第4話 告白されました
ようやく下校時間になりました。
まったく、ひどい1日でしたね。
わたしは下駄箱を開けます。
「ん?」
こ、これはッ…!!
そこに入っていたモノは───
………………
30分後。
わたしは、校舎裏で突っ立っていました。
「………」
ハァ…何をしているのでしょう、わたしは。
下駄箱に入っていたのは、“ラブレター”でした。
『貴女のことが好きです!!
校舎裏で待ってます!!!」
って感じの。
まあそのわりに誰もいないんですけどね。
あんなことがあった後ですからね。
ルト子たちの悪質なイタズラの可能性が濃厚でしょう。
いや、そうに違いありません。
脇役の中の脇役であるわたしが、ラブレターをもらうなどありえませんから。
今ごろ、こうしてマヌケに待ちぼうけしているわたしを見て、嗤っているのではないでしょうか。
ホラ、今にもそこの物陰から、嫌なニヤニヤ笑いを浮かべたルト子が───
早く帰るべきです。
これ以上ここにいても、さらに不愉快な嫌がらせが降り注ぐだけでしょう。
「………」
それなのに。
なぜ、わたしは───
「モブ子さん!!! すいません!!!」
まだ幼さを残した男の子の声。
校舎の方から息を切らせながら走ってきたのは、今どきめずらしいマルコメ君のような男の子でした。
「授業中モブ子さんのこと考えてたらうわの空になって、説教くらってて…」
彼が新手のルト子の刺客でしょうか。
「で、でも待っててくれたんですね…
よかった…」
そんなあどけない顔をしてもだまされませんよ。
「それで、何を企んでるんです?」
「はい?」
「ルト子に何を命令されたんですか?」
「ルト子? 何を言ってるからわからないですが、ボクは…」
マルコメ君がピンと背筋を伸ばしました。
「ボクはチ、『チビ蔵』っていいます!!!
ずっとモブ子さんにあこがれていました!!!」
チビ蔵? またスゴイ名前ですね。親の顔を見てみたいです。
彼がクソチビなのは名前の呪いか何かでしょうか。
ふむ
「わたしなんかのどこがいいんです?」
「それは…モブ子さんの。
密かに顔面偏差値高いけどスクールカースト低めでボクでも何とかなりそうなところです…」
大変動機が明確でよろしいですね。
少なくとも、ルト子の刺客でないことはわかりました。
彼の言葉は、非モテ男子の生の欲望に満ちています。
偽りではありえないでしょう。
わたしはクスリと笑って、
「チョロそうで悪かったわねー」
「い、いえ、そういう意味ではなくて!!!」
そういう意味でしょ
「──それに…」
と、マルコメ君あらためチビ蔵くん。
「友達いなくても、全てにおいて平均点でも…
いつでもそれがどうしたと堂々としてるモブ子さんが、最高にカッコいいから…」
一拍
「だからボクは、モブ子さんが好きなんですッ!!!!!」
「───……」
ほー。
彼はなかなか女を見る眼があるかもしれませんね。
まあ、わたしは友達がいないワケじゃないけど。
いや、いなくなったか。
なんかトチ狂ったし、ルト子。
「だから、その……
ボクと……」
顔を真っ赤にしたチビ蔵くんが、強く視線を上げます。
「──ボクと、付き合ってください!!!!!」
「断る」
……………
「ええ〜……」
「悪いんだけど、わたし、ラブコメの主役みたいなことやりたくない人だからさあ〜」
そこは断じてゆずれないところですね!
「そんなあ〜……」
………
ま、でも。
「友達からなら、始めてもいいけど」
わたしは手を差し出します。
「………!
は、はい!!!」
チビ蔵くんも握り返してきました。
こうして見ると、本当に小さいですねえ〜、この子。
わたしも162cmで特に大きくはないのですが、そのわたしから見ても頭ひとつ分は小さいです。
手も、まるで子供みたいですね。
…でも、温かい。
あ〜あ、ベタなことしてるなあ〜、わたし。
いかん、いかんぞ!
こんなのは脇役らしくない!!
…それでも。
今は。今だけは。
そういう“気分”だったんです。
「じゃ、今日はありがとうございました!!
ボクは必ず、友達から恋人へと進化してみせますよ!!!」
そういって、嬉しそうにチビ蔵くんは去っていきました。
『友達から始めよう』なんて体のいい断り文句に決まっているのに。
ずいぶんピュアな人ですねえ。
そう、断り文句ですよ。
わたし、こうみえて男性に求める理想は高いですから。
あんなちんちくりんな子と付き合うなんてありえません。
………
……でも……
チビ蔵くんと握り合った手がまだ温かくて。
つい、顔がほころんでしまいます。
「ふふ……」
「ずいぶん楽しそうねえ〜、モブ子?」
気づけば、わたしのすぐ横には。
「ルト子…!!」
嫌な笑いを浮かべたルト子が立っていました。
「こんなところで…何を…」
「もちろん、マヌケに待ちぼうけくってるアンタをニヤニヤ笑いながら見ていたのよ」
と、ニヤニヤ笑いながら言うルト子。
「ああ〜、心配しないで。
別にあのチビ、あたしの差し金とかじゃないから」
「そんなことは知ってる」
「へえ〜、そう?」
ルト子はバカにしたようにアゴを上げて。
「でも、断っちゃったんだねえ〜
せっかく彼氏いない歴=年齢のモブ子に彼氏が出来るチャンスだったのに❤︎」
「そういうの興味ないし」
「じゃあ、あたしがもらっちゃっていい?」
………
「…は?」
「興味ないんでしょ?
じゃあ、あたしのモノにしちゃってもいいよね?」
何をいっているの…
この女は…
「アンタ…
ハヤト君と付き合ってるんじゃ…」
「ああ、アレ? まあ、そうなんだけどね。
でも、カレシって出来るだけたくさんいた方がよくない?
愛されているオトコの数が、オンナとしてのバロメーターっていうか?
アハハ〜」
気持ち悪い。
この世にこんな気持ち悪い女がいるものでしょうか。
すでに0近かったこの女への友情度が、わたしの中でマイナス方向へと急転直下していきます。
「か、勝手にすれば」
わたしは顔をそらしました。
「うん、勝手にさせてもらうよ。
あの子とは友達なんでしょ?
なら、モブ子の許しを得る必要はないもんね」
ルト子が肩をすくめます。
「ま! あたしとモブ子は“親友”だから?
モブ子の彼氏っていうならもちろん手を出したりはしないけど?」
そして、わたしの顔を覗きこんできました。
「…“友達”でいいんだよね? あの子とは」
………
「…あ、あたりまえでしょ
興味ないし」
「そう! それならよかった」
ルト子がわたしに背を向けます。
「じゃ、ハリきってアタックさせてもらうね!
あたし自信あるんだあ〜。
あたしとチビ蔵くんがラブラブになるさま、楽しみにしててね〜❤︎」
そう嗤って。
ルト子は去っていきました。
──────
「〜〜〜〜ッッ!!!!!」
わたしは、カバンを思いきり地面へと叩きつけました。
そのまま、ゲシゲシと激しく踏みつけます。
「関係ないッ…!!!!」
「関係ないのにッ…!!!!」
なんなの…!!!?
この、不快感と……
……“不安”は……!!?