表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/46

幼馴染は否定しない

AM7:40

俺が朝、登校するために家を出るいつもの時間だ。


「いってきます、っと」


 ドアを開けると、隣の家からも「いってきます」、と声が聞こえてくる。

そして、いつものようにちらっ、とこっちを一瞥してくる伊月。

その瞬間、昨日の笑顔を思い出してドクン、と心臓が跳ねる。

そして――――


「おはよう」


そう一言残して。

――――そのまま、スタスタと歩いていってしまった。


「えぇ……?」


 すん、と心臓の鼓動が落ち着く。

あれっ、昨日あんなことあったのに、何も変わってない……?

もしかして、昨日ごろんごろん転げまわってたのって俺だけ?

やだ……意識しまくってた俺、超恥ずかしい……!!


 昨夜とは違う意味の恥ずかしさで悶えている俺は、全く気が付かなかった。

伊月が、実は耳まで真っ赤にしていたことを……。



 * * *



 今朝は、朝から教室の中の空気が、少しざわついている気がした。


「なぁ、知ってるか? 昨日の夕方、伊月さんが男と歩いてたって噂」

「……へぇ……」


 それ、十中八九俺のことですよね? とは言わない、言うわけがない。

どうやら、これまでの伊月の告白の断り文句『好きな人がいる』と、

昨日一緒に歩いていた男が、ついにつながったのではないか?

と、女子たちの間で話題になっており、朝から伊月が質問攻めにあっているんだと。

なるほど、朝から空気が変だなと思ったのは、そういうことか。


 それに、そんな事を言われても、伊月も困るだろう。

昨日一緒に歩いていたのは俺だ、決してあいつの『好きな人』なんかではないのは、自分がよくわかっている。

それにしても、昨日はテンパってあんなことしてしまったけど、

それが原因で今、伊月が困っているなら、悪いことしてしまったかもなぁ……。


「で、伊月はそれに対してどう答えてるんだ? なんか言ってるのか?」

「それが、どうも否定も肯定もしないっていうか……うーん、なんだろうなあれ」

「はぁ?」


 否定しない? なんで?

違う、そんな人じゃないよ、と言うだけで終わるはずだ。

じゃああれは誰だったのか? と聞かれて、俺に迷惑がかかるのを気にしているのか?


「そんな態度だから、余計にそいつが意中の相手なんじゃないか? って疑われてるみたいだな」

「そりゃ……そうなるだろ。伊月にしては迂闊な回答だな」

「で、伊月さんのストーカーのヨウさんは、相手の男に心当たりはないので?」

「知らん」


知ってますけどね。


「それにしても、俺の天使伊月さんに近寄るとかマジで許せねぇ……!」

「いつからお前の天使になったんだよ、バーカ」

「これからなるんだよ!」


 そこからは、いつものようにどうでもいい話で盛り上がる。

おそらくこの噂も、数日もすれば沈静化するだろう。

そもそもが俺と伊月が関わるようなことがイレギュラー、昨日の出来事で少し距離が縮まったように見えるが、それでもようやく朝に挨拶を交わすようになった程度だ。


 移動教室のときにチラッと見た、伊月の顔もいつも通り、優等生然とした表情だ。

昨日見せた、あの笑顔は実は俺の妄想でした、と言われても納得できるね。

この様子だと、今後二人でいるところを見られることは、もうないだろう。

平和でいつも通りの日常が帰ってくるのも、遠い話ではない。


そのはずだったのに。



「ヨウくん、お昼、一緒に食べませんか?」


 俺を昼飯に誘いに来た伊月を見て、唖然とする火口や他のクラスメイトたち。

どうしてこうなった……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