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幼馴染は買い物が長い

 ショッピングモールにつくと、平日だというのにかなりの人で賑わっていた。


「おー、噂では聞いてたけど、結構でかいなぁ」

「ここ、スパもあるんだよねー」

「スパかー、そういや俺、行った事ないんだよな、あれ」

「へへ、今度一緒に行こうね!」


水着の伊月とスパか……うーん、伊月のファンに刺されそうだな。

ただ、そういうのは俺じゃなくて、本当に好きな奴と行って貰いたい。


「それで、まずは何を見たいんだ?」

「とりあえず服を見たいかな、あとはその場の流れで?」

「了解、じゃあ行くか」

「うんっ、ヨウくんが私に着せたい服があれば、なんでも言ってね!」

「お前は多分、何着ても似合うよ」

「そ、そうかな……へへへ……」


この時、俺は心の底から願っていた。

同じクラスの連中にだけは見つかりませんように、と――――



 その後、伊月に連れられて、モール内のアパレルショップを連れまわされた。

あっちの店に行き、こっちの店に行き、その都度ファッションショーを開き。

やっぱりあっちのお店のあれがもう一度見たい! と前の店に戻り……。


どうして、女の子ってこんなにお買い物が好きなんでしょうね?

服なんて着れればなんでもいいと思ってる、俺にはわかりません。


それでも、嬉しそうに、


「ね、似合うかな?」


と、上目づかいに笑いかけてくる伊月は、やっぱり可愛かったので。

まぁたまには付き合ってやってもいいかなぁ、と思う俺は本当にチョロいと思う。



 結局、2時間ほど伊月の買い物に付き合い、休憩としてカフェに入ったのは、

18時を大きく回った頃だった。


「はぁ……お前ほんと……ほんとすげぇな……」 

「え、えへへ、なんか楽しすぎて、あっという間に時間経っちゃったねっ」

「そのちっこい体に、どんだけのパワーを秘めてるんだ……」


朝夕走って体力つけてるはずの俺がへとへとなのに、

なぜ伊月は全然元気なのか……どうなってんの女の子。


「まぁまぁ、あっ、ケーキ、ヨウくんも一口食べる?」


そういうと、フォークで一口分を切り取り、俺のほうに向けた。

いわゆる、あーんというやつだ。

さすがに外で、しかも伊月のような美少女に手ずから食べさせてもらう、

というのは火口なら喜んで飛びつくシチュエーションだろうが、

俺にとっては恥ずかしすぎる状況なわけで……。


「いや、いいよ、いい……恥ずかしいから!」

「んっ」


あー、ダメだこれ、俺が食べるまで絶対引かないやつだ。

俺は覚悟を決め、伊月が差し出すフォークに口をつけた。

……この甘さはおそらく、ケーキだけのせいではない……。


「ね、美味しいよね、このケーキ!」

「……お前にも食べさせてやるよ」


伊月の手からフォークを奪い、同じように伊月の前に差し出す。


「ほら」

「えっ、いや、えーっと……へへへ……」

「ほら」

「~~~~~っ」


ぱくり、とケーキを食べた伊月の顔が、どんどん真っ赤に染まっていく。


「どうだ、ケーキは美味しかったか?」

「う、うん……美味しい……けど……それよりも恥ずかしい……!」

「俺の気持ちが分かったようで何よりだ……」


くそ、俺の顔も熱い!

世のリア充たちは、よくこんなことができるもんだ……!


「そ、そうだ、もうすぐ期末テストだけど、勉強は大丈夫?」

「…まぁ赤点は取らないよう、努力したいな、程度には……」

「したいと思ってるって……適当だなぁ」


じーっとこっちを見たかと思ったら、そっとため息をついた。


「はぁ、仕方ないなぁ……私が勉強、教えてあげようか?」

「教えてくれるって言うなら嬉しいけどさ……正直邪魔じゃない? 俺」

「遠慮するのもいいけど、せっかくの夏休み、補習まみれになってもいいの?」


ぐっ、と言葉を詰まらせる。

正直、夏休みが補習だらけになるかどうかは微妙なところだ。

おそらく問題はない、と思ってはいるが……。


「じゃあ今度の土曜日、うちで勉強会ね!」

「おいっ、勝手に俺の予定を――」

「頑張って赤点回避しよー! おー!!」


 急に離れたかと思ったら、急に近づいてきて。

本当に俺の幼馴染は、何を考えているのか全然わからない!


「それじゃあ、勉強会に向けて、もう一軒だけ付き合ってもらってもいい?」

「……おー……いいぞ……どこでも付き合ってやる」

「やったっ。じゃあ……あそこの下着屋さんに」

「待て! それだけは勘弁してくれ!! って腕を! 腕を引っ張るな!」

「はーい、じゃあ行きますよー!」


ちょっと待って、どこにそんなパワーあるの!? やっぱり女の子っておかしいよ!

……その後、俺の好みを根掘り葉掘り聞かれることになった。

死にたい……。



 * * *



「今日はありがとうね、ヨウくん」

「いやいやこっちこそ、今度の土曜日、悪いけど頼むな」

「へへへ、うん! 頼まれました!」

「じゃあまた明日な、伊月」


そういい残して、帰ろうとした、んだが……。

伊月が、くいっと、制服のすそを掴み、帰ろうとした俺を引き止める。


「……ねぇヨウくん、なんでいつまでも『伊月』なの?」

「なんで、って言われてもなぁ……」

「昔みたいに『ヒナちゃん』って呼んでくれても」

「それは勘弁してくれ……」


さすがにこの年になってヨウくんヒナちゃんもないだろう。

何より伊月をヒナちゃんなんて呼んだら、後が怖すぎる。


「じゃあ日向、って名前で呼んでほしいなぁ」

「うーん……別に伊月、のままでいいんじゃないか?」

「ね、お願い、ヨウくん」


じー、っと、真剣に俺を見上げてくる伊月の目に吸い込まれそうになる。


「……日向。これでいいか?」

「……へへ、うんっ! 明日からも、ちゃんと名前で呼んでね?」



嬉しそうな笑顔を向ける伊月があまりにも眩しくて。

それに頷きつつ、俺はさりげなく目を背けてしまった。



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