第3話 わがクラスは狂気に満ちて
かれこれ2週間ほど経ちました。
「ジャジャ〜ン!!!
なんとあたしはあ〜、ハヤト君と付き合うことになりましたあ〜!!!」
クラスの前でルト子が調子づいています。
ハヤト君といえばクラス1のイケメンで、クラスの女子の80%くらいはハイエナのごとく狙っている存在です。
そのハヤト君がルト子ごときに落とされようとは…!!?
さすがにクラスはざわついています。特に女子が。
ハイエナ達は抜け駆けするメス犬を許しません。
ましてやそれが、ルト子のような格下となれば…?
亡者たちに袋叩きにされるルト子の姿が目に浮かぶようですね。
楽しみです。
「さっすがルト子さん!!!」
「とってもお似合いですう〜!!!」
んんん?
「ああ〜、おれ密かにルト子さんのこと狙ってたのに〜」
「仕方ねえよ。ルト子さんほどの絶世の美人、おれ達じゃ到底釣り合わねえ」
空耳ですかね?
クラスの奴らがトチ狂っているようにきこえるのですが。
「ルト子ちゃんのこと、ずっといいなって思ってたんだ。
彼女のような素晴らしい女性と付き合えるなんて、本当に夢のようだよ!!」
ハヤト君も顔を赤らめながらおかしなことを言っています。
体を寄せあうルト子とハヤト君を、なごやかに祝福するクラスメート連中。
「みんなありがとう!!!
やっぱりウチのクラスは“最高”だよ!!!」
「「ウオオオオオーーー!!!!!」」
クラスのボルテージが熱波のごとく高まります。
何なんですかねこれは。
「ウチのクラスが最高なのはすべてルト子様のご指導のたまものです!!!
ルト子様が最高ですゥ〜!!!!」
ジェシカがむせび泣きながらルト子を崇めたてまつります。
しばらく前からなぜかルト子の家来みたいになってるんですよね、彼女。
ていうか様って何?
おかしいのは名前だけにしてほしいものです。
教室はむせかえるような甘ったるい匂いで満ちています。
いったいなんの匂いなんですかねこれ。
しばらく前からだんだん強くなります。
正直耐えられません。
頭のおかしいクラスメートに、嫌な匂い…
まったくやってられませんよ。
学校やめようかな。
「ハヤト君…愛してる」
「俺も……愛してる……」
クラスメートの面前で、ルト子とハヤト君が淫らに絡まりあい、熱い口づけを交わしました
「「キャアーーー!!!!!」」
「「ウッヒョオオーーー!!!!!」」
熱狂のるつぼに包まれるクラスメート達。
ハァ…つきあいきれん。
「モブ子ちゃん」
気づくと、ルト子が目の前にいました。
ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら、机に座っているわたしを見下ろしています。
「ゴメンね〜、ハヤト君のこと取っちゃって❤︎」
ルト子が横にいるハヤト君の顎をクイッと上げます。
「別に…興味ないし」
「またまたあ〜。
ハヤト君のこと、キレイな顔してていいよね〜とか言ってたクセに♪」
「………」
ルト子
わたしは目の前の、一応友人であった存在を見上げます。
…“女”になった
趣味の悪いメガネに、モサモサヘアーの、典型的オタスタイルだったクセに。
今は可愛らしくパーマをかけていたりして。
眼はコンタクトにしたのかな?
女の子らしい、いい匂いがする気もします。
たかだか1、2週間で、人はここまで変わるモノでしょうか。
「そりゃあ顔はいいけど。
実際付き合うとかめんどくさいし」
「えっ、モブ子ちゃん俺のことキレイって言ってたのかい?
それは気持ち悪いなあ」
「モブ子はこう見えてむっつりスケベだからね〜」
殺していいですか?
「ハァ…ラブラブで結構なことですね。
ウザいから消えてよ…ウグッ!!?」
いきなりジェシカがつかみかかってきました。
「このメスブスがあ〜〜ッッ!!!!??
ルト子様に向かってなんだその口のきき方はああ〜〜〜ッッ!!!!!??」
ムワッと、ジェシカの体から酷い悪臭がたちこめてきます。
なに、この女…臭い!!!!
この甘ったるすぎる匂い…香水?
ケバ女だとは思ってたけど、どんだけ香水つけてんのよ!!?
教室に充満する、嫌な匂いの原因はこの女だったのか…
「臭いッ…離せよ!!!」
わたしはジェシカを思いきり突き飛ばしました。
バシャン!!と水音をたててジェシカが倒れこみます。
しかしすぐにありえない動きで跳ね起きてきて、わたしの首を絞めてきました。
「うぎッ…!!!?」
「あびゃびびぇびゃびゃ〜〜〜ッッ!!!!!??」
なッ、なんてチカラ…!!!
ホントに殺す気ッ!!!?
よく見ると、ジェシカはわたしを見ていません
その今にも飛び出そうな眼球はあさっての方向を向いて、口角からは泡がブクブクと吹き出しています。
「ぎょぎょぎぇぎぇぎゃ〜〜ッッ!!!!!??」
なに、この女…アタマおかしいの!!!!?
「うぎィッ……カハッ…!!!?」
息ができないッ…!!!
こッ、こいつッ…!!!
「やめなさい、ジェシカ」
ルト子が言うと、ジェシカの手がスゥッと離れます。
わたしはなんとか一息つきました。
「カハッ…ハァッ……」
「暴力はダメでしょ〜。
いくら嫉妬に狂ったぼっち女相手でもさあ〜」
クラスがドッと笑いに包まれます。
「ゴメンねモブ子〜。
コイツちょっとアタマ弱くて。
…ジェシカ、ゴメンなさいしなさい」
「はひゃ〜」
ジェシカがルト子の前に跪き、その靴をぺちゃぺちゃと舐めまわします。
その異様な光景に、さすがのわたしも声が出ません。
ルト子はまるでイッたように頰を上気させています。
そしてゴミのように、ジェシカの顔面をつま先で蹴飛ばしました。
哀れ、顔面のひしゃげたジェシカを見下ろして。
…ポツリと一言。
「そろそろ“限界”か。コイツも」