第2話 グレイ森の洋館
わたしはルト子ちゃん達に連れられて、グレイ森にやってきました。
…んんん?
「アンタん家に行くんじゃなかったの?」
「だから、このグレイ森に引っ越したのよ」
またおかしな所に引っ越したものですねえ。
オカルトマニアが高じての狂気でしょうか?
森は鬱蒼として、おぞましい気配に包まれています。
このグレイ森では、1年に1回くらいは埋め立て死体が見つかるそうです。
首吊りなど毎月の勢いだとか。
富士の樹海も真っ青ですね。
「おかしくない?
一昨日、グレイ森に行ってみようとか言ってなかった?」
「………」
ルト子ちゃんが押し黙りました。
「おーい」
ルト子ちゃんは黙々と歩いています。
前を歩いているのでその表情は見えません。
「…ごめんね」
「ん?」
「あたし、嘘ついてた」
ルト子ちゃんが振り返り、ペロッと舌を出しました。
「“グレイ森の洋館”って、ホントはあたしん家なの。
すごく雰囲気ある家だからさ、モブ子ちゃんを驚かせてやろうと思って。
色々と仕掛けも用意してたんだけど」
「ドッキリ仕掛けようとしてたワケ?」
「そうそう。まあ事なかれのモブ子ちゃんには通じなかったけど」
「ふーん…」
そういえば、ルト子ちゃんには何度かそういうイタズラされたことがありました。
まったく、しょうがない人ですね。
それで友達やめないのなんてわたしくらいですよ。
「もうそういうことする気はないから安心して?
こういうのってネタばらしちゃったら意味ないしね!」
「たしかに」
これで納得しました。
疑問が晴れると、こころなしか不気味な森も明るく見える気がします。
「ふんふんふふ〜ん♪」
わたしは鼻歌を歌い出しました。
疑問が解けるのって、とっても気持ちがいいモノですからね。
謎は全て解けた!!!
アハハハハ〜。
──が、すぐにやめました。
…悪寒がしたので。
「…見えてきたわ」
ルト子ちゃんの視線の先には──
「あれが、あたしの新しい“お家”よ……」
──それは、『洋館』でした。
洋館ですが──
「大きい──」
そう、つい口に出てしまいます。
思った以上に大きいです。
まるで、ゲームなんかによく出てくる“ドラキュラ城”のような───
いや、本当に城ほど大きいワケはないんです。
でも、そう“感じさせる”モノがある。
森にただよう瘴気を、さらに一点に凝縮したような──。
そんな、“漆黒の気配”が起こす…錯覚なのでしょうか?
…空が、どんよりと曇っている気がします。今日は晴れていたハズですが──
「さあ、モブ子ちゃん──」
ルト子ちゃんが、満面の笑顔で微笑みます。
「──入って?」
「あ、じゃあわたしはこれで」
「ハァ!!?」
わたしは洋館に背を向け、歩きだしました。
「ちょっと、モブ子ちゃん!!」
「なに?」
「あたしの家にきてくれるって言ったじゃない!!!」
「だから、こうして来たじゃないの。家も見た。これ以上なにか?」
「いや、ここまで来たなら入ってくれても──」
「断る」
冗談じゃないですよ、こんな怪奇極まる館に突入するなんて。
そんなことをしたら、まるで“ホラーものの主人公”みたいになってしまうじゃないですか。
わたしは絶対に主人公らしいことはしないのです。“生涯脇役”が信条なので!
「そんなこといわないで入れよォ〜!!!」
ジェシカ一派がゾンビのようにつかみかかってきました。
気持ち悪いのでサッと避けます。
「それじゃあ、また明日。
なかなかホラーチックな体験ができたけど、オカルト趣味もほどほどにね」
わたしは歩きだしました。
「モブ子ちゃ〜ん、そんなこと言わないでさァ〜」
ルト子ちゃんが何か言ってますが、わたしは構わず歩きます。
だんだんルト子ちゃんの声が小さくなっていきます。
「モブ子ちゃ〜〜ん……」
ルト子ちゃんの声が聞こえなくなりました。
──────
「モォォブゥゥ子ぉおおぉぉ!!!!!!!!」
森をまっぷたつに切り裂くような叫び声。
わたしは、さすがに振り返りました。
ルト子ちゃんの目の色が青黒く変わっています。いや、“比喩ではなく”。
「アンタはッッ…!!!!! アンタはそうやって、いつもいつもッッ…!!!!!!」
ルト子ちゃんが実際きこえるくらい歯をギシリギシリと鳴らし、ヨダレをダラダラと垂らします。
汚いですね……
…いや…
「……まあいいわ……
今日は帰るといいわ…
……でも……」
ルト子ちゃんが満面の笑顔で笑います。ただし、眼を除いて
「絶対に逃げられないから。
…“あたし達”からは❤︎」
「………」
わたしは答えず、帰路につきました。
まったく、なんなんでしょうね、彼女は。
そんなにドッキリ失敗したのが不満なんでしょうか?
オカルトマニアの末路という感じですね。救えないです。
……………
──本当に?
「………」
何か、嫌な感じがしないでもないのですが──
まあ、気のせいでしょう。
わたしは“脇役”ですからね。怪奇的事件など降りかかるハズが無いのです。
…強がってなんかいないですよ。