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第7話 アンタは、本当は…

 そこにいたのは、クラス1のイケメン、ハヤト君でした。


「なにか困っているのかい?」


「………」


 昨日、わたしのことを“気持ち悪い”とか言ってくれて、どのツラ下げて話しかけてきてんですかね、この人は。


「気持ち悪い女になんか、かまってくれなくて結構ですよ」


「気持ち悪い?」


「昨日わたしのこと、気持ち悪いって言ったじゃない」


「え!? そんなこと言ったかなあ」


 なにをしらばっくれてやがるのか。

ちょっとモテるからって図にのらないでくださいよ。


「うーん、考えてみればそんなこと言ったかも。

なんであんなこと言ったんだろう。

どうも俺はどうかしていたらしい。

スマン!!!」


 ハヤト君が両手を合わせて謝ってきました。


 なんなんでしょう、この手のひらクルーっぷりは。

アタマがおかしいんでしょうか。


「モブ子ちゃんのことを気持ち悪いなんて思ったことないよ。

本当だ!!」


 どうもウソをついている感じではありません。

まあいいでしょう。

わたしはたいへん根に持つ方ですが、手助けしてくれる流れなら利用しない手はありません。


「まあいいわ

そんなに反省してるならひとつ、頼みをきいてくれる?」


「もちろんだ」


「実はこのクラスのチビ蔵くんっていうのが、今日登校してるか知りたくて」


「ほう、チビ蔵くん。

知らない人だが、お安い御用だね。

このクラスにも俺のファンはたくさんいるから、彼女たちに聞けば一発だろう」


 いいご身分ですねえ。


「じゃ、ちょっくら行ってくる!」




──────




「いなかったよ」


「いなかった?」


「ああ、まだ登校してないって。

チビ蔵くんはギリギリにくるタイプじゃないから、たぶん休みだろうって話だったよ」


「ふーむ」


 ウーン、まさかルト子のほざいてる通りなんでしょうか?

あまり認めたくはないですが。


「ついでにチビ蔵くんの住所とケータイ番号も教えてもらってきたよ。

なにかの役に立つかと思ってね」


「おおー、ありがとう」


 これはホントに感謝の言葉が口をついて出ましたよ。

この気遣い…!

モテる男は一味ちがうということでしょうか。


 特にケータイ番号は助かりますね。

実はチビ蔵くんの番号知りませんでしたからね。


 普通は知り合いになったときに番号交換すると思いますか?

甘い甘い。

それは普通に友達いる人の発想なのですよ。


 わたしのような“友達いない族”は、知り合いが増える機会などほぼありません。

だから番号交換などという発想には決して至らないのですよ。

エヘン。


 わたしの電話帳、親とルト子くらいしかいませんからね。

今、そこにチビ蔵くんも追加されました。

記念すべき一歩ですよ、これは。


 それにしても、考えてみれば。

チビ蔵くんの方から番号交換しようと言ってこなかったのは意外ですね。

彼も友達いない族なんでしょうか。


 人は同じ匂いをもつ人間に惹かれるといいます。

あるいはそうなのかもしれません。


「ありがとう、ハヤト君。

おかげでチビ蔵くんの追跡ができそうだわ」


「いやいや。

しかし追跡とはおだやかじゃないね。

いくら友達いないからって、ストーカーになってはいけないよ」


 失敬な。



「ハヤトッ…!!!」



 女の声。


 振り向くと、そこにはルト子がいました。


「どうしてその女と話してるのよ…!!?」


「え?」


「その女に近づいちゃダメって言ったでしょ!!!?」


 ルト子が鬼のような形相でわたしを指差します。


「殴って」


「へ?」


「おわびにその女を殴って」


 なにをワケのわからないことを言ってるんでしょうか、コイツは。


 しかし、ハヤト君は。


「………

ああ……」


 ルト子に言われるがまま、わたしの胸ぐらをつかんできます。


「ちょッ…」


 そして思いっきり、わたしの頰を引っぱたきました。


「きゃあッ!!!!」


 ガラにもなく女の子らしい声をあげてしまいましたよ。


 まあわざとなんですけどね。

こうすれば周りの人に被害者アピールができるでしょ?


 しかしわたしの努力もむなしく、周りに人は誰もいませんでした。


「ホホホホホホ!」


 ルト子が悪役令嬢よろしくホホホ笑いをしやがっています。

似合わないことこのうえないですが。


 ですが正直、ガマンの限界ですよ、これは。


「ルト子ぉッ!!!!」


 わたしはルト子の胸ぐらにつかみかかりました。


「アンタねー、わたしになんの恨みがあるワケ!!!?

わたしアンタになんかした!!!?」


「別に…してないけど」


「じゃあなんなのよ、アンタはッ!!!!?」


「してないけど!!!

