お隣さんちの伊月さん
AM7:40
俺が朝、登校するために家を出るいつもの時間だ。
「いってきます、っと」
ドアを開けると、隣の家からも「いってきます」、と言う声が聞こえてくる。
そしてちらっ、とこっちを一瞥し、颯爽と歩いていく彼女。
「はぁ……」
思わず溜息が出てしまうのは許してほしい。
彼女のあの態度は、今に始まったことではないのだから……ただまぁ、この4年ほど、毎朝あの態度を見ていると俺も凹む。
そんな彼女の名前は「伊月 日向(イツキ ヒナタ)」
お隣さんということもあり、小さい頃はいつも一緒に遊んでいた俺、「水城 陽(ミズシロ ヨウ)」のいわゆる幼馴染だ。
中学に入る頃から徐々に話す事が減って…2年の頃からはずっとこんな感じで避けられているし、向こうもあんな態度なんで、俺の方からも歩み寄ろうという気も起きない。
昔はあれでも、「ヨウくん」「ヒナちゃん」と呼び合って、俺の後ろをいつもついてきていたんだが……。
同じ高校に進学したことから、また話だけでもするようになるかと少しは思ったんだけど、そんな優しい話しはこの世界にはなかったようで。
「まぁ、リアルの幼馴染なんてこんなもんなのかもな」
ずっと仲のいい幼馴染なんて、結局はゲームやアニメの中にしかいないのだろう。
それくらい、俺と伊月の間には深い溝が出来てしまった。
とは言え、例え今更話しかけたところで、もう何を話せばいいのかさっぱりわからないわけだが……。
それにしても。
「毎朝の事とはいえ、俺があいつのあとをつけてるように見えるよなぁ……」
どうせ話しもしないんだから、あいつには出る時間をずらしてほしいものである。