふふっ、見栄っぱりな男の子も大変だね」

「うるせー」


俺が傘を広げると、日向が肩がくっつくほどの距離に近づいてくる。

雨のおかげか、通りには余り人がいないので、火口が大騒ぎすることもないだろう。


「肩、大分濡れてるよ?」

「そうか? だいたい半分にちゃんとあるだろ?」

「じゃあ、もっとくっつかないとダメだね」


日向が、腕を組むくらいの距離にぐっと近づいてくる。

なぜ女の子は、こんなにいい匂いがするのだろう。



とても、不思議に思った。


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