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僕が小笠原をメモする七日間  作者: 細間低人
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僕は、小笠原で年を越す


12月31日


9:30


 ここまでの曇り空とは打って変わって良い天気が訪れた。晴天の小笠原は、僕に夏を思い出させるほどだった。


 今日の予定はまるっきり未定である。だから、ゆったりとした時間をゆったりと過ごした。それは、ゆったりとした時間をあっという間に過ごしたダイビングの時とは違う世界の、同じ時間感覚だった。

 小笠原観光で電動自転車を借りて、ゆっくりと父島を堪能した。日に照らされた海水面はキラキラ光り、草木は緑を風で揺らしている。

 防空壕として使われていたトンネルは、ひんやりと悲しい涼しさを発していた。自転車を漕ぐたびに気持ちの良い風を受けながら、僕は都会の時間軸から逃げて行く。時間というものは不思議だ。これが僕の生活していた秒刻みのような疲れる時間と同じだとは到底思えない。

 また日常に戻ったときには、色々な場所の色々な時間感覚を想像することで、少しは楽になるのかもしれない。



10:00


 小笠原水産センターへとやってきた。

 ここは小笠原の海の生き物が展示されていた。ここでの説明が雑になるが、あしからず。僕は生き物を見るのが一番好きなのだ。これはもうどうしようもない。生き物を見ているときだけ語彙が死ぬ。かわいい。次。


11:30


 予約していた弁当をうけとって大村海岸で海を見ながら昼食をとった。水色の絨毯が一面に広がっている。何かを考えずに景色を見ることはいいことだと思う。本土で今何かしらの仕事に追われて文字通り師走を過ごしている人がいるのは申し訳ないけれど、僕は師走に走らない。海を眺めて飯を食らう。


12:30


 自転車をぐんぐん漕いで、何もなさそうな海岸線を最後まで行くと、突然小笠原海洋センターが現れる。海洋センターは水産センターと違い、ウミガメを中心に扱っている施設だ。入り口でキャベツを購入して、施設内にいるカメにあげることができる。

 入るとすぐに、一匹の大きいウミガメがつぶらな瞳でこちらを見ながら、餌を求めてプールの淵の方までやってくる。奥にもウミガメはいるのにも関わらず、僕は殆どのキャベツをそいつにやった。動物好きならこの気持ちがわかるはず、目の前のあざといカメに僕のキャベツなど安いものなのだ。

 奥には、まだまだ小さい手のひらくらいの大きさのウミガメが数匹ずつ区画ごとに分けられていた。全部で百匹以上で、これが本当にテレビ番組などで絶滅だか減少だか言われている生き物の数なのかと驚いた。

 こんなものなのかもしれない。保護する心よりも現実が大切だ。有名な俳優が訪れてウミガメ感動ドキュメンタリーを撮るよりも、今僕のすぐそばにある受付で少しダルそうにスマホをいじっているここの職員の存在のほうがウミガメにとっては大切なのだ。万が一の話ではあるが、僕が何かしらでちやほやされたり、注目されたりするときがあっても、きっと大切なのはすぐそばにいる人だということは覚えておかなければ。


23:59


 早めに夕食を済ませて年末のテレビ番組をぐったりと見た。いつのまにか残り1分で年越しとなった。年越しイベントが海の近くで行われていて、丘の上にあるこの宿からでも花火が見えると宿のおばちゃんに聞いたので、ベランダに裸足で出てそれを待った。

 ずっと下に見える海岸のあたりから、ぼんやりとカウントダウンの声が聞こえ、一等大きな声、おそらくゼロのカウントがされた瞬間。

 停泊しているおがさわら丸から地を揺らすような低い汽笛が鳴らされ、同時に、山の上にいる僕の目線の高さに花火が上がる。汽笛は鳴り続け、僕は人生で何度も見たことがあるはずの花火から目が離せなくなった。

 新しい年が始まる。気分が良かった。一年間が終わったことが気持ちよかったのかもしれないし、裸足の足の裏、ひんやりとした感触が気持ちよかったのかもしれない。



 あまり関係の無いことほど、よく覚えていることがあるから、きっとこんなことは来年も覚えているだろう。そのとき食べたカップ麺は伸びきっていたのに美味しかったし、年末の番組はマンネリ化してもいい頃なのに笑いが絶えなかった。



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