アンタ一挙手一投足がイチイチむかつくのよッ!!!!」


「ハァ!!!?」


「アンタのすべてがあたしを見下してんの!!!!」


 見下す?

なにを言っているのでしょうか、ルト子は。


「な〜にが“すべてにおいて平均点”よバカにして!!!!

アンタは…!!

アンタは本当は…!!!」


「やめるんだ!!!

かわいい女の子同士で争うなんて、あっちゃいけない!!!」


 ハヤト君がナイト面して割りこんできました。


「元はといえば、ハヤト君がわたしをぶったからでしょ!!!?」


「いやッ!!

…あー、そうなんだけど。

え、なんでぶったんだろう、俺」


「…ハヤト君。

アンタ、アタマ大丈夫?」


「うーん、自分でもあまり大丈夫じゃない気がする…

性病でも移されたかな?

正直心当たりがありすぎて…」


 下半身がゆるい人は大変ですね。


「…ふん。

いくわよッ、ハヤト!!!」


「あ、ああ…」


 ルト子はハヤト君を引き連れて去っていきました。


 いくらイケメンでも、性病患者になっちゃおしまいですね。

相手には気をつけなければなりません。


 やはり、お相手は童貞に限りますね!!

わたしは“童貞厨”を貫くのだ!!!




──────




 一息ついたので、わたしはチビ蔵くんに電話してみることにしました。


プルルルルル…

プルルルルル…


 出ませんね…

まあそんな気はしていましたが。


 わたしの手元には、ハヤト君に渡された、チビ蔵くん家の住所があります。


 …これは、行ってみるしかないですかね!


 正直、行動派すぎる自分にとまどっていますが、もちろんこんなのは気まぐれです。


 気まぐれですよ!!!





────────





 チビ蔵くんの家は──


 想像以上に、小さくて、ボロい──


 “バラック小屋”でした。


 え、ていうかバラック小屋って何?

なんなの、このいかにも“とりあえず作りました”みたいなのは?


 とても金持ちそうだとは思ってなかったけど、いくらなんでもこれは…


 チビ蔵くん、アンタ、いったい…



 ピンポンなどという気のきいたのはもちろん付いてなかったので、わたしはドアをドンドンしてみました。


 …出ません。


 一応、3分くらいは待ってみましょうかね。



 ──出ません。


 いないのかな?


「おーい、チビ蔵くん、出ろー」


 なんとなく声を出しながら、わたしはドアノブを回してみました。


 開きました。


「…あれ?」


 開いちゃいましたよ?


 カギかけてなかったんですかね?

不用心だなあ。


 まあこれ幸い、わたしは中に入ってみることにしました。




 ──臭い


 家の中に踏みこんで、まず最初に感じたのはそれです。


 この、いやに甘ったるい匂い…

最近、どこかで嗅いだような?


 その甘い匂いの中に、もっとずっと嫌な、そして強烈な“匂い”が混じっている気もします。


 この匂いは……

なんなんだろう……


 なんだかすごーく嫌な感じがしますが、わたしは奥に進んでみることにしました。


 今は昼間ではありますが、なにぶん窓がほとんどないもので薄暗いです。 


 いや、家というより…

“部屋”といった方がいいかな? 広さ的に。


 本当に、ちっぽけなバラック小屋ですよ。



 モノはあまりない感じですかね。


 といっても、流し台の近くに、洗って乾かしてある食器類、だとか──

軽く乱れた布団、だとか──

生活臭はあります。


 そう──

“まだ住み始めたばかり”

という感じですかね?


 チビ蔵くん、アンタ、いったい──



 部屋をひととおり見回してみましたが、チビ蔵くんはいない感じです。

特に、興味をひくモノもないですね。


 無駄足だったか──


 ただ気になるのは、この匂いがなんなのかということですね。


 まあ、考えてもわからないです。

あまり人の家を荒らすのもなんですし、帰りましょう。


 わたしは、入ってきたドアの方を向きました。


 ──んん?


 開きっぱなしのドアの影に、何かが見える気がします。


 あれは──


 “人の手”?


 ドクン


 心臓が高鳴ります


 そうです──

この部屋で唯一、“ドアの影”だけはちゃんと見ていなかったんです。


 ドアを開けっぱなしにして、そのまま入ってきましたからね。


 ドアに近づいてみます。


 …やっぱり、人の手のように見えます。


 チビ蔵くんが寝ているんでしょうか?

──こんなところで?


 ドクン

 ドクン


 ──わたしは、ドアノブをつかんで。


 ゆっくりと、引いていきました。


 そこにいたのは───


 眼球を飛び出させ、口を叫んだようにしたまま、死んでいる──



 『ジェシカ』だったのです───



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